7月21日 呪いと猫神
先に「牛の首谷怪奇事件」http://ncode.syosetu.com/n6152cg/を読むとより面白いと思います。
R15で残酷な描写があるので苦手な方は気をつけてください。
最初の一歩を踏み出した。
玄関からすでに穢れが出そうな雰囲気ではある。
「アキラさん申し訳ございませんが前を歩いてもらってもよろしいでしょうか」
「なんでだヘタレ」
「いや、やはりレディファーストという言葉もありますし」
「ただ怖いだけだろ」
「まったくもってその通りでございます。ヘタレで構わないからお願いしますよ」
「普通に考えて女の子に前歩かせるとか男としてどうなの」
「いやいや、考えてもみてください、あなたが普通の女の子であれば私も前を歩くことに何も疑問を持たない。ですが、あなたは神の使いですので私が前を歩く必要もないかと」
はい、完全にヘタレです。というか、命の危険がありそうで怖いのです。だから、死んだ人が前を歩けばいいじゃない。一回死んでんだから別にいいでしょ。というのが私の考えであります。
「おい、心の声が聞こえるんだからな」
「申し訳ございません」
「横についてやるから進め」
「わかりました」
―――チリーン
どこかから鈴の音が聞こえた。
「アキラ、今の音聞こえたか?」
「ああバッチリだ」
なぜ、ドヤ顔でサムズアップをしているのかはさておいて、鈴の音が聞こえた方へと進むことにした。
そして、そこにいたのは一匹の黒猫だった。
俺に気がついているのかいないのか、毛づくろいをしている。一瞬だけ俺と目があったと思うと俺たちのことはどうでもいいかのようにまた毛づくろいをし始めた。
そして、満足したのかこちらを見向きもしないでどこかへ歩いて行った、と思いきや立ち止まってこちらを見ている。まるで、ついて来いと言わんばかりだ。
とりあえず目的が漠然としているため、その黒猫についていくことにした。
黒猫は俺たちがついてくるのを確認すると前に前にと進んでいく。それは、目的地がしっかりとしている足取りだった。
最終的にたどり着いた先には、祠があった。
黒猫はその祠の屋根に飛び乗った。その瞬間、黒猫はネコ耳の付いた少女の姿に変わった。
「「えっ?」」
俺とアキラはただ目を丸くしてその少女を見ていた。
何が起こったのかわからなかった。目の前で起こった衝撃の事実に口を開けたまま驚いていた。
えっここは魔法学校なのか。猫が人間に変わるなんてありえますか。
「鬼の子よ、可愛いからといってそんなにワシを見るんじゃないぞ」
容姿とは裏腹に古風な喋り方に違和感を感じつつもそんなことはどうでもよかった。なんなんだこいつ。
「義貫こいつは神様みたいだ」
「えっ? 」
「どうやら、この家を守る守り神だ」
「穢れ神じゃなくて守り神なのか。じゃあ呪いっていうのはなんだよ」
「鬼の子よ、お前はこの家の呪いを祓いにやってきたのか」
「ああそうだ」
この感情を何と言ったらいいのか。呪いのことも知りたいけど、それよりもお前はなんなんだ。なんで猫から少女の姿になったんだ。
そのネコ耳は触ってもよろしいのか。もふもふしてもいいのかそれをまずは聞きたいのだがどうなんだ。っと聞きたいが俺が変態だと思われるのが嫌なのでグッとこらえてネコ耳少女の話に耳を傾けることにした。
横にいたアキラが完全に俺のことを見て引いていたが今は気にしない。
「もうこの家に、呪いはないぞ」
「はっ? 俺は呪いを解くためにここに来たんだぞ。骨折り損かよ」
「いやいや、話はまだ終わっておらぬ。この家の周辺には穢れを封印する御札が貼られておる」
「ああ、見たよ」
「そうじゃな。例えるなら殺虫剤を家中に撒き散らしたら、ゴキブリが隣の家に行くように穢れも呪いもあの御札を貼り終える前にどこかへ行ってしまったんじゃよ」
例えがなんか分かり易過ぎた。なんて例えのうまい子猫ちゃんなんだ。アキラは以下略である。
「じゃあもうこの家には呪いはないのか」
「ないのう。でも呪いはまだ存在しておるぞ。さっきも言ったとおりゴキブリは隣の家にな」
「ということは、この家から出てどこかに行ってしまったということか」
「そういうことじゃ。ところでお主らはこの家で起こった殺人事件を知ってるか」
「十一人が殺害された事件だろ」
「あれは呪いのせいで死んだんじゃよ」
「呪いで? 」
「ああ、正確には呪われた人間によって殺されたんじゃ。この家は元々穢れが溜まりやすい場所に存在しておった。そして、溜まりに溜まった穢れのせいでこの家は呪われた。その呪いを抑える力を持っていたのがワシなんじゃ」
「じゃあなんで、人間が呪われたんだよ」
「あの事件の時、ワシは神としての力が弱くなっていた。それは、この家の当時の家長が死んで、信仰するものが誰もいなくなってしまったからなんじゃ。だから、ワシは呪いを抑えることができなくなっておった。さらに、ワシはどうやらこの家の者たちには災いをもたらす神だと思われていたせいで、家長になろうという者も現れなかったんじゃよ。それであんな事件が」
