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DEATHEARTH  作者: 奇逆 白刃
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黄金色に輝く街 4

アレグレの後について初めに来たのは、国の外れにある大きな水晶の根元だった。水晶は黄金の光を発している。

「これを知っている人は、此処広しといえどもそうそういないよ」

「こんなに大きいのに、気付かないんですか?」

「いや。この水晶が放つ光自体はどこからでも見える。だけど本体が見えないから、此処の人達はこの場所を聖域と呼んで近付こうとしないんだよ」

「じゃあ何であなたは此処へ来ているんですか?」

フィアンマは水晶のてっぺんに座っていた。アレグレはフィアンマを見上げ、軽やかな笑い声を上げる。

「その羽は便利だね。あたしも欲しいよ。…あたしが此処に来てるのはね、その光が何なのか、その真実を知りたかったからなんだ」

「真実…か。もう分かったんですか?」

「残念ながら、まださ。水晶から光が出てるのは分かったけど、何故水晶が光ってるのかはまだ分からないからね。だけど、結局分からなかったとしてもあたしは後悔しないよ。あたしはこの場所に出会えた事だけで満足だと思ってる」

そうか、だったらもっと満足させてあげよう。フィアンマとブイオが協力して、アレグレを抱え上げる。そのまま水晶のてっぺんに運んで行き、座らせた。來も歌恋を抱えてその隣に座る。尖った水晶の上には見えない円盤の様な物があって、座っても平気だった。

