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穢れ神と鬼  作者: 山神賢太郎
7月20日
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7月20日 理屈男と喫茶店

 俺が自宅に戻ったのは、昼1時過ぎ。

 昼ご飯を食べ、自室で昨日ジジイから受け取った書物に目を通すことにした。

 内容を要約すると、穢れ神は五体存在し、その全てが獣の姿をしている。




 一体目は亀。

 二体目は蛇。

 三体目は犬。

 四体目は猪。

 五体目は狸。



 ということだ。



 しかし、この書物にはそれ以外詳しいことが書かれていなかった。

 どこに穢れ神がいるのかもわからないし、倒し方も載っていなかった。

 さてどうやって探したものか。



 二体目は蛇の穢れ神だが、どこにいるのだろうか。

 確か、白蛇を祀っている杖立神社がこの町のどこかにあったはずだが、穢れ神とは言えないしな。



 それに、角山公園は別に亀を祀ってたりしていないしな。

 本当にどうすればいいのかわからない。



 俺は、チラリと唯一の望みであるアキラを見たが、ポテトチップスを食いながら俺の漫画本を読んでいて、なにかを知っている風でもないと思った。だが、聞くだけ聞いてみることにする。


「アキラ、何か穢れ神の手掛かりはないのか? 」

「無いな。私は穢れ神を倒すためにここにいるわけじゃないから、何も知らないぞ」


 やはり、使えなかったか。


「役に立たず、すまんな」

「まあ、そう拗ねるなよ」


 しかし、どうすれば……。

 俺はここである一人の男のことを思い出す。



 その男は、学園F・N・F怪明部部長”中村隆司(なかむらりゅうじ)”だ。

 奴の元にはオカルトな噂話がかなり寄せられているはずだ。なんたって、怪談話やオカルトを全て科学と知識だけで証明する男なのだから。


「なんだその男は、私の存在を全否定だな」

「まあ、実際のところそういう話は8割、9割は幽霊とかの仕業じゃないしな」



「幽霊自体人目に触れるのを嫌がる奴が多いしな、だから探しづらい。それで、これからそいつに会うというのか? 」

「まあ、会うかどうかは連絡してみないことには」


 俺は携帯を取り出し、中村へ電話をかけた。




 ―――Trrrrrガチャ



『おお、鬼一君。君から電話があるなんて驚きだ。なにか俺が必要なことでもあったのか』


「ああ、少し話し聞きたいことがあってな」


『今ちょっと手が離せない用事をしているところだから、三時に学校駅前の喫茶店で待ち合わせをしようではないか』


「わかった。すまないな」


『なあに、気にすることはない、俺たちは“親友”だからな』


 “親友”という言葉に違和感を感じつつも俺は電話を切った。

 そして、俺は時間通りに喫茶店へと向かった。

 五分後、遅れて汗でびしょびしょになっている中村がやってきた。


「遅れて申し訳ない」

「いや大丈夫だ」


 中村はアイスコーヒを頼むとなにも入れずにブラックのまま一気に飲み干した。だいぶ喉が渇いていたのだろう、飲み干した後で苦そうな顔をしていた。焦らずガムシロップを入れればいいのに。


 少しバツの悪い顔をしながら中村が話しかけた。


「それでどうしたんだい」

「少しばかり、聞きたいことがあって」

「なんだい? 」


 ここまできてなんだが俺は渋っていた。果たしてこいつを頼っていいのだろうか。なにか面倒くさいことにならないだろうか。


 しかし、来てしまったモノはしょうがないしな。


「最近この近辺で不思議な話は聞かないか? 」

「不思議な話? そんなもの俺のもとに来る依頼はいつも不思議なものだが」



「それもそうだな。じゃあ動物の化物を見たという話はどうだ」

「動物な~? あるにはあるが……」

「どんな話だ? 」


「角山公園で亀が……」


「それは解決した」

「えっ解決したのかよ。なんだよ。なにが原因だったんだ」

「結果はお前が望まない方だよ」


「そうか、幽霊の仕業ということか」

「やはり信じてないだろう」

「そりゃあ信じないよ。俺が実際見たわけじゃないからな」


「お前が何を信じようが信じまいが俺には関係ないんだが、他にはないのか」

「なにか癪に障る言い方だな。俺が幽霊などというオカルトな物を信じないのは証明されていないからだ」 


 やばいこの話は長くなりそうだ。


「幽霊がいるかどうかなんていうのは悪魔の証明だ。証明することが難しい。しかし、俺はそういう不可視の物が存在するのか存在しないのか証明するためにこの活動をしている。砂の中にダイヤモンドを見つけるようなことだ。ほぼ無理だ。しかし、そんな無謀なことだが俺はやるのだ。なぜなら、それこそが俺の人生だからだ」



