7月20日 お祓いと初代・鬼助
俺は今実家の離れで凛とその友人と一緒にお祓いをしてもらっている。
昨日の穢れ神との戦いで残った、瘴気と穢れを祓うためだ。
しかし、不思議なことに俺の中に残っていた瘴気はほとんどなかった。あれほど、どっぷり瘴気に浸かっていたのに、少しばかりの御神酒で瘴気が消えたとは思えないのだ。
それにしても、このお香の臭いはどうにかならないのだろうか。鼻がひん曲がりそうになるくらい臭いのだが。
それに、足も痛い。正座を考えたやつは馬鹿なんじゃないのか。この座り方は拷問だぞ。
あと何時間すればこの拷問から開放されるのだろうか。
ジジイが何かを読みながら祓串を振っている。まるでメトロノームみたいだ。それによって、睡魔が襲ってきた。ここで寝たら絶対怒られる気がするな。
おい、アキラ俺に何か面白い話をしてくれないか。
「いやちゃんとお祓いしてもらいなさいよ」
だって、我慢できないんだよ。
俺はな病気で点滴打ったとき、暇すぎて点滴を外して勝手に帰った男だぞ。
「それは、最後まで点滴しろよ」
我慢ができない男”義貫”です。
「全然カッコよくないから」
そういえば、あのあとお前があの鳥居を封印したんだよな。
「ああそうだけど、どうした」
いや、また封印が解けることがあるのか気になってな。
「多分あるだろうな。亀を倒し御神体の穢れを除いたところで穢れ神は消滅しないからな」
えっじゃあまたあいつが復活するということか?
「ああそうだろうね。封印は時間と共に弱まっていくし、あの鳥居の中の穢れはだんだん溜まっていくだろう。その度に『鬼助』の名を受け継いだものが封印しているんだろうね」
それが俺の運命ということか、じゃあもう運命から開放されたということか? 普通の男の子に戻っていいんだな。
「ネタが古いんだよ。本当に君は平成生まれなのか? 君の運命はまだ始まったばかりだよ。それに、体に鬼が住んでいる人間が普通なわけないだろ」
始まったばかりということはまた、穢れ神のようなものと戦わないといけないのか。
「そうだろうね。まだ町の空気に穢れが残っている。どこかに封印が解かれた場所があるのかもしれない」
結局普通に夏休みを過ごすこともできないのか。
「まあそれが君の運命なのだろうね」
最悪だ。
とまあこんな絶望的な話をアキラとしているうちにいつの間にかお祓いは終わっていた。
横を見ると正座をしながら可愛い寝顔を見せている凛がいた。
本当に君は俺の心のオアシスだよ。ワンダーウォールだよ。
さて、そんなことよりもジジイに話がある。
それはもちろん俺の体に住む鬼のことについてだ。
「宗徹様、お祓いありがとうございます」
「お礼なんぞいいわ。孫のことじゃぞ、ジジイが何とかするのは当たり前じゃろ」
「ありがとうございます。それより、お話ししたいことが」
「鬼のことかな」
「はい」
「んー。まあ、当人じゃしのう。話さなならんだろうな。ここで話すのはなんじゃ、わしの部屋で話そう」
「わかりました」
俺は、凛と別れたあとジジイに連れられ、ジジイの部屋へとやってきた。
「さて、鬼の話じゃが。単刀直入に言えばわしらの先祖は鬼じゃ」
「えっ鬼」
「そう、初代・鬼一鬼助は鬼じゃった。昔、この神社の裏の山に二人の鬼が住んでいたんじゃ。一人は鬼助でもう一人は巌鬼という鬼じゃった。二人の鬼は人々から迫害されその山で二人でひっそりと暮らしていた。しかし、その噂を聞いた他の村の侍たちが集まり、鬼狩りに来たんじゃ。鬼助たちはその侍たちにより、ひどく痛めつけられ、命からがら逃げてきたのが、その当時の村を治めていた仙石家だった。その当時の当主の娘が鬼助たちを発見し治療を行った。すぐに当主にバレてしまったが、当主は鬼助たちを快く迎え入れ傷が治るまで仙石家で匿っていた。その間も侍が何度も仙石家を訪れたが仙石家は鬼助たちのことを隠し通した。その後、当主の娘が鬼助をいたく気に入り二人は結婚することになったのだ」