「その呪いはどういう呪いなんだよ」
「この呪いは、一番恐ろしい呪いなんじゃよ。誰でも誰かを殺したいだとかあいつをどうにかしたいという気持ちを持っているが自制心があるから実際にそういうことはしないだろう。じゃがこの呪いにかかると自制心が無くなるんじゃよ」
「じゃあ、自制心が無くなったせいで殺人が起きたのか」
「そのとおりじゃ。さらに、疑心も加わればもう泥沼。まさに殺し合いじゃったよ」
「殺し合い? 」
「この事件はいくつかの殺人事件が連続して起きているんじゃよ。一人で十一人も殺してしまった。バレるのは当たり前じゃろ。一人目は遺産目当てで、二人目は疑われて突発的に、三人目はペドフィリア。四人目は復讐。五人目は疑って殺したのと自殺。六人目は一人目の犯人と殺し合い。そして、一人だけが生き残った」
まさに、死の連鎖と言ったところだ。こんなことが呪いのせいで起きていたのか。
「でも、その生き残った人も後で死んだんだろ」
「自殺でな。呪いは自制心を無くす。そして、疑心によって何を信じていいかわからなくなっていたんじゃ。そして、この呪いの恐ろしいところは伝染するところじゃ。それも疑心というパワーアップも含めてな」
自制心と疑心。呪い。俺は過去にこの呪いに出会っているかもしれないと思った。
去年の秋の事件。これもまたこの家から伝染した呪いなのかもしれない。
「その呪いを消す方法はないのか? 」
「伝染した呪いを消す方法は呪われた人間を一人一人お祓いするしかないな」
「呪われた人間なんてどこにいるかわからないじゃないか」
「まあそこのところは大丈夫じゃよ。お主の協力があればな」
「どういうことだよ」
「ワシは呪いを抑えるための神様じゃ。しかし、この家はすでに呪いがなくなっていてワシの存在意義はなくなっている。さらに言えばここにワシの御神体があるせいでワシの行動範囲が限られておる。つまり、ワシの御神体をここからお主に持ち出してもらってお主の家にでも祀ってもらえば、ワシは街に伝染した呪いを抑えることができるのじゃ。それに、信仰するものが居ればワシの力も元通りになるのじゃ」
「っていうことは俺はこの祠を持って家に帰れというのか? そんなの無理だろ。恥ずかしいし」
「いやいや、祠の中に猫の像が入っておるからそれを持ち帰ってもらいたいのじゃ」
「祠の中? 」
祠の扉を開けると木彫りの黒い猫の像が入っていた。
「これか。そこまで大きくないんだな」
「おいおい、それでもワシの本体なんだ雑に扱わないでくれよ」
猫の像タオルにくるんでカバンにそっと入れた。
しかし、どうしたものだろうかこの家の呪いはなくなっているし、これは解決できたことになるのだろうか。
「そういえば、さっき俺のことを鬼の子と呼んでいたが、なぜだ」
「ワシは神じゃぞ。お主の体に流れる鬼の血が見えただけじゃよ」
鬼の血、やはり俺は鬼なのか。なんだかまともな人間として生きることが不安になって来た。
そんなことを思いながら、この廃屋を出た。
しかし、ネコ耳少女が家に来るなんて俺は勝ち組か。さらに、顔だけなから可愛いアキラもいるしな。
後ろからアキラが俺の延髄を狙ってケリを入れた。
「痛いな何をするんだ」
「お前、考えていることはただの変態だな」
「愉快な奴らじゃな」
家に帰ってきて本棚の一番上に猫の像を祀っておく横にお神酒や榊と供え物を置いた。
これでいいだろう。
さて、俺は、目の前の光景に満足していた。
ベッド上に二人の少女がいるのだ。しかし、悲しいことにどちらも生身の人間じゃない。
まあいっか。
さて、中村に報告をしておこう。少しだけ嘘の混じった報告だ。
ただ、単純に『呪いは解決した。』、とだけ送る。実際あそこの場所に呪いは存在していなかったのだから。
そういえば、あのネコ耳少女の神様の名前は猫神という至って普通過ぎる名前だった。そのため、もっと呼びやす名前を決めることになった。
なぜか、一番やる気を出していたのが当人である猫神だった。
俺は単純に黒い猫だから”クロ”でいいんじゃないかと思ったがそれだとペットみたいだということで却下された。
アキラは、鈴をつけているから”鈴ちゃん”でいいんじゃないかと言ったが可愛い過ぎて神様っぽさがないということで却下となった。
そして、猫神は、
「ワシの名は”アルティメットキャットゴッド神”でどうじゃ」
まあ、わかっているとは思うが絶対にありえないので却下にした。ゴッド神って神が二つもあるじゃないか。
もっと呼びやすく威厳のある名前という難題だ。
さてどうしたものかと思っていると、名前を考えるのに飽きて漫画を読んでいたら猫神にぴったりの名前が出てきた。
エジプトの神“バステト”こいつだ。
ということで猫神の名前はバステトから名前をとって神っぽい苗字もつけて“鈴神テト”になった。
本人も気に入ったようだし、アキラもテトちゃんなら可愛くていいなという感想だ。
こうして俺の一日は終わった。