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-0- 序章
最初に異変に気づいたのは、屋敷女中だった。
夜になるといつもなら扉の隙間から漏れ出ている明かりが、今日に限って出ていないのだ。
その部屋の主は子どものように悪戯好きで、よく周りを困らせているけれど、人が寝静まるまで仕事をするくらいには真面目だった。
不思議に思って彼女は扉に近づいた。
「殿下、どうかなさいましたか。殿下」
返事がない。屋敷女中は、扉の僅かな隙間から部屋の中を覗いた。
ひたすら暗い部屋の中。物音ひとつしない。
「殿下。……殿下?」
頬を冷たい風が撫でた。その違和感に眉をひそめる。
普通、この季節に窓を開けることは少ない。ましてやこの時間だ。朝目覚める頃には凍えてしまう。
まさか―――――。
「殿下っ!」
寝台には目もくれず通りすぎて窓に駆け寄ると、寝台から剥ぎ取られたシーツが窓枠にしっかりと結びつけられ、外側に垂れ下がっているのがわかった。
屋敷女中は唇をわなわなと開き、大きく息を吸い込んで盛大に悲鳴をあげた。