「お前は、幽霊がいる方がいいのか幽霊がいない方がいいのかどっちなんだ」

「どっちでもないし、どっちでもある」


「はっ? 」


「まず、幽霊というものは普通の人間には見えない。しかし、君にはその幽霊というものが見えるのだろう。これはどういうことか? 見える人と見えない人がいるということは見える人に原因があるのではないかと俺は考えるのだ。どういう原因が考えられるか。それは普通の人には見えない光の波長を見ることができる。わかりやすく言うと紫外線だとか遠赤外線とかのそういう、不可視光線を見ることができる可能性が考えられる。しかし、君には幽霊以外の他の景色の見え方は俺たちと同じなのだろう。ということは、いろいろな要因が混ざりあった結果幽霊が見えるというのが考えられるのではないだろうか」



 やばい話が長すぎて半分位しかわからなかった。


「確かにな~」


 とりあえず相槌を打っておこう。


「では逆にだ、幽霊という存在を考えてみようではないか。まず、幽霊というものは本当に死んだ人がなるものなのだろうか? 」


「幽霊は死んだ人がなるものだろう。それ以外になにがあるというのだ」


「言葉としての概念ではそうだが……うーん仮に君が見ることができる物を”(エックス)”としよう。Xはどういうものだ? 」


「はっ? 幽霊だろう」

「違う。Xはどういう物でできているのだ」


「モノ? 」


「例えば俺たちはタンパク質だとかそういうのでできているだろう。じゃあXはなにでできているのか。そこが問題だろう」


 確かに考えたこともなかった。幽霊ってどんな物でできているのだろうか。


「確かに、見えると言ってもそこらへんはわからないな。魂というのは答えにもならないだろうしな」


「そうなのだ。Xの存在を証明するためには確実な証拠がないのだ。曖昧な証拠しかないし、真偽がわからない証拠ばかりなのだ。だからこそ確かな証拠を探すのだ。長いこと話したが私はただ単にXがなにかを知りたいのであってそれが幽霊だろうが幽霊じゃなかろうがどっちでもいいのだ」


 つまり、こいつが言いたいのは数学の話だ。Xの答えを出すためには計算式を作らなければならない。しかし、証拠であるAやBといったものが揃っていないが故にXの答えを計算することができない。中村はそのXの計算式を解き、答えがなにかを知りたいだけなのだ。だからこそ、不確かな憶測である答えを信じようとはしないのだと俺は考える。


「そうか。なんか、すまなかったな」

「いや俺も久々に熱く話せたのでよかった。そういや他の情報だったな。うーん。少し待て」


 そう言って携帯を取り出し操作しだした。どうやら依頼を確認しているらしい。


「今のとこそういう依頼は無いな」

「そうか。じゃあ今多い依頼はなんだ? 」


「そうだな。行方不明者の捜索が多いな」

「行方不明者? 」


「ああ、それもここ二、三日の間に依頼が来ているな。場所もバラバラ。でも時間帯はほとんど夜だな」

「それがお前の言うXの仕業なのか。普通に犯罪じゃ」


「だよな。だから俺も手をつけられないしな。けど、俺に依頼をしたということはそういうことなのだろうと思うしな」

「お前はどうしたいんだ」


「依頼を遂行したいとは思うが、こればかりは……」

「まあ、普通に考えれば警察の仕事だわな」


 しかし、行方不明というのは気になるな。もし、角山公園のように結界が弱まっている場所に迷い込んでしまったとしたら帰ってこられるのか? どうなんだアキラ。


「帰ってこられる前に穢れ神の餌になるだろうな」


 じゃあ、もう。


「死んでいる可能性が高いだろうな」


 そうか。やはり調べる必要がありそうだ。


「その依頼俺が受けてもいいか? 」

「君が、どうして? 」


「俺が知りたいことと行方不明者が出たことが同じかも知れないんだ」

「それに関わっているのが動物の化物ということか? 」

「ああそうかもしれない」


「一つ聞きたいんだが、この街でなにが起こっているんだ」

「どうせお前は信じないだろう」

「いや、信じるか信じないかは置いといて単純に知りたいんだよ」


「うーん。簡単に言うとめっちゃ悪い奴が脱獄してきた」

「逆にわかりづらい」


「もっとわかりやすく言うと、悪い神様を封印してたけどその封印が弱くなったんでそいつが暴れだしたって感じかな」


「……」


「やっぱり信じてないだろう? 」


「信じるとか信じないとか以前に意味がわからん。俺の理解の範疇を超えているし、そんな突拍子もないことを信じろという方がおかしい」


 まあ普通はそうだ。それが当たり前だ。俺も信じろとは思わんしな。


「だが、それが原因だっていう可能性はゼロではない。つまり、今現在ちゃんとした原因がわからない以上、それが原因という仮説を取り入れて立証することが望ましいだろうな」


