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DEATHEARTH  作者: 奇逆 白刃
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対立の伏線は 2

「なあ…そろそろ行かないか?」

「行くって…どこに?」

「決まってるだろ。キル=クェロッタさ」

万生がそう言って立ち上がり、伸びをした。日は既に頭上高く昇り、僕達に暑い光を投げかけている。人間界では冬だが、他の世界ではそうとは限らない。例えば、此処では初夏だ。フラムフエゴは年中真夏だし、オームルはほとんどが初冬。人間界の様に四季があるのは、ヴェンフォンと魔界位か。

ブイオが身を固くする。そして、僕には聞き取れない小さな声で何か呟いた。万生が心配そうにブイオの顔を覗き込む。

「どうしたブイオ?お前いつも先頭に立ってたじゃないか。らしくないぜ」

「…だな」

「え?」

「厄介だなって言ったんだ。あそこは、今まで行った所みたいに甘い気持ちじゃ行けない。幾ら作戦があるとはいえ、油断は命取りになりかねないんだ。冗談じゃなく」

「だからって、動かない訳にはいかないだろ」

「…だよな。分かった、行こう」

ブイオは一瞬息を詰めてからゆっくりと吐き、それから立ち上がった。空を仰ぎ、静止した後顔を正面に戻す。その時にはもういつものブイオに戻っていた。

「此処からキルまでは結構近い。二,三時間もあれば着く。けど、街が見えてきたら直ぐに馬を降りてそこからは歩くぞ。街の内部に入らない限りは攻撃されないから、入口の外側で最終確認と、偵察に行く」

「偵察?いきなり入るんじゃなくてか」

「詳しくは着いてから話す」

ブイオが馬に跨った。沙流が続き、僕と歌恋、揚魅と万生、でそれぞれ馬に乗る。ヴァネル達は馬に乗らないが、あの体の大きさがあれば付いて来る事は容易だろう。心配の必要は無さそうだ。

「キルに知り合いがいるんじゃないのか、ブイオ?やけに詳しいけど」

沙流が眉を顰めてブイオの顔を覗き込んだ。ブイオは言っている意味が分からないかの様に鼻を鳴らす。

「そんな訳無いだろう。巻物やヴァネル達からの情報、それと元々の知識。それだけだ」

「だから、その元々の知識にあっちからの情報が入ってるんじゃないのかって言ってるんだ」

「…それを知って何になる」

「あるんだな、繋がり」

「答えろ。俺が仮にキルと繋がっていたとして、それを知った所であんたにとっての何になるんだ」

「いや…別に。特に重要な理由は無いけどさ。でも―」

「だったら訊くな。訊かなくてもどうせ分かる。相手が俺の事を知ってたら繋がりがある、そうでなければ無い。それだけの事じゃないか」

沙流は後ろに下がって僕の隣に並びながらもごもごと口を動かした。それを聞き取ったブイオが怪訝な表情で振り返る。

「は?味方?」

「…キルに味方は居ないのかって訊きたかったんだけどな。おまえにそんな言い方されたら、言う気が無くなった」

ブイオの瞳孔が縮まる。ブイオは視線を落として泳がせ、何か言うのを躊躇っている様だったが、やがて前を向くと僕にも聞こえる大きさの声で呟いた。

「言う気を無くさせる、他人に嫌われるような事をする…それが、俺達の得意技さ。キルに味方が居るだなんて、あまり期待しない方が良いぜ」

そしてブイオは沈黙した。明らかに困惑した様な沙流が何か言っていたが、それにも答えない。

不思議だ。僕に対してはあんなに…あんなに、感情を曝け出して接してくれたのに。沙流だけが嫌悪されているのか?

違う。真実はその真逆だ。

僕だけが、ブイオの心に深く触れる事が出来る。いや、触れる事など出来ていないのかもしれない。ただ触れるチャンスが多いだけで。

だったら、何故?

