終焉の時 3
…来た。
道の遠く端に立つ一人の兵士が身構えるのを見て、首筋の毛がぞわり、と逆立つ。わしは数歩下がり、そこにそびえ立っているサタンに声を掛けた。
「敵意は?奴らはわしらと戦う気で、出て来たのか?」
「どうやらそのようだ」
短い受け答え。しかし、その僅かな後には、それも確固たるものになった。
…兵士が瞬間で姿を消した。
目を見張る。さっきまで闘志をみなぎらせて堂々と立っていた兵士の姿は、しかしどこにも見当たらなかった。
どういう事だ。幾ら闘志があった所で、幾ら動きが素早かった所で、こんなに速く姿を消すことは出来ない。混乱するわしの横で、サタンはしっかりと理解しているようだった。
「…サシルか。いきなりやってくれる」
「今のは…」
「あれがあいつの破壊行動だ。距離、障害物は通用しないぞ」
…取り敢えず、迎え撃つか。
兵士を進ませようとした所で、サタンがそれを止めた。サタンは首を振り、弱い方の悪魔の中から、一体を進ませる。月明かりの中にその姿が出て行くまでの永遠とも思われる時間、わし達は固唾を呑んでそれを見ていた。
黒光りするその身体に黄色い月光が当たる。…と、その時だった。
生命が途絶えると言うのはこんなに呆気ない物だったのか。そう改めて思える程の早業で、悪魔は倒れ伏した。心臓があると思われる位置に、輝く青い矢が深々と突き刺さっている。
「これが…」
さすがに心当たりがあった。ヴェンフォンの空中戦闘部隊。この世でおそらく最強と言われている兵士達だ。既に上空に潜んでいたとは。
「行くぞ、進ませろ」
サタンがそう言うと同時に、敵が姿を現した。先頭を走っていた二つの黒い姿が同時に飛び上がり、闇に紛れる。
サタンが片手を突き出し、何かを打ち出した。木々を木端微塵にしながら突き進んでいくその[何か]は、真っ直ぐ奴らに向かっていく。
そして、先頭を走っていた一人に、命中した。暗闇の中でそいつが身体を反転させるのが見えたが、これなら一溜まりも無いだろう。
しかし、喜んだのも束の間だった。命中した筈のその人影は、あろう事か無傷で走って来る。
「そうか…蛇亀族がいたのか」
サタンが悔しげに呻いた。わし達は今度こそ、全兵を一気に進ませる。まずサタンを除く三十人の悪魔が舞い上がった。それと同時に、上空から降って来ていた矢の雨が途絶える。どうやら標的を変えたらしい。
一メートル程の間を開けて、わし達も相手も急停止した。互いにそのまま沈黙で対峙する。ふと上を見上げると、そこにも同じ風景が出来ていた。
サタンが鼻を鳴らし、害のない小さな閃光弾を取り出した。球を描くそれを、空高くに放り投げる。
重力に捕まったその球は、徐々に加速しながら落ちて来て、二つの集団の真ん中に落ちた。
目も眩む様な鋭い光が、瞬間夜を支配する。
戦いの火蓋が切って落とされた、まさにその瞬間だった。




