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DEATHEARTH  作者: 奇逆 白刃
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光の導きを 2

「えーっと」

大勢の視線がおれに注がれている。揚魅は言葉を失い、気を取り直して咳払いをした。

「この前皆が見たように、今のおれ達だけじゃあの市長の軍を打ち負かすのは不可能に等しい。だから不可能を可能にする手段として、おれはある心強い友達に味方になってもらいたいと思う」

皆から賛同の声が上がった。ただ一人、紗蘭だけがおれを心配そうな目で見詰めている。おれのしようとしている事を分かっているんだ。

「その味方なんだが…今、此処には居ない。居場所も分からないから、苦労して探しに行かなければならない。でも、かつてSunに住み、おれの友達である彼らなら、絶対味方してくれる。だから、おれはあいつらを探しに行く」

目の前の群衆に、どよめきが広がっていく。紗蘭は、今にも泣き出しそうだ。

「じゃあどうやって探しに行くんだ?俺らが想像してるよりも、この世界は広いんだろ?探してる間にお前が死んじまったらどうすんだよ?俺らに、帰って来ない消息不明の仲間をずっと待ってろって言うのか?」

一人の若い男が声を上げた。それにつられる様に、どよめきが一つの大きな問いと化す。

「心配いらない!」

おれの叫びに声がぴたりと止み、静寂が部屋を支配した。皆の視線がおれに注がれる。皆、言葉の続きを求めているんだ。

「心配いらない。おれには、これがある」

手に持った白い石を、皆に見えるように掲げる。石が発する光に、皆身じろぎした。

「この石やその仲間を、あいつらは必要としている。ウイルスにやられた歌恋は、その石を持って歩いていった。この石が、おれをあいつらの所へ導いてくれる」

「…ウイルスにお前が感染するって事は無いのか?」

さっきの男が遠慮がちに訊いた。首を振る。

「大丈夫だ。ワクチンはちゃんと、打ってある」

もう誰も何も言わなかった。それを承諾と見なし、紗蘭の所へ歩く。

「揚魅…絶対に帰って来て」

紗蘭は目に涙を溜めながら、それだけ言った。石と一緒に、おれの手を包み込む様に握る。

「來も、歌恋も、あなたと同じ道を辿ったわ。來はきっと無事。歌恋もきっと、來と一緒に居る。だからあなたも大丈夫よ。あなたはわたし達よりもずっと強い。あの子達を連れて来るんでしょ?わたしは信じてるわ。あなたが、あの子達を連れて帰って来るのを、皆と一緒にずっと待ってる」

紗蘭がおれの手を離す。おれは紗蘭の眼をじっと見詰め、そしてゆっくりと背を向けた。

家を出る。振り返ろうとは思わない。今の柔らかいおれの決心は、少し振り返っただけで揺らぎそうだ。

Earthに入り、街も人もようやく見えなくなった所で足を止める。今のおれはアンドロイドの身体だ。手の中の石は熱を持ち、それは機械を通しておれの魂にまで伝わって来る。

さっきおれは、この石が來達の所に導いてくれると断言した。しかし、本当なのか?この石は本当にそんな素晴らしい役目を果たしてくれるのか?

―おれがこの石をあいつらに届けるのは正しい事なのか―

本当はもっと相応しい人がいたんじゃないか?例えば、さっきの若者とか…

今になって、自信が失われていく。しかし、此処に来て引き返す訳にはいかない。

手の中の石に願ってみる。來の所へ、仲間の所へ導いてくれと。

しばらくは、何も起こらなかった。しかし突然、石がおれに囁きかけた。言葉ではない何かが、おれに正しい道筋を教えている。

静かに息を吸い、足を踏み出した。気分は、初めて未開の地に足を踏み入れた探検家って所か。とても緊張して、でも楽しみに思っている。

これからの道のりは、厳しい物になるだろう。恐ろしい獣に襲われるかもしれない。知らない土地の住民に捕まり、帰れなくなる…いや、下手したら殺されるかもしれない。

そのいずれにしても、良い結末は迎えられない。希望としては、たった数日で來達を見付け出し、颯爽と戻って褒め称えられる…と行きたい所だが、そうもいかないだろう。せいぜい傷だらけになってあいつらに担がれ、褒められるより先に心配されるのが関の山だ。

だったら何故、こんな事をしようと思い立った?得よりも損の方が多いのは、誰が見ても明らかだ。それなのに何故?

誰もいない平原に、おれの笑い声が響き渡る。楽しい。この矛盾した状況が、とてつもなく楽しい。今のおれが、まるで狂った様に興奮しているのを感じる。今なら、そこらにうろつく野生の凶暴な獣でも数百匹纏めて倒せそうだ。

しかし、今此処で狂う訳にはいかない。大きく深呼吸をして、光の導きに身体を研ぎ澄ませる。

ようやく落ち着いたおれが真っ先に感じたのは、戸惑った様に動く道しるべだった。目的地が二つあるかのように、光は二つの方向の間で迷っている。自分で決めなければいけないのか。溜息を吐く。

伝わって来る条件と選択肢は二つ。早く來達のもとへ向かうのを選ぶなら右、力となってくれる新たな仲間を手に入れるのなら左寄りに直進だ。

とても難しい選択だ。今こうしておれが迷っている間にも、市長の軍は刻々と力を蓄えている。もしかしたら…いや絶対、よからぬ事を企んでいるに違いない。おれ達の眼には、善良という名の膜が剥がれた市長の本来の姿が、見え隠れしてきている。その姿は、残忍で非道な、善良という言葉から最も離れた場所にある独裁者だ。その独裁者は、おれ達の行動に気付いて襲ってくるかもしれない。それならば、一刻も早く來達を連れて戻るべきだ。

