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魔女の森  作者: おはなし
出逢いの森
2/21

-1- 森の中

 探すために、遥か遠くへ旅に出た。



 王国の端の端。隣国との国境近くの森の中。

 枯れた草木の上には白銀の雪が積もり、不気味さを見事に緩和している。陽光も射さない森の中に、さ迷う二人の青年。


 先導するのは、雪にも負けないほどの輝きを放つ金髪金眼の青年。すれ違えば振り返って転びそうなほど、見目の整った顔立ちをしていた。しかしその見た目の割に、身に纏う服装は地味の一言に尽きる。

 金髪の青年に付いて行くもう一人は、黒髪に青い瞳を持つ、これまた美しい青年だった。金髪の青年ほど地味な服装ではないものの、美しい見た目を台無しにする格好であることは間違いなかった。


 行き先は決まっているのか、雪道を行く足取りに迷いはなく、慣れた様子で進んでいく。いやむしろ、決まっていないからこそ迷いがないのか。自由にあちらこちらに向かおうとする金髪の青年を嗜める黒髪の青年も、特に道を確認している様子はない。


「レイ、ここは森のどこに位置しているんだろう」

 楽しげに金髪の青年は、レイと呼ばれた黒髪の青年に問いかけた。

「知るわけないでしょう。誰かが地図を見て行くのはつまらないとか訳のわからないこと言って、方位磁石ひとつで森へ入るからでしょうけど」

「はははははは、楽しいな」

「頭おかしくなったんですか?」

 気味の悪いものを見るような目で見てくるレイに、金髪の青年は笑った。


 長い付き合いになるが、嫌味を言わないレイを金髪の青年ことイアル・レアルドは知らなかった。

 仕えている立場のはずなのに、全くそれを顧みない彼は憎らしくあり、好ましくもあった。本心を隠そうともしない口と顔。そのくせ嘘は上手くて、賭け事好き。敵にしておくのは勿体なく思って、彼をこちら側に付けたのはやはり正解だったようだ。

 何だかんだ言いながらも、結局付き合ってくれる。

 今、この上なく楽しい。


「そろそろ昼にしましょう。いい加減」

「そうだな、服も乾かしたいし。この辺りで一休みしよう」

 そう言って、近くにあった大木の根本に座り、荷物を下ろす。

 レイはため息を吐いて、向かい側に腰を降ろした。


「全く、あなたは何をお考えですか」


 鞄から出したサンドイッチを食べながら、レイは唐突に苦言を呈した。それにイアルはまたか、と苦笑を浮かべた。

 腰を落ち着けさせて食事が始まると、彼は本音をこぼし出す。まるでいつもキンキンに怒っている、邸の執事のように。それがたまに、というところが、多少の救いではあるのだが。


 イアルはサンドイッチにかぶりつきながら―――それでも上品に―――レイの苦言を聞いた。

「大体、夜中に部屋を抜け出す愚か者がいますか? ……いましたね、目の前に」

「つまりは俺を愚か者、と」

「この間だって、兄上様の婚約者様と密会など…」

「してないって。あちらから言い寄ってきたんだから」

 言われて、イアルは実兄のやたら色気のある婚約者を思い浮かべた。


 豊満な体つきと鼻にかかる声ですり寄ってきた彼女を思い出すと、毎回気分が悪くなる。それは気が滅入るほどの強い香水の匂いを思い出すからだろうか。


「やめてくれ。その話はもう出すな。気分が悪くなる」

「そうですか」


 素っ気なく言い返すと、また違う話題で責めてくる。

 次は会議をサボっただとか、悪戯して地方に飛ばされた話だとかを蒸し返してきた。

 いい加減聞き飽きたころ、上空から鳥の鳴き声が聞こえてきたので、レイの口が止まる。


 その鳥は光の加減で色が変わる美しい羽を持っていて、その鳴き声は甲高く、あまり響きの良いものではないのだが、別段珍しくもない。――――この季節でなければ。


「何故オネアが冬に…」

「わからない。だが、ひとつわかることがある」


 何ですか、とばかりにレイが見てくるのに気付かないまま、忙しなく飛び回るオネアを見上げながら告げた。


「魔女が近い」



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