「鬼一家と仙石家が仲がいい理由というのはそういうところからだったんですね」
「ああ。まあその時に仙石家当主が鬼助に鬼一という苗字を与えたのじゃ」
「巌鬼はどうなったのですか? 」
「巌鬼はあまり人が好きでなくて仙石家とも距離を置いていたようじゃ。治療が終わるとすぐに山に帰って行った」
「しかし、その話を聞く限りでは鬼助は悪い鬼ではなかったのではないですか? それなら、私の中に住む鬼はなぜあのように禍々しく狂気に満ち溢れていたのでしょうか? 」
「答えは簡単じゃよ。それはお前が瘴気に触れてしまったからじゃ。お前は勘違いしておるようじゃが、鬼はお前自身じゃ」
「俺が鬼」
「ああ。あの時お前はこう思ったんじゃないか? 『この穢れ神を倒し、凛を助けなければ』と」
「はい」
「その純粋な気持ちが瘴気に触れ悪意となり『穢れ神を殺す』という極端な思いに変わり、瘴気によって力を増した鬼の血がお前を鬼へと変えたのじゃ」
「じゃあ瘴気さえあれば私は鬼の力を使うことができるのですね」
「いや、鬼の力には頼るのはやめなさい。鬼の力を使えば鬼に体を乗っ取られてしまう」
「では瘴気に触れず鬼の力を使うことはできないでしょうか? 」
「そんなゲームやアニメみたいにうまい話がある訳無いじゃん。それに、もし使えたとしても瘴気に触れていない鬼の力は弱いぞ。飯食ってない状態で力がでるわけないじゃん」
「そっ、そうですか? 」
「まあ一つだけ方法があるとすれば……」
「えっ、何か方法があるのですか」
「いや無いな」
無いんかい。なんだこのジジイは上げて下げるのだけは本当にやめてほしい。
「ないのですか」
「なんか、どっかの先生みたいにさ、こう片手だけに」
「いやそれはちょっと」
「まあ、封印したわけじゃないからな」
「もうそれ以上は」
「おっそうか。まあ、鬼の力は諸刃の剣じゃ。お前自身を守るためにも使わんほうがいいじゃろ」
「はい、わかりました」
「そういうことじゃから、がんばれや」
「はい」
俺はジジイに一礼し部屋を後にした。
その後、門の前で待っていた凛と一緒に吉崎家へと帰ることにした。
「義兄、おじいちゃんと何話してたの? 」
「いろいろだよ。まあ、一応この神社の後継ぎでもあるからな」
「義兄も大変だね」
「ああ、大変なんだよ。そういえば友達はどうした? 」
「先に帰ってもらったよ。家も近いし」
「ああそうか。それにしても、凛どっか行くときはちゃんと家族に言ってから行けよ」
「だって言ったら絶対行かしてくれないじゃん」
「そりゃ、お前のことを心配してだろ。今回は俺が来て助かったが、俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ」
「私は義兄が来るって信じてるもん。今までもこれからもずっと助けに来てくれるって信じてるよ」
ああ、今なら死んでもいい。
「馬鹿野郎。当たり前だろ」
「うん! 」
神様ありがとう俺はこの日のために生きてきたんだと心から思いました。
「絶対義貫は今私が横にいることを忘れている気がするんだが。人前でイチャコラしないでもらいたいんだが」
ああ、幻聴が聞こえる。もう別にどうでもいいや。
「おい」
その後俺は腕に抱きついた凛と一緒に吉崎家へと帰った。