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穢れ神と鬼  作者: 山神賢太郎
7月25日
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7月25日 00000010 connection error 鬼と鬼

俺はいつもと同じ自室で目が覚めた。しかし、同じではない。永遠と続く世界ではあるが、同じ世界ではなかった。


 どこが同じ世界ではないというと、まず、アキラとテトの姿が無い。そして、俺の掛け時計がダリの絵のようにグニャグニャになって長針がアホみたいにぐるぐると猛スピードで回っているのだ。

 おかしなところはそれだけじゃなかった。度々、空間の一部が歪み、何もない空間がみえるのだ。



 そして、俺自身も狂っていると感じていた。

 目の前の異常に、おかしいと思っていてもパニックになることもなく、平然としている。そのことを、頭で理解し、客観的に自分を見ている自分がいた。それはまるで、パニック映画を見ているような感じで、主人公がどんな目にあっても俺には関係ないって感じだ。



 これはまさに、心の欠如。なにかが足りない。でも、何が足りないのか理解することはできない。

 この世界に俺と同じような不安定さを感じた。何かの欠如。そう、きっとこの世界はバグったのだろう。原因は俺。俺が目を瞑り光を遮断したため、穢れ神の力が正常に働かず、正しい? 世界を創ることができなかったのだろう。


  

 さてこれからどうするか。前と同じように田首城を目指してもいいのだが、この世界は俺を邪魔する者もいないしな。とりあえず、周りでも確認しておこう。


 俺は着替え終わると、すぐに玄関に向かった。しかし、その途中、リビングに誰かがいることに気がついた。


 そいつは腰くらいまである白髪で、頭から角が生えていて、神主の服を着ていた。そして、ソファーに座って普通にくつろいでいる。

 なんだ、あいつは鬼なのか?

 そいつは俺の気配に気がついたのか、パッとこちらを見てきた。


「おい、義貫こっちに来なよ」

「あんたは誰だ」

「わかってるくせに」


 そいつはニヤリと笑い、俺を見ていた。


 ああ、すでに分かっている。こいつが俺の中に住まう鬼なのだろう。


「俺の中の鬼……だろ」

「半分正解で、半分不正解」

「はっ? どういうことだよ」


その鬼は俺をじーっと見つめ、カップに入っているコーヒを飲み干した。それと同時にすっと近づき胸に人差し指を突きつけた。


「俺は鬼だ。それと同時に、俺はお前だ。俺はお前の中に住む鬼なんかじゃなく、お前自身だ」


 その言葉を俺はすぐに理解することはできなかった。なぜなら、胸に爪が若干刺さって痛かったのだ。まあ、これは一瞬のことだ。話の内容を理解した時俺にはじじいの言葉を思い出した。鬼はお前自身。答えは既に知っていた。


「お前は俺。俺とお前は同じ」

「やっと理解してくれたか」

「じじいが言ってたからな。それと、爪が刺さって痛いから離れてくれないか」


 鬼は、後ろに下がり、ソファーへと座った。


「おっとすまない、すまない。でも痛いのはわかっていたがな。俺とお前は一身なのだから」

「だったら、なんで爪を刺したんだ」


 本当ならばここは怒りを見せるところなのだろうが、今の俺は心の欠如により、淡々と言っていた。


「いや、待て考えてみろよ。俺はお前だ。じゃあ、ただの自傷行為だろ」

「いや、答えになってないだろ。それじゃ俺がまるでマゾヒストみたいじゃないか」

「だったらそうなんじゃないか。っていうのは冗談で俺はお前を調べていた。いやもとい、俺は俺を調べていた」

「はあ? 」


 鬼の言っていることが俺には理解不能だ。鬼は俺自身、その答えがウソなのではないのかと思えてくる。

 俺の目の前にいるこの自称鬼というやつがあの蛇の差金なんじゃないかと思えて仕方ない。



 そうだ。この世界はあの蛇の創り出した世界じゃないか。だったら、こいつだって蛇が作り出した者。その可能性の方が高いのではないのか。だって、鬼と俺が同一のものならば、俺と出会うはずがない。


「いやあ、お前がそう思うのも仕方ないことだが、俺はお前っていうことに嘘はないんだぜ」

「お前俺の心を……。どういうことだよ。お前と俺が同一だから心が読めるということか。でもだったらお前の考えていることも俺にわかるはずだ」

「いやいや、それは同一だとか一身だとかいうことは関係ない。それの答えを知るためにはまず、この世界がどういう場所なのかということを理解しなければならないな」


 この世界がどういう場所なのかを理解するだと、この場所は蛇の創り出した世界じゃないのか。


「それが、違うんだな。お前も言っていた……。いや、考えていたじゃないか。俺がお前と出会うはずがない。だったらわかること」

「えっ。ならここは俺の中っていうことか」

「ご名答だな。そう、ここはお前の中。言うなら、お前の精神世界なんだよ」



「でも、おかしいじゃないか。俺の精神世界なら、なんでこんなバクり方をするんだ。 グニャグニャに曲がったダイニングテーブル。丸い形のテレビ。壁に埋まり、まるで絵のようなエアコン。ここが俺の精神世界なら、こんな風になるのはおかしいだろ」

