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魔女の森  作者: おはなし
出逢いの森
6/21

-5- 魔法の力

 恐ろしいと思ったのは一瞬で、すぐに高揚感に変わった。

 まるで夢のようだった。



「ここを使ってください」

 案内されたのは、小屋の中にあるひとつの部屋だった。

 木で造られた小屋は防寒性が高く、この雪の積もる真冬でも、服一枚で充分な暖かさを保っている。メルが言うには、これはアフィージャたちが小屋を造るときにかけた魔法のせいなのだという。


 アフィージャはアフリアージャには敵わないが、それでも強い魔力を持っていて、その力の悪用を恐れた神話時代のアフリアージャ、フレジャが、この森にそれらを囲ったのだという。

 つまり、"魔女の森"と呼ばれるこの森も、元を辿ればアフィージャやアフリアージャが起源なのだ。初めて聞かされたその話に、イアルとレイは驚嘆した。

 まさか魔法が、こんなにも奥が深いものだとは知らなかったのだ。


 結界についてももちろんのこと、神話の時代にも興味が生まれる。レイは興味津々で、メルの話に耳を傾けた。

「結界は誰が管理しているのですか? まさか悪魔が?」

「はい。この森の悪魔の魔力を集め、結界を構成しているのも、またひとつの悪魔です。わたしも、ごくたまにしか会うことはできません。森の奥深くで、眠っています」


「では、あの唄は? あの唄は、どのような意味をもっているのですか?」

 矢継ぎ早に訊ねるレイに嫌なそぶりも見せず質問に答えていたメルが、少し返答に戸惑った。

「意味? ……唄に意味なんてありませんよ。ただ、聴いてくれるから唄っているだけです」

「遠耳でしか聴けなかったからな。唄ってくれないか?」

 イアルが願い出ると、メルは目を丸くして驚き、次いで勢いよく首を振った。

「無理です!」

「なぜ?」

「それは……」

 口ごもって視線をさ迷わせる。その仕草が年相応に思えて、イアルは思わず微笑んだ。


 今までの短い時間で知っている彼女は、何か悟っているようで、見た目の割りに大人っぽく見えていたのだ。笑うときも、無邪気に笑うのではなく、どこか遠慮したように笑うのだ。

 ここでメルのそんな可愛らしさが見れて、イアルはさらに詰め寄った。


「悪魔や動物たちには聴かせるのに、なぜ俺には聴かせてくれないんだ?」

「あ、悪魔や動物には、唄の良し悪しをとやかく言われることはないのです。彼らはわたしの唄しか知らないから……。わたしの唄しか聴かせられないのは、申し訳ないけど」

「俺も唄の良し悪しなんて知らないが?」

 メルが椅子から立ち上がる。

「嘘です! イアル殿下の分かりやすいお世辞を聞いても、わたしは嬉しくありません」

「お世辞なんて言わない。嘘も言わない。…そうだな、俺の守護霊に誓おう」

 胸に手を当てて誓いの意を伝えると、メルは驚いた顔をして椅子に座り直した。

「殿下には、守護霊がいらっしゃるのですか?」


 悪魔や魔法が蔓延るこの世の中、己を守護する人ならざるものをもつものは清らかな心を持つものとされる。

 守護するものには数多の種類があり、守護神や守護悪魔、守護天使、守護妖精などさまざまだ。その中でも特に、元人間である守護霊は多くいる。

 死に別れた自分の家族や恋人を守るために、彼らは守護霊となるのだ。


「いや、わからない。俺は魔人だからな。いると言われても全くわからないんだ。ほら、魔人は生来、霊を邪険にするものだから」

「ええ。魔人と霊は相容れないもの。なぜならそもそもの生きる世界が違うから。ただ、研究者たちはその生きる世界の違いもよくわかっていないのです。高名な能力者に見ていただきましたが、イアル様には守護霊がついているとのことでした」

「魔女どのにはみえるか?」

 メルは首を横に振った。

「わたしも、一応魔人ですから、できません」


「どんな魔法を使うのですか? 見てみたいのですが」

 その要望をメルはあっさりと承諾して、どのくらいのものにすればいいかを訊ねた。レイは少し思案して。

「あなたが今、出来る中で最高のものを」

「……ええと。守護魔法は使えますか?」

 唐突な問いかけに、一瞬呆け、頷いた。

「え、ええ。一応」

 頷いた二人に、メルがほっとしたように胸を撫で下ろす。

「よかった。では、少し守護魔法をかけていてください。わたしはそこまで手が回らないと思うので」


 戸惑いながらも言われた通り、イアルが二人を守るように守護魔法をかけると、透明な膜が二人を覆った。

 それを確かめたメルは、両手を床に構え、何事か呪文を唱える。

 それはたった一言二言。だが、巻き起こった衝撃は、それどころではなかった。


 床から生えてきた蕀の茎。人一人分の太さを持つそれが、何本も絡み付いて伸びていく。あっという間に二階も突き抜け、メルがまた一言唱えて、茎は成長を止めた。


 二人が呆然とその大木を見上げる中、メルは納得がいかないような顔で、自分の手を見ていた。


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