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穢れ神と鬼  作者: 山神賢太郎
7月28日
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7月28日 神鏡と男と犬

 至福のモフモフタイムを俺が続行している時である。田首城の登り口から変な歌が聞こえてきた。


「仙人石が鬼殺し、かけてかけましょ呪いさし。五行の星を散りばめて、さして作った五芒星。五つの呪いをかけられて、仙人石を崩しましょ。亀はのろいし、なまけいし。蛇はにらみし、にくみなわ。犬は……」


 その歌はまさに、仙石家の呪いを表しているかのような歌だった。

 そして、その歌を歌っている男の姿が田首城跡地に現れた。その男は、修行僧の様な格好を身に付けていた。


「どうも、こんにちは。こんなところで人に会うとは思いもしませんでしたよ」



 好青年といった笑顔であったが俺たちは警戒をしていた。何しろ、呪いのことを知っている奴だ。油断ができるわけがない。


「あんた、何者だ」


「私はただの、坊主ですよ。お兄さんこそこんなところで何をしているのですか」


「ただの、運動だ」


「そうですか。ではその棚にようがあるので少しばかりお邪魔させてもらいますよ」


 身構えながら、神棚の前からどいた。


「気になったんだが、さっき歌っていた歌はなんなんだ」


 ど直球の質問これで奴が何者かわかるはずだ。


「ああ、さっきのはこの地域に伝わる歌でしてね。耳に残る歌なのでよくわからないのですよ」


 より、一層こいつが何者なのかわからなくなってきた。だって、俺が知らない歌だぞ。明らかに、おかしい。


「鬼の子よ。こいつどこかおかしいぞ。瘴気と生気が混ざりあった奇妙な臭いがする」


「テトちゃんの言うとおりだ。それに、さっきあいつは私を見ていた。私を見えるやつはそうはいないぞ」


 あきらかに怪しい奴だ。本当に何ものなのか。

 そいつは、神棚の扉に手をかけていた。


「おい、あんたなぜ神棚を開けようとしているんだ」


 男はゆっくりとこちらに振り向き、にっこりと笑っていた。


「この中に用があるのですよ」

「この神棚は、役所が管理しているんだ。勝手に触るってことは役所を通してるんだろうな」


「ええ、そうですよ」

「そりゃおかしいな。この地域の祀りものは仙石家と鬼一家が管理しているんだ。どちらかを通さないと触れない。つまり、あんたは嘘をついてる」


 俺が指摘したとたん、坊主の爽やかな笑顔がだんだんと鬼の形相に変わっていった。

 そして、いきなり俺の首を掴んできた。


「なにするんだ」

「俺を詮索するんじゃない。お前らとは出会うには時期が早すぎるんだよ。俺には俺のやり方があるんだ」


 出会う時期だと。何を言っているんだ。力が強すぎて全然首から手を外せねぇ。


「義貫から手を話せ」


 アキラが天清鬼神をそいつの頭上に向かって振り下ろす。しかし、男は見向きもせず、剣を指で受け止めると、アキラを蹴飛ばした。


「アキラ! 」


 アキラは地面に突っ伏したまま動かない。テトがアキラの元に駆け寄って行くのが見えた。


「てめぇ。本当になにものなんだよ」

「お前に言うことは何もないんだよ」


 首にかかる力より強くなった。だんだん意識が遠のく。


「鬼の子よ。そいつは穢れ神だ。さっき以上にそいつから瘴気が発せられるの見えるぞ。

アキラはなんとか大丈夫そうじゃ」


 穢れ神だと。クソ、意識が遠のく前になんとかこいつから離れなければ。

 右手に力を込める。瘴気がだんだん吸収している感覚がわかった。確かにこいつは穢れ神のようだ。瘴気の量がハンパじゃねぇ。


 しかし、これ以上瘴気を吸い込むとやばい、逆に意識が遠のいてしまう。

 その時、首から男の手が外れた。


「ごほごほごほ」

「やはりまだ時期じゃないようだな。俺の腕がこんなことなってしまったじゃないか。しかし、お前も瘴気を吸いすぎて鬼人化しかかっているな」


 咳き込みながら薄れゆく意識の中でそいつを見た。俺が触れていたそいつの腕が紫色に腐食していた。そして、顔が人間と獣が混ざり合っっているように見えた。


「やばいな、鬼人化してしまったら俺が勝てる相手じゃなくなる。ここはさっさと用事を済ませた方が良さそうだ」


 男はそう言うと、俺の体目掛けて蹴りを繰り出した。



