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穢れ神と鬼  作者: 山神賢太郎
7月30日
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7月30日 義貫と結衣

鳥居を後にして、榊家へと戻ってきた。そこには、これからどうやって生活していくのか路頭に迷っているような顔をした人ばかりだった。


 まあ、生活の基盤であった呪いの仕事も。犬神がいなくなって出来なくなったのだから仕方ないことだろう。いや、一人だけ犬神を持っているはずだ。でも、あの場所には首の無い犬はいなかったぞ。どういうことだ。必死に頭をフル回転させてみるが、矛盾だらけで、俺の頭はどうにかなりそうだ。


 そこで一つハッタリを思いつく。もうハッタリは俺の十八番と言ってもいいかもしれない。 


「おい、婆さん。あんたの持っている犬神を出してもらおうか。そいつを、消したら俺は帰る。もし出さなきゃ、あんたら全員あの世行きだ」


 俺は、ハッタリをかまし、凄んで見せる。婆さんは、俺に怯えたようで、あっさりと口を開いた。


「鬼助殿よ。嘘かと思うかも知らないが、わしは最初から、犬神なんぞ持っておらぬのだ」

「はぁ?あんた、この家の家長なのに、なんで持ってないんだ。さっき、犬神を持っているようなこと言ってたじゃないか」


 俺たちがここの連中を倒した時、婆さんは確かに、犬神を持っている風なことを言っていた。この期に及んで嘘を言っているのだろうか。それとも、あの場所に犬の魂とやらが行っていなかったのだろうか。考えたところで答えはでない。今は、婆さんが言うことに耳を傾けようではないか。


「確かにわしは先程そう言った。しかし、あれは建前なのじゃよ」

「建前だと?」


 何やら、周りの榊家の奴らがざわめき出した。なにか、婆さんの今の発言は榊家の連中にとって良くない話なのか。それとも、単に知らなかったことなのか。


「お前らも聞いておいて欲しい。わしは、犬神を所持してはおらぬ。さっき、お主にそう言ったのは家長として、戦う意思を見せるためなのじゃ。ただそれだけのための嘘じゃ。すぐにバレるとは思っておったが、家長としての自尊心がそれを許さなかったのじゃ」


 周りの連中のざわめきが一層大きくなっていた。だが、俺はそれさえも疑わしかった。そうやって、言い逃れをしているのではないかと思ってしまう。


「じゃあ、婆さん証拠を出してみろよ」


 俺の質問は、まるで意味を成さないものだ。なんたって、無いものをどうやって証明しろと言うのだ。しかし、婆さんから帰ってきたモノはれっきとした証拠だった。


「この家の家訓には、必ず一人一人が、犬神を作らなければならないのじゃ。それはわしも同様じゃ。そして、そのために小さい頃から一匹の犬を与えられる。その犬を自分の手で殺して犬神にしないといけない。わしも結衣くらいの時にそれを行った。ここからは、笑い話じゃ。わしは犬を可愛がり過ぎてのう。苦しませることなく、飢えさせることなく、殺してしもうたんじゃ。笑い話じゃろ。そして、その結果がこいつじゃ」


 婆さんが懐かから葛籠を取り出し、蓋を開けてみせた。そこから、出てきたのは、フェレットのような感じの白い動物だった。いや、妖怪と言った方が正しいのだろうか。俺が、考えているとテトがそれを見て喋った。


「こいつは、式神の一種じゃな。犬神のような呪いは使えないが、穢れや瘴気を食べるタイプじゃのう。鬼の子の使う式神と同じ型じゃ。まあ、型は同じでもこっちの方は力が全く無いのう。まだ、そこらへんの浮遊霊の方が恐ろしいわ」


 じゃあ、無害ってことじゃねぇかよ。こんなものを持って、家長面してたなんて。っというか。


「じゃあ、あんたは自分のことは棚に上げて結衣さんのことは、どうでもよかったのかよ。自分がそういう悲しい気持ちを知っていたのに、それを自分の孫にもさせたっていうことかよ。終わらせることができないのかよ。ここにいる全員そうだ。家がなんだって言うんだ。てめぇは、てめぇだろうが。家なんてものに、縛られて、嫌なものは嫌とも言えずに、生きてんのかよ。呪われてるのはあんたらの方じゃないか。これで、家という呪縛から解放されただろうが。俯くなよ、今度は前を見て、自分の人生歩けよ馬鹿野郎ども」


「鬼一君。通りだよ。私達は家の呪縛から逃れられないでいる。じわじわと呪殺されているのは、この家に住む私たちだったのかもしれない。でも君が断ち切ってくれたから、私たちはこの呪縛から逃れることができた。次期、家長として君にお礼をするよ。ありがとう」

 

 榊さんは、涙を流しながら笑っていた。心にあった闇が無くなったかのように笑っていた。今日、初めて榊さんの本当の笑顔を見たような気がした。


「なら良かった。これから、大変だろうけど頑張れよ」


「ああ。もし、次どこかで会ったら友達として挨拶してくれよ。君は他人行儀なとこがあるからな」


「また、塀の上で動けなくなっているのを見つけたら助けてあげるよ。じゃあ、俺は帰る」


 俺達は、榊さん達に見送られ家路へと向かうのだった。

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