7月31日 吉崎と鬼一
リビングへと向かうとそこには、凛の姿があった。
「おはよう。今日は、部活は休みなのか?」
「あっ義兄、おはよう。そうだよ。今から朝食?」
「ああ」
俺はキッチンに向かい、朝食用のシリアルを作ると、凛の横に向かった。
「あれ、義兄なんか、いつもと違うね。体つきが変わってるような気がするよ」
客観的に見てもわかるレベルなのだ。それほど、俺の体はかなり変わってきているということだ。
「最近鍛えているからな」
「ふーん、そうなんだ」
ソファーに座り、朝食を取ろうとした時だった。誰かが階段を下りてくる音が聞こえた。まあ、誰かというのは一人しかいないのだが。
「二人共おはよう」
タンクトップにパンツ姿とは、この人は俺が男だということを分かっていないのだろうか。
「お姉ちゃん。そんな姿で現れないでよ。下品だよ」
「私がどういう格好をしようが私の勝手だろう。それに、ここは家だ。外にいるわけじゃないのだから、裸でも問題ないはずだ」
そういうとタンクトップをおもむろに脱ごうとし始めた。
「ちょっとお姉ちゃん、義兄いるから脱がないで~」
マナ姉の動きがピタッと止まった。そして、俺と目があった。
「いや、凛。この男、なにか期待の眼差しを向けていると思うぞ。なあ、変態」
確かに、期待はしていた。ああ、していたさ。何が悪い。
「まさか、期待なんてしているはずもないさ。だから、変態というのは、訂正していただこう」
こういう時は冷静さが重要だ。そうクールに決めなければならない。期待しているということを相手に悟られてはダメだ。それが、変態としての流儀。
「そうかいなら別にいいよな」
マナ姉はそう言うと、タンクトップを脱いだ。
いや~、豊満でいらっしゃる。目の保養でござるな。
「わー、お姉ちゃん何してんの」
「こっちは、暑いんだ。だから、脱いだ。なあ変態。あんた、私の裸を見ても何も感じないんだろう」
そう言って、俺の隣に座ってきた。こちらとしては、願ってもいないことだ。しかし、変態紳士としては、クールでなくてはならない。相手は従姉妹といえども一人の女性である。私が、ここでいやらしい目をしたらどうだろうか。相手は、恥ずかしがったり嫌がったりするだろう。だからこそ、冷静に自然に、堂々としなければならない。当然さ。変態紳士としてはね。
「いや、ただの変態だろ」
後ろでドン引きの幽霊がいたが、私には見えないのでほっとくことにしておこう。
「マナ姉。だとしても、あまり裸を人に見せるのはどうかと思うな。自分が良くても相手がどう思うかを考えなければ。ほら、凛の姿を見てみろ。あんなに恥ずかしがっているじゃないか」
恥ずかがっている、凛ちゃんもマジで可愛い。
「なあ、テトちゃんあいつ絶対頭おかしいよ」
「諦めろ。あいつはそういう男じゃ」
まさか、テトちゃんにも引かれる日が来るとは。後でナデナデの刑に処そう。
「確かに、私としたことがお前達に対する配慮がなかったようだ」
マナ姉はそう言うと、さっき脱いだ服を拾い上げ、……着た。
ホーリーシット。俺としたことが、まさか着るなんて。この女が俺たちに配慮するなんて。自己中で人の話なんて聞かないこの女が忠告を聞くなんて。今日は嵐になるかもしれない。
ひとしきり、後悔したところで、俺は朝食を続けることにした。
「義坊。今日もまたどこかに行くか?」
「今日は、実家に行ってくる」
マナ姉は俺の返答に、顔をゆがめた。それでも、明るく振舞おうと、わかりやすい作り笑顔見せた。
「そうか。なんか呼び出しでもくらったか?」
「そんなんじゃない。ただじいちゃんに聞きたいことがあってな」
「毎日忙しそうで、大変だな」
「まあ、これが俺にとって青春なのかもしれないな」
食事を終え、外出用の服に着替え終え、玄関へと向かう。
「まあ、何をするかわからないが、頑張れよ」
リビングから顔だけ出したマナ姉がそこにいた。
「ああ、頑張るよ。いってきます」
「いってらっしゃい」