7月27日 ごっこじゃない鬼ごっことマジの神隠し
新しい、朝の訪れ。いつものベッドに何も変わらない部屋。今日は7月27日だ。日が進んでいる。そんなことに俺は少しばかり歓喜していた。無理もないことだろ。だって永遠に続くかと思った7月25日を過ごしていたんだ。俺にとってこんな嬉しいことはないさ。
しかし、その代償がこの胸の傷だ。あの蛇の野郎のせいで俺は汗だくのまま風呂にも入れずに、布団に寝ることになったんだ。汗臭くてしょうがないんだが。
こんなこと考えていても、なんにもならないがまあ一歩進んだことは良しとしようじゃないか。
今日はどうするか、また街に探索に出かけるか。
「義廞。今日くらいは休め」
「そうじゃぞ。お主は怪我人じゃぞ。あまり無理するでない」
なんだか、やけに二人が優しいじゃないか。怪我人になるのも悪くはないな。
「バカなことを考えてないで、休めよ」
「へいへい。神様だって一週間の内に1日は休んでんだもんな。今日くらいは休むか」
と言っても、やる気に満ちてる時に休むとなると、なぜか手持ちぶたさな感じで、落ち着けない。なにかやることでもあればいいんだが。
「じゃあ、テトちゃん今日はなにして遊ぶ」
「そうじゃのう。なんか面白い遊びはないかのう」
こいつらはなんだ。故・高校二年生と神様のテンションじゃねーだろ。それに今日はってことは、毎日こいつら遊んでたんかい。ちゃんと穢れ神探してたんだろうな。
アキラがキリッとこちらをにらんできたが、すぐにテトの方を向いて楽しそうにガールズ? トークというか、なにして遊ぶかのご相談を始めやがった。というか遊びなら俺も誘えよ。こっちは暇なんだよ。
俺はベッドの上に寝転びなが、二人のトークを横で聞いていた。そんな時ふとカバンからはみ出していた式札が見えた。
そういえば何故、あの時なんで俺の式神あんなちっちゃかったのだろうか。これからはこの手とあの式札を活用して穢れ神と戦うことになるだろうな。一応テトあたりに聞いてみるか。あの鬼はまあ役に立たなかったからな。
「ところでテトさんや」
「なんじゃ」
「式神の使い方を教えてくれないか」
「なんじゃそんなことか。よしわかった。じゃあ、鬼ごっこでもするかの」
「はぁ? 」
なにを言っとるんだ、この猫耳娘は。俺が真剣に聞いとるというのに。
「まあまあそんな怖い顔をするでない。鬼ごっこの中で教えてやるからの」
「じゃあ、鬼は義貫で決定だな。鬼ごっこっていうか。そのものだな」
「ワシが隠れたら本当の神隠しじゃな」
お前らそれが言いたかっただけじゃないのか、マジで。
「テトちゃんルールはどうする? 」
「そうじゃのう。まず家の中でわしらが隠れるそれを30数えたら探しに来るのじゃ。しかし、お主はベッドの上から動いてはいかぬぞ」
「じゃあどうやって探すんだよ」
「それはのう、こいつを使うんじゃ」
テトは自分の懐から式札を取り出した。
「この式札にわしの式神を封じておる。お主はこれを使ってわしらのことを探すのじゃ」
テトはオレに向かって式札をカード投げのように投げてきた。俺はすかさず式札を取った。
テトの持つ式札は俺の持っている式札と少しばかり、書いてある模様が変わっていた。それを見て何がわかるでもないがまあ宗派が違いなのか。使役している中身が違うのか俺にはさっぱりだがな。
「で使い方はどうやるんだ」
「基本は一緒じゃ。式札に気を送り込み召喚させるのじゃ」
「今の俺は気なんて使えないぞ。それに、あの時は瘴気を使ったんだ。今俺の手には何も吸収してないからなんにもでないぞ」
「それはお主の勘違いじゃ。お主は鬼一家の人間。さらに、鬼の血を濃く受け継いでいる。そんなお主に何の力も無いなんてことはないぞ。お主は内部に鬼神を宿しとるんじゃ。その力を少しばかり注げばいい。一度やっとるのだからわかるだろ」
