7月25日 無限回廊と蛇
俺の体は眠っているのか起きているのかわからない。まるで、空に浮いている感覚で、自分の体なのに動かせなかった。その感覚が徐々に無くなっていき、体が自由に動かせるようになり、目を開けた。
ここは、どこだ。
さっきの眩い光のせいでまだ。景色がはっきり見えなかった。しかし、誰かがそこにいることはわかった。
目が段々見えるようになって来たとき、俺は衝撃をうけた。
俺が目を開けた場所は自室のベットだった。そして、普段と変わらないアキラとテトの姿がそこにはあった。
なにがどうなっている。
「おい、あの後どうしたんだ? いつ家に帰ってきたんだ。蛇は、藤波はどうなった」
息を荒げながらアキラとテトに質問するも、二人共キョトンとした顔でなんのことか分かっていないようだ。
「なんのことを言っとるんじゃ。蛇? 藤波? 怖い夢でも見たんじゃないのか」
「嘘だろ。アキラお前は覚えているだろ」
「覚えているもなにも私は知らないぞ。夢だろ」
「夢じゃない。城の中にいた馬鹿でかい蛇のことを覚えていないのかよ」
二人は、首を傾げ、こいつ頭おかしいんじゃないかという目で俺のことを見てきた。
「まあ、そんなことよりも起きたんならさっさと支度しろ。今日もあそこに行くんじゃろ」
「えっ? 」
テトの今のセリフを聞いたのは二度目だ。いやそれに今日もあそこに行くって。
「おい、今日は何日だ」
「7月25日だけど」
「馬鹿言うなよ。今日は7月26日のはずだ」
急いで、日付を確認した。パソコンの日付、デジタル時計の日付、あらゆる物の日付を確認した。しかし、全てが7月25日と書いてあった。
嘘だ。そんな、時間がループしている。どうしたらいい、混乱する。いや、冷静になれ原因は奴だ。あの蛇の元に行くことが先決だ。俺にはそれしかできることがない。
「早く準備していくぞ」
「ああ、わかった」
未だ、混乱していたが冷静を装い、支度を整え田首城を目指す。
そして、田首城の入口である鳥居にたどり着いた。その道中、自問自答しながら出した答えは結局この場所に行くことが最善策なのだということだった。
目の前にある鳥居はやはり、同じように忌々しい鳥居に変わっていた。中も同じだ。異常な空間だった。そして、テトやアキラの感想もまた、ほとんど一緒だ。
俺だけが記憶を受け継いだ状態でループしている。誰も俺の言っていることを理解してくれないのはかなり精神的にくる。
そして、頂上につき夢でないことを確信した。そこには同じように黄金に輝く城があった。しかし、見間違いかもしれないが城の段数が前見たときよりも一段多いような気がする。確か、この前見たときは三段だった気がするんだが、今は四段だ。これを確認することはできないが、俺は妙にその段数が気になって仕方なかった。
考えをまとめる余地もなく城門が
―――ゴゴゴ
と音を立てながら勝手にゆっくりと開いた。
中に入ると、やはり勝手に
―――バタン
と音を立てて門が締まった。
俺はすぐに見えない壁を探すことにした。その様子を見ていたテトやアキラは俺をあきらかに不審者を見るような目で見ている。
しかし、そんなことよりもあの蛇の穢れ神の元に行くことしか俺の頭にはなかった。
見えない壁を見つけるとその壁に沿って歩いた。
そして、たどり着いた先はやはり2階へ続く階段だった。その階段を駆け上がり2階に着くと目の前にはあの白い大蛇と藤波の姿があった。
大蛇の体は前に見たときよりも少しだけ大きいような気がしていた。
「お前は俺に何をした」
「やっと気がついたか間抜けめ。お前はもう私の世界から出られないのだよ。永遠と続く7月25日をさまよい続けるのだ」
「私の世界? 永遠と続く7月25日だと。何わけのわからないことを言ってるんだ。お前を倒せば終わるのか? 」
「さあな」
俺はアキラの持つ天聖鬼神を奪い取ると大蛇に向かって走った。
「おい待て義貫」
俺は止まれない。こいつを殺すしか手はないんだ
大蛇に刀を振り下ろす。
「なに? 」
しかし、当たらない。
いや、実際には当たっているのだが、大蛇の体が空気のようで手応えがないのだ。
「馬鹿な奴だ。言っただろうここは私の世界だと」
大蛇が俺の体に巻きつき、きつく締めてきた。
なぜ締め付けられるんだ。コイツの体はさっきまで空気のように実態がなかったじゃないか。
じゃあ、今ならこいつに攻撃が当たるかもしれない。
俺は、力を振り絞り刀を大蛇の体につきつけるが、手応えがなかった。
嘘だろう。こっちの攻撃は無効なのかよ。
意識の薄れる中最後に見たのは、大蛇が光った目で俺を睨みつける光景だった。
そして、意識がもどる、やはり場所は自室のベットだった。
また、戻ってきた。また振り出しだ。あいつは「ここは私の世界だ」と言っていた。そして、「永遠と7月25日を続ける」と言った。
でもなぜ、あいつは俺を生かす必要があるんだ。殺す方が簡単なはずだ。
