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穢れ神と鬼  作者: 山神賢太郎
7月28日
26/43

7月28日 覚悟とケイドロ

 昨日はいつの間にか、眠っていたようだ。疲れも溜まっていたし、気も使ったためしょうがない。



 しかし、今日は昨日果たせなかった式神の使い方を練習するため、あるところを訪れた。そこは練習するにはもってこいの場所。そして普段は誰も来ない場所だ。


 正直、胸の傷は全く治っていない。そりゃ、鬼といえども一昨日退院したばっかなのだ、治るはずがない。だが、傷の見た目に反して、痛みはそれほどない。少しばかり痒い程度だ。もしくは鬼の血の所為で痛覚が馬鹿になっているのかもしれない。



 そんな、自分の体が化物になっていく事は、普通は驚きや恐怖を持つのが普通なのかもしれない。しかし、俺はそんなことには然程興味を感じなかった。というよりもこれからのことしか考えることができなかった。



 それは、穢れ神を封印するという自分の運命のことではない。鬼一家や仙石家の運命に巻き込まれた、アキラや凛、そして藤波のような犠牲者を一人でも減らすことの方が俺にはずっと大事だ。



 そのためには、どうしても力が必要だ。今までは偶然勝てたようなもの。亀の時だって蛇の時だって、ほとんど俺は何もしていないように感じていた。

 


 

 俺は無力だ……。




 鬼の血が流れているからといっても、その力の使い方も知らない。だから、怪我なんてどうでもいい。今できることをするしかないのだ。


 だから、俺はここに来た。藤波が素振りをしていた、この田首城跡地へと。


 俺がここに行くといった時、アキラやテトは俺を必死で止めた。傷が開くとか練習なら家でもできるだとか。



 でも俺は二人の制止を無視してここに来たのだ。それに、穢れ神を封印したとしても、微かに瘴気は残っている。それが、俺には必要だった。



 自分の中の気を使った式神だけでは、使い物にならない。だったら、瘴気を使うしかないのだ。



 瘴気を吸い過ぎたら、鬼人化してしまうかもしれない。そういう危険は伴うし、今の俺は自分の体がどうなろうといい。藤波のあの姿を見てしまったら、四肢がもげようが角が生えようがどうでもいい。俺は今そういう覚悟で来ている。



