-2- 魔女の唄
その声は、広く深く、心を染めた。
オネアに付いて行こう、とイアルが提案したとき、レイは意味がわからなかった。
何故なら、鳥を追ったところで得られるものは何もないと思ったからだ。
しかしイアルは急いで身支度を整えている。訝しく思いながらも、主に従わないわけにもいかず、彼も飲み物などを鞄の中に突っ込んで片付けた。
立ち上がったイアルは、一心にオネアを見上げている。行動ひとつ見落とさないように。
オネアがパッと飛び立つと、彼も動き出した。雪に足を取られながらも、一心不乱に鳥を追う。
鳥を追った先に何が待っているのかはわからなかったが、主に付いて行けば間違いはないのだから、と子どものようにキラキラとした瞳でオネアを見つめる彼を追った。
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唐突に、イアルは立ち止まった。オネアは飛び続けているのにも関わらず。
「イアル様?」
「しっ! 聞こえるか?」
声を落として、耳を澄ますよう告げる。言われた通り大人しく従えば、微かに、だが確実に、声が聞こえてきた。
こんな雪の積もった森の中に、だ。それに声からして、まだ若い少女だ。
何故、とレイは驚愕するが、イアルはただ声に耳を傾けている。
「レイ、判るか。これはただの声じゃない」
「ええ、唄、ですね」
透き通るような声は、何かを訴えるように切実な響きを持って、唄っている。
もっと近くで聞きたいと思い、イアルはさらに奥へ進んで行く。
このとき既に、彼は魅了されていた。この森の主に。
奥へ奥へと進めば、その声は一層魅惑的に聞こえた。思わず聞き惚れてしまいそうなほど。声だけで、恋に落ちてしまう。
不思議な思いで草木を掻き分けていれば、突然拓けた場所に出た。それと同時に唄も止まる。
終わってしまった唄に残念な気持ちになりながら、顔を上げて息を呑んだ。
そこには、ただひたすらに美しい少女と、動物たち、おぞましい姿を持つ悪魔たちがいた。