それに、自分の世界ならあんな城なんかで待ち受けていないで、向こうから出てくればいいのに。なぜ、そんな面倒くさいことをするのか。なにか理由があるんじゃないのか。例えば、こうするしか方法がないとか、もしくはそうすることを楽しんでいるとか。
こうするしか方法がないというならこの永遠に続く世界にはなにかルールがあるのかもしれない。そのルールがこの世界から出るための鍵だろうな。でもルールが分からなければ俺は一生この世界から出ることはできない。
まずは状況整理だ。
「義貫起きたのか。今日はまたあの場所へ行くんだろ」
「いや今日はいかない」
「どうしてだ。お前が行くと言い出したのであろう」
「いや、少し考え事がしたいんだ」
「そんなことはいいだろ。早く支度していくぞ」
おかしい。なぜこいつらはこんなに俺をあの城へと向かわせるんだ。
まず、なぜ俺だけが記憶を引き継いでいて、こいつらだけは記憶をなくしているのか。そして、俺を城へと導こうとする行為はまるで、誰かの意思でそうすることを強いられているような、操作されているような気がする。いや、もっと単純な気がするな。あいつは「お前はもう私の世界から出られないのだよ」と言っていた。なぜあいつは「お前達」ではなく「お前」と俺だけを指していたのか。それはあいつが創り出したこの世界に俺だけが拘束されているからだろう。じゃあ、アキラ達はなんなのか。
それはきっと、この世界の主である所謂GMの大蛇の穢れ神が作ったNPCだろう。だから、アキラ達は俺をあの城へと導くという単純な作業を遂行するためだけにいる。さらに言えばあの穢れ神に会わせることが目的なのではないか。
じゃあ、藤波はどうだ。あいつはただのNPCかもしくはこの世界に拘束された俺と同じなのか。
「おい、義貫聞いているのか」
「ああ、わかっている。あそこに行くことはわかっているが、そうせかす必要なんてないだろう。まだ朝の……」
時計を確認すると7時だった。バスが出るのは7時50分。そして、次の便が出発する時刻は11時50分だ。なら、11時50分ので行っても問題ない。
「7時じゃないか。それなら11時で行っても問題ないだろ」
「えっ何寝ぼけたことを言っているんだ。もう、11時20分だぞ。早く行かないと間に合わないぞ」
「えっ何を言っているんだよ。」
もう一度時計を確認してみた。
「なんで11時になっているんだ。さっきまで7時だったじゃないか」
この世界はあいつの世界、時間も思いのままなのか。
考える間も与えられず、俺は進むことを強制された。
俺ができることと言ったら、それはその道中でこの世界のルールを考えることだ。
ルール1.この世界のスタート地点は自室のベッド、時間は朝の7時頃
ルール2.この世界のゴール地点は穢れ神に出会い目が光った瞬間
ルール3.アキラとテトは俺を穢れ神の元へと導くNPC
ルール4.この世界の時間は穢れ神の思いのまま
ルール5.この世界では穢れ神に攻撃することはできない
今俺が考えられるルールはこれくらいだろう。
そして、俺はまた同じようにあの城を目指した。やはり、城は5段に増えていた。
ルール6.1日が繰り返されると城の段数が増える
階段を上がり、大蛇の元へたどり着いた。
その時見た、大蛇の姿は最初見たときよりも一回り大きくなっている気がした。
ルール6.1日が繰り返されると城の段数が増え、穢れ神の体も大きくなる(加筆)
「また、来たのか。懲りない小僧だな」
「お前がここへ向かうように仕向けたんだろ。アキラとテトを使って」
「そこまで、バレていたか。でももう抗えないぞ。お前は死ぬまで何度もこの1日を繰り返すのだからな」
「いや、俺は足掻いてみせる。お前の手の平で踊らせれようともな。あっお前に手なんかなかったな。ごめん、ごめん」
「冗談が言えるのは今のうちだぞ」
「そんなことはわかっている」
こんな、どうでもいい話をしているのには理由があった。それは、藤波がNPCなのかどうかを確認するため。とりあえず、観察することだ。
藤波は白い蛇に四肢を拘束され身動きが取れない様だ。それに気も失っているのか死んでいるのかそれさえもわからない。
「そんなにあの小娘が気になるのか」
「さあね。お前の方こそ、あいつに気があるんじゃないのか」
「いや、それはある意味正しいぞ。私はこの小娘のおかげでここまで成長できたのだからな。コイツの信仰心には心底驚かされた」
こいつの今の言葉で、藤波が生きている可能性だけは格段と上がった。神は信仰心によって力を強大にできる。しかし、その信者がいなくなるとその強大な力は無になる。なら、藤波をこいつが殺す意味はない。じゃあ、藤波がもしNPCじゃないなら気を失っているだけか。
「じゃあそろそろ1日を繰り返すことにしよう」
穢れ神は目を見開いた。その瞬間俺は目を瞑る。目が光りそれを見た時がこの世界のゴールなら、目を閉じればまだ今日にしがみつくことができるかもしれない。
瞼の奥に光を感じた。その光がなくなった。あの意識が遠のく感じはなかった。
ゆっくりと目を開ける。そこは、自室のベットではなく、真っ白な部屋だった。