 そして、俺が今、真面目に考えているときアキラさんあなたはなぜ私の背中を天清鬼神で刺すのですか。普通に痛いし、ちょっと血が出てるんですけど。



 今日は白いシャツで来たから赤い点々ができちゃうでしょ。


「なんか~、義貫が真面目に考えているから~。ふざけたくなっちゃったんだよね~」


「なんで、ギャルみたいな話し方してるの」


「これでも~、私~17歳なんで~」



 落ち着け義貫。これも修行の一環だ。こんなことで怒っていては自分のメンタルがもたんぞ。



 よし、まずは右手に少量の瘴気を貯めることからだ。大気中にある微量の瘴気を手に集めることだけを意識するだ。俺ならできるはずだ。


「のう、鬼の子よ。わしら、今からケイドロするんじゃが、お主もするか」


「えっ、アキラと二人でするのか。それただの追いかけっこじゃねーの」


「じゃからお主を誘っとるんじゃろ。二人じゃつまらんだろうが」


「でも前した時は結構白熱したよね。テトちゃんがネコを集めて追いかけて来た時は、本当にデッドヒートしたわ」



 なんなのこいつら。いつ遊んでたの。もしかして、穢れ神探しているときとか俺だけ探して、お前らは遊んでたの。本当なんなの。



 いかん、いかん。こいつらの話にいちいち反応していたら、修行なんてできたもんじゃないぞ。



 まずは、右手に瘴気を集めること考えるんだ。


「おい、義貫。お前が警察な。牢屋はあの神棚があるところにしたから」


「それ、俺不利じゃねーか」



 耳を傾けるな。やるとも言っていないのに勝手に入れられたこととか、完全に警察が不利な牢屋決めをされたことなんて考えるな。


「で、私たちが勝ったら、お前を一発殴るから」


 めっちゃ理不尽なんですけど。強制参加な上暴力とか、どこの恐怖政治なんだ。こいつら、神様とかじゃねぇよ。むしろ鬼だよ。


「鬼はお前だろ」


 こんちくしょう。心を読むなよ。なんだよほんとに。


「で、お前が勝ったら、テトちゃんモフモフし放題にしといたから」


「アキラさん。やらせていただきます」


 はっ。俺はなにをしているんだ。なんで、90度の角度でお辞儀をしているんだ。これは罠だ。何かの間違いだ。いや、逆に考えるんだ。これが修行だって。


「なんじゃこいつ、綺麗なお辞儀してからに。そんなにわしを撫で繰り回したいのか。まあお主にならええがのう」


「じゃあ、今撫でさせてください」


「あと、ルールじゃが」


 完全に無視られた。撫でても構わんと言ったのに。


「場所は田首城の堀から中が逃走範囲じゃ。あと、お主は式神使っていいからの。そして、わしは式神と野良ネコを使役する」


「私は、天清鬼神使うから」


「あの真逆、アキラさんは私を殺す気ですか」


「いやいや、お前が瘴気を吸いすぎて正気じゃなくなったら、こいつで刺そうと思って。ダジャレ言っちゃった。テへッ」


「テへッ、じゃねーよ。可愛いけど言動が殺す気じゃないか」


「あと、普通にお前を刺したいだけだ」


「マジで殺す気じゃないか」


「考えても見ろ。お前だって式神使っていいんだぞ。そんな簡単に死なない」


 この子、神の使いのフリして猟奇的で辛辣過ぎだわ。


「簡単に死なないって結局は死んでんじゃねーか」


「ばれたか。じゃあ、制限時間は一時間な。30秒数えたら私たちを捕まえに来いよ」


「ちょっとアキラさん、テトさん。ルール変更しませんかね」



 俺の懇願はアキラたちの耳には入らなかった。というか、無視された。完全にいじめですよ。これ昨日の二の舞ですよ。どうせ、また笑われて、終わりですよ。あの二人昨日から本当なんなんですか。いじめ、カッコ悪い。



 俺は、仕方なく数を数える。今俺に出来るのはそれくらいだ。さっきまでの覚悟はなんだったんだ。今や暴君に怯える一般市民のようではないか。この恐怖政治はいつまで続くんだ。そんなことを思いつつもしっかりと数だけは数えた。





「28、29、30。よし探すか」



 まずは、瘴気を集めることにしよう。普通の気で召喚した式神じゃ。ちっこいのしか出ないから。



 右手に力を込め、大気の瘴気を集める。すると、手の甲にある鬼の印が青紫色に光始めた。微量だが瘴気が集まっているということだ。



 そして、集まった瘴気を少しだけ式札に送る。テトに習ったようにその瘴気の量にあった器の式神を想像すと、式札が3寸ほどの一つ目の角の生えた鬼に変わった。

 


 今必要な式神はこんなものでいい。残りの瘴気は捕まえる時とかに使うことにしよう。一番重要なのは今ある瘴気でどうやって戦うか。これを覚えなければ話にならない。それに相手は、あの暴君二人組だ。捕まえる時にガス欠になったんじゃ意味がない。



 あとこの式神はシンプルな能力しか使えない。それは、気のサーチだ。この小ささだとそれほど広い範囲はサーチすることはできないが、それでも気のみを感じ取ることができるのはこちらとしては有利だ。どんな物陰に隠れていても察知することができるのだから。


 この式神はネコと違い、目で気を認識するタイプだ。ネコの場合はヒゲで気の流れを感じていた全体的に気の位置を確認することができていたが、この式神は目で確認するため、目で見ている範囲しかサーチできない。


 しかし、こいつは常に目をぐるぐる回転させているので、結果的に全体を見ることができるのだ。我ながら頭いいわ。 

俺は式神を肩に乗せ、少しばかり風の谷の某ごっこをした後、アキラたちを探すことにした。



 このケイドロというのは隠れんぼや鬼ごっことは少し違い、一度ドロボーをタッチしたら、牢屋へと運ばなければならない。



 さらに、牢屋にいるドロボーは仲間にタッチされることで解放され、再逃亡ができるのだ。つまり、エンドレスに捕まえて逃がしてを繰り返しかねないのだ。



 まずは、捕まえることが大事だ。

 俺は式神の目を通して辺りの気を確認する。しかし、どこにも見当たらない。やはり、小さいためサーチ範囲がだいぶ狭い。半径約10メートルほどの範囲の気しかサーチできないようだ。



 見つかる気は虫のものばかりだ。逃走範囲は約1000平米とそれほど広いわけではないが山の中というのは草などで見通しも悪く、道も限られている。こいつは一時間で一人も捕まえられないなんてことになるかもしれない。



 その時、式神のサーチにドデカイ気を発している物が後ろから素早く近づいてきた。振り返ると、そこには天清鬼神を振りかぶったアキラの姿があった。一の太刀で殺すような気迫がそこにはあった。


 幸いにも、式神のおかげでいち早くアキラに気づけたおかげでなんとか避けることができた。


「マジで、殺す気じゃないか」


「そうじゃないと、修行にならないだろ」



 そう言いながらアキラは天清鬼神を俺の首目掛けて横降りした。



 なんとか後ろに下がって避けたが、いつまで避け続けることが出来るかなんてわからない。その時、足元に落ちてあった太い枝を見つけた。俺はそれを掴み上げるとさっと式札を巻きつけて気を注ぐ。



