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穢れ神と鬼  作者: 山神賢太郎
7月31日
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オーガとオーガバスターズ3

 おっと、忘れていたことが一つある。

 俺が彼女を嫌いな理由を、まだ言っていなかった。

 俺の妹、対儺のことだ。

 そのことを話すには、少しばかり昔話をしなければならない。

 


 それは、まだ俺が小学六年生のことである。そして、対儺は小学二年生であった。

 その頃だ。俺がこの鬼一神社の次期当主になるということと、現在やっている穢れ神との戦いを教えられた。まあ実際には、『穢れ神と戦うんだぞ』と教えられたのではなく、『なんかしなくちゃいけないんだぞ』という大雑把に言われただけなのだが。

 まあ、そういうことを言われたのだ。

 そして、この頃からだろう、あの桃侍が俺に敵意を向け始めたのは。

 その敵意持つ原因は、俺が次期当主になるということ。この一点に限る。

 長男というだけで、いつもこの家にいない人間が当主になること。そして、この俺があいつらにとって本当の兄だという認識がなかったこと。そういう原因もあったかもしれない。

 それは、俺にとっても不思議なことだった。俺が物心ついた時には、吉崎家にいたし、その理由も『穢れから守るためだ』、と言われていた。

 しかし、そんなことは何も知らない小学生からすれば、意味のわからないことで、納得することができない。それ以前に俺は『ここが僕の家なんだ』なんて認識をしていた。

 つまり、自分が何者であって、誰の子供であって、どこが本当の家なのか、なんてことを間違った理解をして過ごして生きてきたのだ。

 そこで、自分がこの鬼一神社の次期当主になるんだ、なんてことをはっきりと正確に伝えられたのだ。

 なぜ、自分なのかということが、理解することができなかったのである。

 そして、なぜなのかということを知ることになったのだ。

 鬼の血。

 そんな、バカみたいな話を信じるているのは、この家の現当主であるジジイと俺の両親くらいなものだ。

 俺がその事実を知ったのも、今月になってからだしな。

 ん? ちょっと待て、じゃあなぜあいつらは俺が鬼だということを、知っていたのだろうか。

 そこら辺は俺にはよくわからないが、奴らはそのことを知っていたのだろう。あの家に住んでいるんだから、ジジイからなにか聞かされていたのかもしれない。

 まあ、そんなことはおいおいわかる話だろう。

 そうそう。俺が次期当主になるということを理解できなかった理由には、まだもう一つ原因があるのだ。

 それは、桃侍のことだ。

 俺が次期当主だとはっきりと宣言される前は、桃侍とは仲良く遊ぶこともあったのだ。それも、認識としては、親戚の子と一緒に遊んでいる、なんて感じだったのだ。

 そして、彼の、桃侍の、強さも、凄さも知っていた。

 俺は桃侍には、勝てないだろうと思っていた。だって、力の差がマントルと月くらい、離れていたのだから。

 今だって、それくらいは無いにしろ、結構な力な差はあると思う。

 いや、力の差ではなく霊力、気、とかの差だな。言い方を変えるならフォースという意味での、シックスセンスという意味での力の差だ。

 マッスル的な力の差だったら、今の俺に勝てないだろう。

 そして、その力で悪霊だとか、妖しの類を倒すところを、俺はこの目で見てきたのだ。

 自分にはできない。すごいことだ。神社の息子として立派に妖怪退治をしていると、誇りにさえ思っていた。 

 だからこそ、彼が次期当主に相応しいと、俺でさえ思っていたのだ。むしろ、当時は、桃侍に……。いやこれは駄洒落ではなく、話の内容上こうなってしまったわけで。まあ、そんなことはともかく、次期当主を桃侍に変わってやりたいと思っていた。なにせ、あんなに嫌われるとは思わなかったからだ。

 包丁で刺されるまで、嫌われるなんて思わなかったから。

 めちゃくちゃ、悩んださ。『自分なんていなければいいんだ』なんてことを思ったほどだ。

 変われるなら、変わった方がいいのだ。そうすれば誰も、不幸にならなかったんだ。

 その不幸を被ったのは、対儺もそうなのだ。

 鬼一対儺も、兄である桃侍と同じように、霊力がすごかった。

 すごかったなんて、小学生みたいな言葉だが、測ることができない物を表現することはできないので、そういう風に言ってしまうのは仕方がないことだと、諦めてもらおう。

 単純に言えば、今の俺よりも強いだろうよ。こと霊力という物に関しては。

 だから、さっきのように、自分よりも大きく体重もある男を、片手で難なく空中にあげることができるのは、当然のことだ。

 だから、こそ俺一人じゃ。勝てないということを知っていた。けれど、さっきのあの状況は見過ごしては置けない。そして、自惚れも少しはあったのだろう。

 自分は鬼の血を引いているから普通の人よりは強いのだろうと思っていた。

 しかし、忘れていた、奴らは普通じゃないということ。

 だから、殺されかけた。

 本当に、テトがいなかったらきっと俺はあの世行きになっていたか、穢れ神となっていたかのどちらかだろう。

 つまり、あの二人は最強すぎるゴーストバスターズだということが、わかったと思う。

 それで、俺が対儺を嫌いな理由だが。それは目撃してしまったからだ。

 目撃。

 最悪の現場を、最低の現場を。

 これは、桃侍を嫌いになる理由も含まれる。

 本当に見てはいけない物を見たというような、(おぞ)ましい現場だった。

 桃侍に包丁で刺された傷が癒え、俺は桃侍に謝りに鬼一家に寄ったのだ。

 その時、二人の部屋の覗いて、見てしまったのだ、桃侍が、対儺を殴っていた所を。

「何が次期当主だ。この僕が、天才であるこの僕が、次期当主だろう。なあ、対儺」

 と言いながら、実の妹を殴っていた。

 狂っていると思った。これは、おかしいと思った。でも止められなかった。恐ろしかった。

 そして、もっと恐ろしかったことがすぐに起こった。いや、見てしまった。

 俺がその光景を覗き見ている姿を、対儺は見ていたのだ。泣きもせず、助けを求めることもしなかった。ただ、笑っていた。ケタケタと狂ったように笑って。

「お兄様が、次期当主に相応しいです。あんな、クズが当主なんておかしいです」

 と言ったのだ。

 この兄妹は、おかしい。人としておかしい。何がこうさせているのだ。なんで、こうなってしまったのか。

 その時だ、彼らを嫌いになったのは。

 あの現場を見て、吐き気がした。嫌悪が沸いた。拒絶した。

 そして、『僕に兄妹はいない。僕は一人っ子だ』と思うことにした。

 だから、嫌い。居なくなればいいのにと、思うのだ。

 その小さき頃の、拒絶感は今も拭えないし、一生消えることはないだろう。

 しかし、いつか。本当に兄妹として歩けることが来たらと思うのだ。

 

 

 

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