「そう、この世界はおかしい。だが、前にいた世界が正しいと言えるか? 」


 前にいた世界が正しい……とは言えない。なぜなら、前の世界にはあの穢れ神がいた。それはもう精神に住むバグ【虫】。そいつがいることは正しいとは言えない。


「正しいなんて言えない。だったらどういうことなんだ」

「やはり、お前もバグっているな」

「俺がバグっている」


 その言葉は俺にも理解することができた。この心の欠如。これこそが、俺がバグっている証拠だ。


「お前は俺の心の欠如について何か知っているのか」

「まあ、知っているさ。だから、ここからは解答編といこうじゃないか。お前の全ての疑問に答えてやろう」


 自分自身でありながら、こうまで上から目線にで言われると何かが湧き上がってきそうになる。 


「じゃあ答えてもらおうか」

「まずは、そうだな。この世界のバグについてだ。ここはお前の精神世界でありながら、ここまでバグっている。なら答えは単純。お前自身がバグっているから、この精神世界も不安定で普通の世界にならなかった」

 この世界に感じていた俺と同じような不安定さは俺の心の欠如のせいだったのか。



「でだ。なんでお前がこんな状態になったのかはお前自身もわかっていると思うが、バグった世界に来る前にお前は蛇の目から発せられる光に対して目を瞑っただろう。それが原因だ」

「それが原因なのはわかるがあの蛇の行為に何の意味があるんだ」

「単純に言えば鍵を開けることだ」



「鍵? 」

「あの、行為はお前の精神の扉の鍵を開けるためだ。あの蛇は精神の扉を開け、そいつを操ることが目的なんだ」

「じゃあ俺はもうその扉を開けられているから俺の体は操られているんじゃないのか」



「いいや。精神には五つの扉があるんだよ。そのすべてを開けなければ。そいつを操ることはできないんだ。そして、お前は今四つ目の扉まで開けられている」

「えっやばいじゃないか」

「でも不幸中の幸いだ。お前は操られる手前で、この世界が自分の精神世界だと気づき、さらに俺に出会うことができた」



「でもどうやって現実世界に戻ればいい」

「それが問題なんだよ。ちょっとだけ面倒くさいことをしないといけない」

「なんだよ。早く言えよ」



「まず、お前のバグを直して、そんでこの世界に影響のある蛇の力をなくしたら終わりなのだが、少々やり方面倒くさくてな。お前のバグを直す方法は一度この精神世界から蛇の精神世界に行かなければならない。そして、そこでお前の精神の欠片を見つけることでバグは直る」

「見つけるだけでいいのか」

「ああ、見つければすぐに磁石みたいに引っ付いて一つになる」



「じゃあ、二つ目は」

「二つ目は、蛇の精神世界に行ったら誰かに出会うはずだ。そしたら、そいつを殺せ。それでこの世界に蛇の影響はなくなる。それが終わったら直ぐにこっちに戻ってこい。ただそれだけだ。それで現実世界に戻れる」

「殺すのか? でもどうやって」

「こいつをお前にやる。手を出してみろ」


 俺が手を鬼の前に出すと鬼は俺の掌に自分の手を押し当てた。ものすごく熱くなったと思うと直ぐにものすごく冷たくなった。そして、ちょっと痛かった。


「よしこれで終わりだ」


 掌を見ると、丸の中に鬼と書かれていた。

「なんだこのダサい刺青はこんなの人が見たら、頭おかしいと思われるだろ」

「いや大丈夫だ。直ぐに消える。そいつは使いたい時にしか出てこない。使い方は簡単、その手をそいつの体に触れればそいつは死ぬ」

「それだけなのか? 」



「ああ、それだけだ。その手は穢れを吸い取ることができる手にしておいた。だから、穢れ神にも有用だ。だが、使いすぎはよくない。穢れを吸い取るってことは体に穢れが貯まるってことだからな。そしたら、お前は悪鬼の姿になってしまうだろう。それだけ穢れというのは精神まで悪くしてしまうものだからな」



「じゃあ吸ったあとの穢れはどうすればいい」

「式札に手を当てて穢れをそそげばいい。そうすれば式札に穢れが移り、お前の中の穢はなくなる。さらに、式札が式神となり少しばかりの鬼の力を使用できるだろう」

「鬼の力? 」

「まあ使っていたらわかる。じゃあ、玄関出たら行けるから頑張ってこい」


 俺は鬼に押され、無理やりに玄関の外へと押し出された。


「おい、使い方もわかんねぇのにどうしろって言うんだよ」


 俺の言葉は鬼に届かなかった。すでに、別の精神世界へと俺の体は送られていた。そこは、真っ白であり、真っ黒な風景だった。

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