 ―――バキッ


 肋骨が折れる音が自分の中から響いた。


「グッ、イテーな」


 薄れゆく意識の中で男が神棚の中に手を当てて何かを吸い取っているのが見えた。


「じゃあ、また会おう鬼助よ」


 そこからどうなったのかは知らない。






 俺が目を覚ました時にはもうすでに男の姿はなかった。


「義貫、大丈夫か」

「ああ、お前の方こそ」

「私は幽霊だからな、大丈夫だ」


 アキラは、ニコッと笑ってみせたが、痛みを我慢しているのがまるわかりだった。

 しかし、あいつは何者なんだ。穢れ神とテトは言っていたがなんで穢れ神がこんなところに。あいつは神棚で何をしていたんだ。



 俺は神棚をゆっくりと開けてみた。そこには神鏡が置いてあるだけで他にはなにもない。おかしいあいつは何かをしていたんだ。俺はテトに聞いてみることにした。



「テトあいつは何をしていたんだ」

「お主そこには何があったと思う。お主ならわかるはずじゃ」


 何があっただと、ここには神鏡しかなかったはずだが。


「触れてみればわかるはずじゃ」

 

 テトの言う通りに触れてみる。それでわかった。あるはずのものがない。ここには俺が封印したはずの蛇の穢れ神の瘴気があるはず。なのに、瘴気が一切感じられなかった。



「やつが瘴気を吸い取ったのか。なんのために」

「わからん。わからんが、やつは紛れもなく穢れ神だった。だが本来、穢れ神は自分の祀られている土地から動くことはできないはず。なぜ動けるのか、わしにはわからん」

「お手上げかよ」



 本当になにものなんだあいつは。それにあの歌。亀と蛇、そして次は、犬か。あいつは絶対何かを知っている。俺の倒すべき穢れ神の一人なのか。それとも、新たな穢れ神なのか。だが、あいつはまだ会う時期ではないと言ったんだ。そして、俺のことを鬼助と呼んだ。ということは何らかの形で会う日が来るというのか。どちらにしても、アキラを怪我させておいて俺が黙っていると思うなよ。会った時はぶちのめしてやる。



 寝転びながら、怒りを燃やしていた。その時、自分の体の違和感に気がついた。俺は慌ててシャツをめくった。すると、胸の傷がきれいに治っていた。さらに、折れていた肋骨も全然痛くなかった。


「なんで、傷が」

「義貫。お前は瘴気を吸いすぎて、ちょっぴりだけ鬼人化していたんだよ。だから、通常の時の何倍もの速さで傷が治ったんだ」


「でもよ。鬼の治癒能力の速さは通常の2倍じゃ」

「普通の鬼の状態ならばじゃ。瘴気を吸った鬼は、より力を増す。怪我をしとれば、治癒に、力が欲しければ、筋力になる。それが鬼の能力といってもいい」

「身体能力を向上させる魔法かよ」


 つまり、瘴気を吸い込めば怪我が治り、力を得るのか。なるほどね。使える能力だこと。


「義貫、使いすぎはお前を鬼にするんだからな。鬼人化したら、人格がなくなりただの暴れるだけの化物になるんだ。そうなれば、私たちとてお前を抑えられない」


「わーってるよ。なるべく使わないようにするよ。さあ、もう帰ろう。ここに居たって進めるわけじゃねぇんだから」



 下山した俺たちは、バスに乗って家へと向かっていた。最寄りのバス停で降りた俺たちに少しだけ、不思議なことが起きた。



 家の近くまで帰ってきた時である。見たことがある電柱に、見たことのある犬がいた。それは、アキラと初めて出会った時場所であり、そこにいた犬もその時いた犬にそっくりだった。いや、たぶん同じやつなのだろう。



 その犬は、俺をまじまじと見ている。俺が睨み返したところで今度は逃げなかった。いや、こいつは俺を見ていない。アキラを見ているようだ。



 そこで少しばかり、違和感を覚えた。なぜ、気付かなかったのか。むしろ、当然とその時は思っていたから違和感さえなかったのかもしれない。



 そう、なぜこの犬はアキラが見えるんだ。あの時もあの犬はアキラに向かって吠えていた。


「なあ、アキラ。犬にもお前の姿って見えるのか」

「いや、普通の犬には見えないはず」

「じゃあ、なんであの犬は」


 俺が一歩近づいて犬を捕まえようとした時、犬はどこかへと逃げていった。その後ろ姿はどこか、存在感がなく瘴気が混じっているように見えた。



 次は、“犬の穢れ神”という言葉が頭に浮かんだ。

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