 中村は俺を見てにやりとしていた。


「つまりどういうことだ」


 話が難しくて意味がわからん。


「真偽は問わずそういうものだと今のところは思っておくっということだ」

「とりあえず答えに代入しといてやろうということか? 」

「そういうことだな」


 いつも話がややこしい奴だな。


「でだ、その行方不明者の捜索は俺の依頼だし俺もやることにする」

「なんで、突然やる気になったんだ」


「君の話を聞いて、人外の可能性が高くなったからな。Xの可能性だよ。それならば、この学園F・N・F怪明部の仕事だ。犯人は人かそれとも化物か。楽しくなってきた」


 人が行方不明になっているのにも関わらず、中村は不謹慎なほどに笑っていた。やはり、変わった奴だ。


「じゃあその行方不明者捜索の依頼の情報をくれないか」

「ああいいだろうと言いたいのだが、一つ頼みごとを聞いてくれないだろうか」

「頼みごと? 」


 いやな予感しかしない。


「ああ、ちょっと不思議な依頼があってな。今日もその依頼をしていたのだが、俺にはどうやら解決できそうもないのだ」

「お前が証明もできないだと、それは幽霊の仕業の可能性が高いと? 」



「いやあ、それ以前の問題だ。依頼に書かれていた場所に行ってみたが。そこに何もなかったんだよ」

「何もないなら。ただのイタズラだろう」


 中村のしていることは傍から見ればおかしなことだ。馬鹿にするやつやそれを邪魔しようとする奴がいてもおかしくはない。


 しかし、中村の顔は真剣だった。その依頼が虚偽ではないと信じているといった感じだ。こいつは、証明されているものじゃないと信じないといいながら、自分の直感を信じる節がある。自分でもその矛盾に気づいていて、嫌悪感を抱いている様に見えた。


 少しの間、無言続いた。

 その時間は中村が自己嫌悪と戦っていた時間でもある。その戦いに勝利したのかどうかは分からないが、


「こいつはイタズラじゃないさ」


 と爽やかに言った。


「その根拠は? 」


「依頼内容とその場所の周りがあまりにも正確で信憑性が高い」

 どうやら、自分の直感に動機を付けることで自己嫌悪に勝利したようだ。


「で俺はなにをすればいいんだ」

「それは後でメールで送っておくよ」

「俺が本当にするかもわからないのにか? 」


「君は情報が欲しくて俺に会いにきたんだろ。だから、その依頼が遂行できたら情報を提供しよう。そうしたら、しないわけにはいかないんじゃないのか」


 クソ、ややこしくなってきやがった。俺は、ただ単に早く運命の呪縛から逃れたいだけなのに。

 しかし、その為にはよくわからん依頼をしなければならない。その依頼を受けたくはないが、それが一番の近道なのだから受けざるを得ないではないか。


「わかった、やる」

「やはり君は最高の“親友”だ」



 その時の表情かおを見たのはこれで二度目になる。中村という人間が悪魔よりも悪魔なのではないだろうかと思ってしまうほどの悪い笑顔(かお)をしていた。


「では、そろそろお暇しようかね。後でメールしておくよ。じゃあ」

「じゃあ」


 中村が喫茶店から出るのを確認すると俺は深くため息を吐いた。

 長い長すぎる。やはりあいつと話すのは時間がかかる。それに、やりたくもない仕事が増えてしまった。


「なあ義貫このデラックスチョコレートパフェって言うの頼んでいいか? 」


 ダメです。


「君はケチだなあ」


 後で饅頭買ってやるから。


「なんだよそのお供え物みたいなのは」


 神の使いなんだからお供え物でいいだろうよ。


「私は、パフェが食べたい」


 わかった。だけど俺も食べるからな。


「まあいいだろう」


 俺は渋々小さめのパフェを頼んでやることにした。

 そして、パフェを食べ終わり自宅へと帰ることにした。




 その道中、ケータイにメールが届いた。差出人はやはり、中村からだった。

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