しかし、市長の軍が予想外に多い人数だったらどうする。幾ら來達の力を持ってしてもかなわない様な膨大な人数だったら?…味方は多い方が良い。この光が迷う程の事だ、そいつらはきっと來達に匹敵するか、居なければ勝てないかのどちらかだろう。

しばらく迷った末、揚魅は左の道を選んだ。この道は、新たな仲間を手に入れる道だ。

この選択が正しい事を証明する物は無い。でも、何となくだが、この道の方が希望は大きい気がする。もし戻った時に仲間が襲われていても、形勢を逆転出来るかもしれない。しかしもちろん、それで得た勝利は多大な犠牲者を出した後味の悪い物となる。でも、全滅させられるよりはましだ。

おれの気持ちが固まると同時に、それまで迷っていた光はその方向のみを指すようになった。道筋を現す光の筋が、おれに見えるようになる。

歩いて行く内に、周りに広がっていた平原にちらほらと木が見え始め、いつしか周りは鬱蒼とした樹海になった。足元にあった筈の踏み固められた地面は柔らかくなって草が生え、その草がおれの足にまとわりつく。それでも光は森の奥深くを指すから、おれはただ黙々と歩き続けた。

突然視界が開けた。そこには大きな泉があり、澄んだ水を湛えている。その泉を取り囲むように、木や藁で作られた家が立ち並んでいた。

自然を愛する人間が立てた別荘かと思っておれは近づいて行った。だが、明らかにそうでない事に気付く。全ての物が、異様に馬鹿でかいのだ。本能が、近づくなと警告している。しかし、光はその集落の中心…つまり池の上空で途絶えていた。

池にゆっくりと近づきながら、おれは誰も居ない事を願った。この集落が住民に捨てられた物であってほしい。頼む、巨人に握りつぶされて一生を終えたくは無い。

しかしこういう時に限って、ささやかな希望は呆気なく打ち砕かれる物だ。恐れていた事が起きる。おれの正面に立つ家の戸に掛かったすだれの様な物が巻き上がり、住人が顔を出したのだ。

不幸にもおれは、その顔を見たまま眼が離せなくなってしまった。声が出せないし、身体も動かない。したがって、頭を下げて失礼しました、と背を向けて立ち去ることは出来ない。住人の眼には明らかな敵意が浮かんでいるというのに。

住人が家から出て来た。改めてその大きさに驚く。本物の巨人だ。身長が五メートル位ある。人間らしい顔つきをしているが、むき出しの肌は緑色をしていて、目は青色。耳は尖り、長く伸ばした金髪を編んで首に巻き付けている。歩いている内に惑星を離れ、異星人に出会った気分だ。

おれの前に来た巨人がしゃがみ、硬直したおれの眼を覗き込む。

「…名前は」

声は、そんなに大きくなかった。声色も人間そっくりで、それからすると多分この人は男だろう。それも若い。二十歳位か。

「…揚魅だ。…おれの言葉が分かるんだな」

震える声で、ようやくそれだけ言った。巨人の眼から警戒の色が消える。

「人間が来たのは、久しぶりだ。言葉も、全部は分からない。でもお前は、悪い奴じゃない。俺はヴァネル。今は俺の家、来い」

ヴァネルの家…といっても、全然家らしくなかった。椅子や机どころか、家具という物が見当たらない。自然に溢れた部屋が一つ、あるだけだ。

「アミ、何しに来た。此処は俺達メヒムの場所。気付いたのが俺の父だったら、お前は、殺されていた」

床にあぐらをかいて座ったヴァネルは、そう言って眉を顰めた。ヴァネルの服装は、短い半ズボンの様な物だけという極シンプルな物。ヴァネルが息をする度、筋肉に覆われた厚い胸板が上下する。

「おれは、どうすればいい?」

「父にお前の事を、話してみる。もしかしたら、受け入れてくれるかも」

ヴァネルはしばらく考えた末にそう言うと、外から見えない様におれを隠してどこかへと歩いて行った。今まで驚きに隠されていた恐怖が、途端に湧き上がってくる。場合によっては、おれは殺される。こんな事になるのなら、初めから來達の所へ向かっておけばよかった。

それからしばらくして、ヴァネルが戻って来た。しかし今度は、更にがっしりとした男と一緒だ。この男がきっと、ヴァネルの父親だろう。

「父、お前に会いたいと言った。だから連れて来た。今はまだ、お前は殺されない」

ヴァネルはそう言うと、おれには分からない言語で父親と二言三言話した。父親が頷き、おれの前に座る。その服装や肌と眼の色、長い髪を編んで首に巻いているのは同じだが、金髪ではなく白髪だ。でも、その表情は険しさと威厳に満ち溢れている。筋肉で盛り上がったこの腕に締め付けられれば、おれの背骨などいとも簡単に折れてしまうだろう。更なる恐怖で全身の毛が逆立ったのを感じた。

父親の視線が、おれの身体の上を舐める様に動いていく。そして口を開いた。

「おれの名はケイル。おまえが人間なら即座に殺す所だが、お前の身体は人間とは違う。良く出来た、偽物だ。だから、おまえの話を聞く。此処に来たのも、理由があっての事だろう。おまえの話が終わった所で、おまえを殺すかどうかを決め、殺さないならおれが人間を嫌う理由を教えよう」

ケイルが話す言葉は、ヴァネルと比べて遥かに流暢だった。そのおかげで、おれの命が引き伸ばされた事を理解出来る。

あまりの安堵、それに今までの疲労が加わり、おれは気を失った。


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