7月22日 アキラの運命
帰り道のことである。
俺の携帯にメールが届いた。それは、中村からだった。
メールには呪いの詳しい情報とどういう結末だったのかというのを知らすようにということだった。
確かに、『呪いは解決した。』ということだけでは何もわからないな。
ということで嘘と本当ざっくばらんに交えメールを打つことにする。
呪いについては呪いという風にするよりも、病気ということにしておく。自制心をなくしたり、人を疑ってしまうウィルス性の風土病ということでいいだろう。
そして、病気の解決方法はすでにウィルスがその場所からなくなっていたということにしておこう。
こんな感じでメールを送信するとすぐに中村から返事が返ってきた。
中村はなにかを勘付いているのかメールの内容を疑ってきていた。それに、去年の秋の話を持ち出してきた。
中村は独自にこのことについて調べていたのかもしれない。
さらに、メールが送られてきた。そこには“牛の首谷怪奇事件”と書かれいてURLが貼られていた。
そのURLの場所へ行ってみるとあの事件の生き残りである少女を担当していた精神病院の看護師の文章だった。
奇妙な終わり方をしている文章には不気味さがあった。
そして、終わりの部分を縦読みすると、「わたしも呪われているいます」となる。もしかすると、この看護師にも呪いは伝染したのかもしれない。
また、中村からメールが送られてきた。
『もし呪い、いや君の言う病気が電子メールからでも伝染するのだとすれば、去年の事件はこのことが関連しているのじゃないのだろうか。俺も呪いなどは信じたくはないが、人を疑うという点では去年の事件に酷似している。ということは去年の事件はまだ終わっていないんじゃないのか』
メールの内容から中村が焦っているように俺は見えた。確かに、終わっていないのかもしれないでも焦ることはない。その道のプロにおまかせしたんだから。
中村へとメールを返す。
『呪いは解決した。それに、まだ残っているとしてもその道のプロに頼んであるから大丈夫だ』
また、すぐにメールが返ってくる。わかったとだけ書かれていた。
中村は嫌々ながらも了承したようだ。
携帯をポケットにしまい、家路を急ぐことにした。
その道中、なぜか猫がいつも以上にいる気がした。テトが猫を使って呪いを探しているのだろうか。
家に帰ると部屋には漫画を読んでいる二人の姿があった。
「懇談会はどうだったんだ」
「ああ、暇な会だったよ。大人が酒を飲むのに付き合っていただけだ」
「そうか、なにか話は聞かなかったか? 」
アキラはなにか不安そうな顔をして俺を見ていた。やはり、楓さんのことなのだろうか。やはり、知らないふりをした方が。
俺は少しだけ忘れていた。俺の考えていることはアキラには筒抜けだ。つまり、俺はアキラに嘘を吐くことはできない。
「そうか、話を聞いてしまったのか」
「やっぱり、お前も巻き込まれていたんだな。なんで言ってくれなかったんだ」
「私は話したくなかっただけだ」
「そんなに嫌なのか? 」
「義貫には関係のないことだ」
「関係ないことはないだろう」
俺はムキになっていた。アキラの肩を掴んで揺さぶった。
「何するんだやめろ」
俺の手をアキラが払いのけた瞬間、アキラが首に巻いている赤いマフラーが取れた。
そして、俺は見てしまった。マフラーに隠れていた胸元に五つのホクロが綺麗な円形になってあった。
「お主ら喧嘩をするんじゃない」
テトが俺たちの間に入って止めようしたが、俺の耳には入ってこなかった。
楓さんが言っていた、五つのホクロがなぜアキラにあるんだ。俺の疑問はそれだけだ。楓さんの呪いのような運命、その証の五つの黒い点。それがなぜかこいつにあるんだ。
「なんで、お前にそのホクロがあるんだ」
なぜ俺はこんなに怒っているのだろうか。こんなに感情を剥き出しにして怒ったのはいつくらいだろうか。怒ったあとに後悔の波に襲われた。そのため、黙ったアキラを見つめることしか俺にはできない。アキラの口から答えが出るのを待つしかなかった。
「……」
しばしの沈黙。
「鬼の子よなんで泣いているんじゃ」
「えっ? 」
俺はいつのまにか泣いていた。そして、気づいたんだ、俺がなんでこんなにイラついたのか。それは、アキラが俺や楓さんの運命に巻き込まれて死んでしまったということが悲しくて、自分の知らないところで誰かが傷ついていたことが悲しくて、自分にイラついていたんだ。
「義貫、私は大丈夫だぞ。それに、私は関係なくないんだよ。私にも運命がま
とわりついていたんだ。そして、このホクロがその証だ」
「どういうことだよ」
「私は、仙石楓の呪いを移すための容器なんだ」
「容器だと? 」
「ああ、私は生まれながらにして呪われて死ぬ運命だったんだ。それに、あの呪いは誰かが背負わなければならないものなんだ。背負って死ぬことが私の運命だ」
「でもお前はそれで」
「良くないよ。でも、ずっと続くんだよ。永遠と終わらない日が進むんだよ。誰かを殺すまで、仙石楓が生きて新しい一日を過ごすまで、永遠に終わらない。仙石楓がハッピーエンドを迎えるまで永遠に終わらないんだよ」
楓さんの言っていた死んだら、また生き返るということか。
無限ループの恐怖の中で進むことをしかできず、最後に死んだこいつの運命がすごく悲しかった。
そして、なんでお前はまたその運命に関わろうとするんだ。なんで自分を間接的でも殺した鬼一家の俺のそばにいるんだ。
「私はこの運命の結末が見たいんだ。だから、義貫のそばにいるんだよ。ただそれだけなんだ。気にすることはない」
俺はアキラを抱きしめていた。
「なにをするんだ、義貫」
「すまん。だが、こうさせてくれ頼む」
「ようわからんがいいだろう」
「何がなんだかわからんがワシも混ぜろ」
テトが俺たちに抱きついてきた。少しだけ、心が落ち着いた。今、アキラが楽しく過ごせているならそれでいいのかもしれない。ただ、俺はアキラと同じように進むだけだ。