黄金色に輝く街 5
家のドアを開けると、夜景と同じ色の眩い光が目を射た。中では三人がソファーに並んで座り、紅茶をすすっている。四人に気付いた沙流がカップに口を付けたまま手を振った。
「何だよ、皆遅いじゃないか。何してたんだ?」
「大した事じゃないよ。水晶についての見解をちょっとね。聞きたいか?」
「ああ…いや、遠慮しとく。おれの頭じゃ、聞いた所でどうせ四分の一も理解出来ないだろうから」
だよな、とブイオが沙流の頭を掴んだ。沙流はその手を軽くはらい、ブイオを睨み付ける。
「ブイオ、頼むから否定してくれよな。おまえにそれ言われると何か悔しい」
「おっと、その言葉は聞き捨てならないな。俺が馬鹿だって言いたいのか?」
「さあな。でも、それは有り得ないと思うぜ。おれが今から死ぬ気で勉強して、それでおまえがどっかに頭打ってネジでもふっ飛ばしてくれない限りはな」
「はいはい、じゃあ永遠に無理だな」
この二人は仲が良いのか悪いのか分からない。万生みたいに直ぐ手を出すのではなく、全てを口喧嘩で済ませるのは二人らしい行動だ。
「ほら、あんた達いい加減にしな」
アレグレが二人の間に割って入った。沙流はブイオを睨んでいるが、突き刺さる様なその視線をブイオは全てかわしている。
「もう夜も遅いし、あたしは寝るよ。あんた達も早く寝な」
へーい、と万生が曖昧に返事をした。來とフィアンマは頭を下げたが、もうしばらく寝る気は無い。沙流とブイオに関してはまだ睨み合いを続けている。アレグレは溜息を吐いてにやりと笑った。
「ちなみに、後一時間以内に寝なかったら明日市場に行く時置いて行くからね」
その一言に部屋の空気が一瞬にして張りつめる。皆の動きが止まった。そしてアレグレが部屋を出て行くと同時に皆一斉に動き出す。さっきまでの空気は一瞬にして失われ、皆あたふたと右往左往し始めた。
一番速いのはブイオだった。部屋の隅に移動すると横になり、直ぐに寝息を立て始める。その足元に万生が丸くなった。寒いのか、沙流はその万生をぬいぐるみの様に抱きかかえて寝ている。フィアンマは部屋の反対側の隅に行くと自分の羽で身体を包み、寝始めた。
そのあまりの素早さに來はただ唖然として皆を眺めていた。フィアンマの様に羽で身体を包んでも暖かくはないし、かといってフィアンマの羽に入れて貰おうとは夢にも思わない。しばらく考えた末、ブイオの隣にうつ伏せになり、その隣に歌恋を寝かせる。そして風を操って電気を消した。
それからしばらく経ち、体温が一気に奪われて來は目を覚ました。見ると、ブイオが來に抱き着いている。
「ブイオ、何やってるんだよ」
軽く揺すったがブイオは起きない。それどころか余計に強く抱き着いてくる。
「ん…」
ブイオは父親の夢でも見ているのか、來の羽を撫でた。起こすのを諦め、ブイオの父親になったつもりで逆に抱き寄せてやる。ブイオは安心した様に息を吐き、羽を撫でるのを止めた。
―もし本当に父親に会ったら、今みたいに父親に甘えるのかな―
來の肩に顔を埋めたブイオの身体は相変わらず冷たかったが、逆に來の心は温かくなっている。ブイオの意外な一面を発見出来た気がして嬉しい。そんな気分に浸っている内、自然と瞼が落ちてくる。結局來とブイオは抱き合ったまま朝まで眠った。