 その瞬間アキラが俺の頭目掛けて天清鬼神を振りかぶった。俺はその枝で防御する。



 刃は枝の半分くらいまで刺さったところで止まっていた。もし、慌てて瘴気を注いでいたらきっと真っ二つになっていただろう。気で正解だった。



 そして、その隙にアキラにタッチする。


「アキラ、捕まえた」


「ああ捕まっちゃたよ。本気でやったのにな」


「いや、本気でやるなよ。マジで死ぬとこだったんだけど」


「自分の体なんてどうでもいいなんて言ってたじゃないか」


「言ってない。心の中で思っただけだ」


 俺は命の危険に晒されながらもアキラを確保し、田首城の神棚まで送った。



 さて、確保したもののどうしたものか。ここに見張りの式神を置いたところで、俺が離れていたらなんの意味もなく、テトにアキラを解放させられてしまう。逆にここにいたところでテトをあと30分以内に探さなければ俺の負けだ。本当にこりゃ不利だわ。



 ここは式神のサーチ能力でテトを探すのが無難か。しかし、問題はこのサーチ範囲の狭さだ。これをどうにかしないといけないのだが。どうにかする方法は実はある。だが、この方法は一瞬だけしか使えない。



 式札に瘴気を注ぎ空へと投げた。すると、式札は空中でバラバラに飛散した。


 これで、式神のサーチ能力が格段にあがる。バラバラになった式札は一方向に飛び気に当たると跳ね返り、この式神の目に入ってくることで音波センサーのように気を発している物の位置を正確に検知することができるのだ。だが、一瞬だけだし、位置の情報も少しばかりラグがある。まあ、大体の位置がわかればあとはどうにでもなるだろう。



 そして、すぐに辺りを式神でサーチした。一瞬だけ、テトらしき人の気を捉えることができた。


「とらえたぞ」



 場所的には、神棚後方20メートル程か。やはり、アキラを助けるために近くまで来ていたようだ。



 俺はテトにバレないように慎重に足を運ぶ。さらに、サーチで気の動きも確認した。

 しかし、テトがいるであろう場所には人の姿はなかった。そこにいたのは数匹のネコだった。



 やばい、真逆すでに気付かれていてアキラを解放しに行ったのか。早くアキラの元に行かなければ。



 俺がアキラの元へ行こうと、踵を返そうとしたその時、一匹のネコが襲ってきた。こいつはどうやらテトの手先らしい。そのネコが爪を立てる前になんとか捕まえることができた。



 しかし、その隙に黒いネコがスタスタとアキラの方へ向かっているのが見えた。


「お前テトか」


「すまんのう。少しそこで、ネコと戯れておれ」



 そう、テトらしき黒ネコが言った瞬間、そこにいた他のネコ達が一斉に襲いかかってきた。俺はそれを手で払い除けながらテトを追った。



 これは非常にまずい。テト追いながら俺もネコに追われている。というか噛まれている。引き剥がしても引き剥がしてもネコはなんども俺を襲って来るのだ。これでは、テトに追いつかれる前に、俺がネコに殺されてしまうのではないか。だが、俺にできることはテトを追うしかないのだ。



 テトはすでにアキラの近くまで来ていた。俺はなんとかテトに近づきつつあったが、

間に合うかどうかわからない。


「お主速いのう。まあそれでも先に着くのはこのわしじゃがの」



 いや、まだだ。俺は全力を出しきれてない。自分の足をフル回転させてテトに追いつこうとした。だんだんと距離は縮まっていく。テトがアキラの元にたどり着いた瞬間、俺はテトに飛びついた。そう追いつけたのだ。


「よしテト捕まえたぞ」


 しかし、テトはなぜか笑っていた。


「残念じゃったの。これはわしの式神じゃ。わしはこっちにいるぞ」



 テトの声が二重に聞こえた。一つは捕まえたネコから、もう一つは真正面、アキラの後ろ側だった。そこにいたのは、ニヤリと笑っているテトだった。



「ナニィィィッ」



 テトはゆっくりとアキラにタッチしようとしていた。だが、それで俺が諦めたわけではない。まだ瘴気は残っている。二つの意味でな。



 最後の式札に俺はありったけの瘴気と気を送り込んだ。そして、それをアキラ達に向けて投げる。これが俺の最後の一手だ。



 式札は空中で網に変わりアキラ達の元へと落ちていく。


「テトちゃん上」


 気づいても、もう遅い。すでに、お前たちは終わっている。

 俺が放った網はゆっくりと二人の体を覆っていった。



「なんじゃこれは。動きにくいぞ」


 俺は網にかかったテトをタッチした。


「テト、確保」


 俺は勝ったのだ。この理不尽な、勝負を見事勝つことができたのだ。



「やったぞー。俺はやったのだ。さあ、モフらせてもらおうか」


「仕方ないのう」


「あの条件で負けるとは思わなかったぞ」


 さあ、至福のモフモフを楽しもうではないか。

 そして、俺のモフモフタイムが始まったのだった。 

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