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穢れ神と鬼  作者: 山神賢太郎
プロローグ
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7月18日 私と雨

 今日は雨が強いな。

 外にいるというのに、雨に濡れることのできない私は、その雨音と風の音を聞くことで雨が強いということを認識できた。


 私がなぜ、こんな雨が降る深夜に外にいるのか。それを説明するには、私のことを話さなければならないだろう。


 どうでもいいかもしれないが、私は夏が嫌いだ。それは、二年前の夏休みのある日、私は死んだからだ。自分の死んだ季節だから嫌いというのは、あれだがいろいろとありすぎて嫌いなのだ。その話をしてしまえば、少し長くなる。

 

 とにかく、私は二年前のある日、死んだのだ。その時まで、私は運命なんて、ありふれたモノを漠然としか考えていなかった。いや、全然考えていなかった。

 

 私の人生がその運命に拘束されているということに気づかされたのが、夏休みに入ってからだ。


 長い長い夏休みだった。永遠続くともしれない。夏休みだった。正しい道を行かなければ永遠と彷徨う、そんな迷宮だった。私は一人だ。誰も赤い糸なんて物を紡いではくれず、帰り道もわからない。

 

 そんな、私が彷徨ったことを、運命と戦ったことを、誰も知ることはない。

 そして、私が死ぬ思いまでしてなし得たことが、2時間映画の10分にも満たないモノだったことを知った時、私は愕然とした。


 この運命に拘束されているのは私だけではない。そんな私は主人公にさえ成れない。ただの脇役だったのだ。


 だが、誇れることはその役は私にしかできなかった、ということだ。私だけが、それを成し遂げることができる、唯一の人間だったのだ。それを知り、私は自分の死に納得し、死を受け入れることができた。少しだけ、救われたような気がした。


 私は、17年しか生きることができなかったが、誰に対しても胸を張れるような17年を過ごしてきたと思う。


 そして、私はまた現世で夏を過ごす。生まれ変わったわけではない。厳密に言えば違うが幽霊として現世に立っているのだ。


 そして、本題だ。私がここにいる理由、それは、この運命に拘束されている人間に会うことだ。脇役なんかじゃない。この運命(ものがたり)の本当の主人公だ。私はそいつに出会わなければならない。


 彼の名は鬼一義貫(きいちよしつら)。彼は高校二年の夏休みに運命に出会うことをまだ知らない。しかし、彼は知っている。いつかその日が来ることを……。



 私は彼がどうやって、この運命と戦うのか気になっている。そして、彼がどんな人間なのかも気になっている。私はただの傍観者であり、彼を少しだけ手伝う死者だ。これは使命であり、ただの趣味でもある。運命の最終目的地がどうなるのか、ただそれだけが知りたいのだ。



 私は、吉良アキラ(きらあきら)。雨に濡れながら、彼に出会うのを待とう。あの世で出会った男からもらった白いワンピースと赤いマフラーを身に纏い、捨てられた子犬のように電柱の影に佇む。



 今は7月18日午前2時過ぎ。今日は晴れるだろうか。死んでいる私はそんなどうでもいいことを思いながら、少し目を瞑ることにした。


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