「じゃあやってみるわ」
俺は、あの時のように式札に自分の内部にあるナニカを注ぐ。すると、式札が光出し、変形しだした。式札は変形し終わるとそこには赤黒い色をした額に紫色の角が生えた猫が現れた。
「なにこれ」
「こいつはわしの式神にお主の鬼の力が混じったからこのような異形の姿になったようじゃのう。本来なら、ただの黒い猫なのじゃが」
「まあなんでもいいけど。どうやってこいつを使えって言うんだ」
「意識を式神に集中させるのじゃ。そうすれば、式神の目を通してお主にその景色が映ってくるじゃろう」
俺は、猫に意識を集中させる。すると、頭に衝撃が走り、猫の意識と俺の意識がリンクした。それは、まるでデュアルディスプレイのように二画面で景色を見てるそんな感じだ。慣れない内はかなり酔いそうだ。
「できたぞ。でどうやって猫を動かすんだ」
「それはもうできるじゃろ。意識が繋がれば、お主の思いのままじゃ」
俺は、猫を俺の望む位置に動かそうと意識を集中させる。よちよちながらも猫は俺の思っている方へと動き出した。感覚はゲーム操作とあまり変わらないな。いや、ゲーム操作よりも自分の意思で動くため、動かしやすい。
ふっふふふこいつは最高だぜ。やりたい放題だぜ。
俺は、猫をアキラの足元へ動かす。もう少し前だ。よし、ここらへんでいいだろう。ここで頭を上げれば。
なんだ。猫の視界が真っ暗になったぞ。俺の視界で確認してみるか。
そう考えた時にはもう遅かった。そうだ。俺はなにを血迷ったことを俺の思考はアキラに読まれているのだ。ならばこうなることくらいわかっていただろ。
俺の目の前には天清鬼神を振りかざしたアキラの姿があった。アキラの顔は笑っていた。
ちょっくら地獄の閻魔さんの顔でも拝見しに行きましょうかね。
振りかぶられた天清鬼神が俺の頭に当たる直前で止まった。
「次、変なことを考えてたら、その胸にこいつを突き刺すからな」
俺が次にとった行動は自分の意志ではない。俺はいつのまにか土下座をしていた。もう一度言う。これは俺の意思ではない。
「すいませんでした。それだけはご勘弁をご奉行」
「誰が、ご奉行だ」
アキラが天清鬼神の峰で俺の頭を小突いてきた。普通に痛い。だって鉄の塊だぜ。そして俺は怪我人だぜ。神の使いだか何だか知らないがそういうのは倫理的にダメだと思うのですが。それについて、どう思いますかアキラさん。
「うるさい。お前の行動の方が倫理的にアウトだ。さっさと鬼ごっこ始めるぞ」
「おう。じゃあお主は今から30数えて、その猫でわしらを探すのじゃぞ」
「わーったよ。ほれ、隠れろ」
「わーい。隠れろ。隠れろ」
実際あいつらは俺より年上のはずだ。なのに、あのはしゃぎよう。なにあれ、鬼いさん怖いんだけど。とりあえず、30数えるかな。
「1,2,3,4,5……」
「……28,29,30、よし探すか」
俺は目を瞑り、猫を操作する。
最初に探すのはどこにしようか。とりあえず、操作に慣れるまでそこらへんをうろうろしますかな。
猫の視線は低く、いつも見ている家の景色とはまるで違ったように見える。天井が高く、すべてが大きく見える。
さて、どこから探したものか。この家はそこまで広いってわけでもないが、猫の姿だとだいぶ広く感じるな。それに、やつらは腐っても神と神の使い。そんな簡単に見つかるわけないよな。
辺りを見渡してみる。すると、黒い尻尾が棚の扉からはみ出してるじゃありませんか。
マジでこんなことってあるんだ。頭隠して尻尾隠さずってな。何が神隠しじゃ。全然かくれてないじゃないか。
「テト見っけ」
俺は猫の手で棚の扉を開けた。
「えっ? 」
しかし、そこにテトの姿はない。あるのは本体のない尻尾だけだった。
俺があっけにとられて間抜け面をしていた時、廊下に