僕は何故、そんな特権を持っている?悪魔でもない、ただ昔巡り会って再会しただけのこの僕が…。

気が付くと、漆黒に染まった高い塀の前に来ていた。どうやらこの中がキルらしいが、入口らしき物は見当たらない。

「此処に馬を置いて行くぞ。入口は真裏だ」

ブイオの指示で皆馬を降りた。特に繋ぐ必要は無い。馬が飛ばない様にと命令だけをして、僕達は円状に街を取り囲む塀を回り込んで行った。

「なあ、この塀は乗り越えられないのか?おれ達は飛べるんだから、それ位朝飯前だろ」

途中、万生が訊いた。ブイオは首をゆっくりと横に振る。

「あの巻物にしても記憶にしてもかなり昔の物だ。まさか無いとは思うけど…もしかしたら、空を飛ぶ何かが居るのかもしれない。俺みたいな地獄耳の、ナイフを投げる鉄人がいるかもしれない。それにこの塀の上は…イヌス、あんたなら分かるだろ?」

ブイオの言葉にイヌスが塀の上を見上げる。イヌスはこの中で一番視力が良い。何キロも先の獲物の姿をはっきりと捕えていた、と揚魅が言っていた。

直後、無表情だったイヌスの顔に驚愕の色が広がる。それは嫌悪へと変わり、また諦めへと変わっていった。僕達の方に視線を戻すと残念そうに首を振る。

「とても長い有刺鉄線が張られている。しかも動いて…いや、蠢いていると言った方が正確かもしれないな。その上を飛んで通過しようとした小鳥がそれに捕まって、数秒もしない内に破壊された」

「破壊?殺されたじゃなくて、ですか?」

「そうだ。骨も内臓も皮も何もかも、粉々に砕け散り、すり潰されて下に落ちた。全て内部に」

「…歩き続けるぞ」

誰も反対の声を上げなかった。黙ってブイオの後ろを歩いて行く。数分後、僕達は塀と同様にただ有刺鉄線が無いだけの巨大な鉄格子の門の前に立っていた。

「酷い…」

フィアンマが目を覆う。確かにそれは、グロテスクな光景だった。

老若男女関係無くあらゆる人々が、互いを憎み、殺し合っている。無傷な者は居ない。そして、この無残な殺し合いに加わらない者も居ない。幼い子供でさえも、自分の足で立つその前から掴み合いの喧嘩を始めている。

数秒に一度、一人の者が断末魔の叫びを上げて倒れ、命を失う。しかしそれと同じペースで、傷と出産の痛みに悶える女から子供が一人生まれていた。その子供はとてつもないスピードで成長し、気が付いた頃には戦いに加わり、自分を産んだ母親にさえも掴み掛かる。時にはその命を奪う事もある。

地面に落ちる首。それと同時に上がる産声。だから、此処の人口は減らない。そして増えもしない。故に、この戦いが終わる事も無い。

キルに味方が居る?味方してくれる?…戯言じゃないか、そんなの。

バトルロイヤルの世界に生きる者がどうして協力するんだ?

いや、それ以前に彼らは、協力という事を知っているのか?

自分以外は敵。殺す事だけが生き甲斐。そんな世界でそんな事を期待するこの僕は、何も知らない大馬鹿でしかない。

そして、僕だけじゃない。

この中で、全てを知っているのはブイオだけ。それ以外は皆、僕の様に甘っちょろい考えを持っていた。その全てが今、打ち砕かれた。

角翼族の石、殺角石を見付ける事でさえ、此処では出来ない可能性の方が高い。今の僕達には、ブイオに全てを委ねる事が最善の得策だ。

「それで?偵察はどうするんだ?」

万生が腕組みをしながら問う。作戦をもう一度話し終えたブイオは、頷いて万生の頭の上を指差した。

「行くメンバーは決めてある。まずは、その白猫」

ンニャア。

「それと、グアン」

キキッ。

ブイオの指が今度は僕の肩に向く。指名された二匹は返事をするかの様に声を上げた。

「…と、俺。これで全員だ」

「え…僕達は?」

「人間…いや、人型の者は行かない方が良い」

「君は人型じゃないか」

そうだ、とブイオは溜息を吐き、肩を竦めた。少しは頭を使えと見下されている様で少し悔しい。

「だから、こうやって」

ブイオが指を鳴らすとその姿は闇に包まれて形を変え始める。その闇が消えた時、ブイオは完全な蝶の姿になっていた。市庁舎で沙流や歌恋と見たあの蝶だ。左目と尻の先は赤く、それ以外は全て漆黒。蝶の姿になったブイオは鉄格子の隙間を抜けて街の中へと消えて行った。その後ろにグアンが、そして白猫が続く。僕達の周りは、門の中とは正反対の静けさに包まれた。


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