「ニャッハッハッハ。わしを探せるものなら探してみるのじゃ。まあ、お主には探せんじゃろうがな」
と顔と両手しかない魔王みたいな口ぶりのテトの声が廊下に響いた。
くそったれめ。人をおちょくりよってからに。お前なんかダークな魔神にフルボッコなくせに。そして、魔神はこの俺よ。見つけたら、あんなことやこんなことしてやるんだからな。手当たり次第探してやる。
と言ってから早30分が経ち申したよ。隅々まで探したと言うのにテトの姿は勿論、アキラの姿まで見えないとはこれいかに。
まだ、式神を操るのになれないから、見たのに気づかなかったのか。それか、あいつらが故意で姿を消す力を使ったとかそういうことをしているのか。
俺には全く見当がつかんぞ。というか、式神になんのちからもないのか。式神ってただ動かせるだけの能力なのか。初期のスタ○ドみたいなものなのか。もっと神秘的なやつあれよ。
地団駄を踏みながらはっとあることに気付く。なぜ、気付かなかったのかそれさえもわからないくらい、当たり前のことに気づいた。
今の俺の姿は式神である。そして、その式神は猫である。では猫の能力とはなにか。
俺が初めて式神を出した時、式神の姿は鬼だった。じゃあ、鬼の能力とはなにか。漠然とした答えだが、力が強いことだ。だから、あの鬼も力が強かったのではないか。
では、猫の能力はなんだ。そんなものわからなくたって、五感で感じ取ればいい。
今までは、動くことと見ることだけに集中していたんだ。だったら、今度は動かずにじっとしていれば何かを感じ取ることができるはずだ。
俺はじっとする。五感に集中する。すると、誰かが動いた音と空気の流れを肌で感じ取ることができた。さらに、これは式神だからこその能力なのかわからないが、家の中にある生き物の位置が完全に把握できた。たぶんだが、気を察知する能力も持ち合わせているようだ。
まず、この気を察知することができる能力でわかったことだが、台所がやばい。マジでヤバイ。何がヤバイかは言えないが、まあヤバイ。あとで殺虫剤を振りまくことが俺の中で決定した。
そして、もう一つ笑っちまう事実に気がついた。それは、テトとアキラの居場所だ。本当に笑っちまう。なんせ、俺の目の前にいたのだからな。
俺は、自分の目を開けて確認した。そこには、俺を指差し無音で笑っているテトとアキラの姿があった。
「ははははははっははっは。っゲホゲホゲホ」
アキラさん。むせるほど笑うなよ。あと、テトさんや。もう笑いすぎて号泣してるじゃないですか。目が真っ赤ですよ。そして、俺の心はズタボロですよ。
二人の爆笑が終わるまで少々お待ちください。
……
さて、二人が笑いすぎて腹筋が痛くなっている隙にまあネタばらしというやつですわ。まあ、二人が笑いながら説明するもので、ほとんど何言ってるかわかんなかったけど。
まず、俺が30数えるまで二人はあることをしていた。それは、あの棚に仕掛けた猫の尻尾のフェイクだ。あの猫の尻尾は聞き取れなくてわからなかったが、まあ、神様的能力でなんとかしたのだろう。
そして、俺がそれを発見した時、奴らは俺から見えない位置でこっちを観察していた。それから、あいつらは俺がフェイクの尻尾に驚いていた時に俺の部屋へ侵入していたのだ。
そりゃ見つかるはずねぇよ。なんだよ。もう狐につままれた気分だよ。自分の部屋にいるなんて普通思わねえよ。
「まあまあ、そう起こるなよ、義貫。君は全然悪くないぞ。でも君が、ブハッ。おっ思い出したら。クックック。腹が……」
「こら、アキラよ。そんな笑ってはこやつに失礼じ……。プッ。ニャッハッハハハハ」
あいつらをボコボコにするつもりが、こっちがフルボッコにさせられました。もうオーバキル過ぎるぜ。死体蹴りもいいとこですよ。
胸の傷よりも胃が痛いです。