アレグレは初めとても驚いていたが、座って眼下に広がる国を見て、顔を晴れ晴れとさせる。

「今までで最高の、素晴らしい景色だよ。あんた達を助けたのは間違いじゃなかったね」

その言葉を聞いて、ブイオがアレグレの前に回り込んだ。そして右手を胸に当て、アレグレに向かって頭を下げる。

「陛下、他にご注文は?」

アレグレは一瞬呆気に取られた顔をしていたが、急に腹を抱えて笑い出す。笑いすぎて倒れない様に、片手で背中を支えた。

「陛下、笑いすぎはお身体に障りますよ?」

調子を合わせて敬語を使ってみる。ブイオもフィアンマも吹き出した。アレグレはようやく笑い止むと、偉そうに胸を張って見せる。

「ああ、有難う。じゃあ、あんた達の馬に乗せて貰おうか」

ブイオはもう一度頭を下げ、下を向きながら笑った。そして顔を上げる。

「種類はどれをお望みで?」

「そうだね…じゃあ、ペガサスに」

「承知致しました」

言うが早いか、ブイオは身を翻して降りて行った。それを見たアレグレが慌てる。

「來、本当に良いのかい?つい言っちゃったけど、もし嫌なら」

「そんな事無いですよ!」

フィアンマと声を揃えた。來は更に続ける。

「どうぞ、お気のゆくまでお楽しみ下さい」

ブイオがペガサスを連れて戻って来た。アレグレに手を貸し、ペガサスに乗せる。アレグレは一旦下に降りた後、万生を乗せて再び上がって来た。万生は酷く慌てている。

「ちょっ、來!お前の馬、一体どうなってんだ!?」

「どうなってるも何も、僕は下を見てなかったから何も言えないよ」

尚も慌てる万生の頭を、アレグレが軽く叩いた。そして悪戯っ子の様な笑みを來に向ける。

「背後からいきなり捕まえてやったのさ」

沙流がヒポカンポスに乗って上がって来た。わざとなのか、來に軽く肩をぶつける。

「おれだけ置いて行くなんて酷いじゃないか、來」

わざと悲鳴を上げ、歌恋を抱えて空に飛び出した。背後から沙流が追って来る。追い駆けたり追い駆けられたりを繰り返しながら、水晶の周りを何周も回った。

気付いた頃には、いつの間にか日がすっかり暮れていた。国の所々にある穴には雷の電気が溜まって輝き、此処の水晶も輝いている。

「光と雷の国…本当だな」

沙流が呟き、來に追い付いて並んだ。他の皆も一様に動きを止め、国を見下ろしている。

「…じゃあ、そろそろ戻ろうか。あたしはもう少し居るから、あんた達は先に帰ってな」

アレグレの言葉で、皆動き出した。ブイオを先頭にアレグレの家へと帰って行く。後にはアレグレと來、歌恋が残った。

「來、あんたは帰らないのかい?」

「はい…ちょっと話したい事があって」

「何だい?聞くよ」

アレグレと並んで、水晶のてっぺんに座った。皆の姿はもう見えなくなっている。

「あの…さっきあなたは、皆此処を聖域と呼んでるって言いましたよね?」

「ああ、そうだよ。それで?」

「あなたもかつてはそうだったんでしょう?」

「此処の事を知りたいって思うまではね。来てみて結局此処は聖域なのかどうか、まだ分からないよ」

待っていた答えだった。片手を伸ばし、ますます輝いて来た夜景を指し示す。

「僕は、聖域だと思います。神様とかそういう意味じゃなくて」

「へえ、何でだい?ずっと此処に居るあたしでさえ分からないっていうのに、言い切っちゃってさ」

「ブイオの様子を見てましたか?」

逆に聞いてみた。アレグレは首をひねる。

「別に、おかしい所は無かったけど…そういや、何だか楽しそうだったね」

「でしょう?…初めはあんなに嫌がってたのに」

「確かに、そう言われればそうだね。最初はあたしの事も結構嫌ってたように見えたけど」

「だから、ですよ。此処に居たら、ブイオだけじゃなくて、僕もあなたも、それに皆も、時が経つのを忘れてずっと遊んでました。もし一人でもそれに満足感を得られてないのなら、ぎくしゃくしてそんな事は出来なかった筈です」

アレグレはしばらく何も言わず夜景を見詰め、何かを考えている様だった。そしてゆっくりと頷く。

「なるほどね。それで結局あんたは此処をどういう意味での聖域だと考えてるんだい?」

「僕は…僕は、心の聖域だと思っています」

一言一言、噛み締める様にして言った。本当に自分はそう思っているのか、確かめながら。

間違いない、僕は心からそう思っている。嘘は吐いていない。

「ふうん、心の聖域…ね。じゃあ、何がその原因なのか考えてみたかい?」

「原因ですか…」

まさかそう切り返されるとは思っていなかった。苦笑する。

これじゃ駄目だ。根拠のない真実も嘘も、たいして違いは無い。

そういえばいつも、何となく直感だけで思った事をそのまま口にしていた。その中には根拠を持たない物も多い。その事は、今まで何度かブイオに注意された事もあった。

自分が座る水晶を見下ろす。何故かは分からないが、下から照らされているのは良い気分だ。心が温かくなる気がする。

そこまで考えて気付いた。もし原因を考えるとすれば、これしかないだろう。

「この…水晶じゃないでしょうか」

「この水晶か。具体的に言えるかい?」

「はっきりとした理由は言えませんし、これはあくまで僕個人の意見です。それを踏まえて聞いてほしいのですが…」

アレグレは分かったと頷き、先を促した。一息置いて、続ける。

「この光に当たると、何故か心が温かくなるんです。少なくとも、僕は。だから皆もそうなって、それであんな風になったんじゃないかって…思うんですけど」

「良い意見じゃないか」

アレグレは歯を見せて笑った。

「大丈夫、あたしもそうなったよ。あんたの言う通り、心が温かくなる。あんたの考え、案外正しいんじゃないの。もしかしたら歌恋も、何か恩恵を受けられるかもしれないね」

隣に座らせた歌恋を見た。歌恋は何も言わずそこに座っている。でも、もし本当に恩恵があるのなら、もうそれは起こっていた。

自分と歌恋しか知らない出来事。あの時見えた輝く金色の糸の様な物も、もしかしたらこの水晶と関係があるのかもしれない。

遠くから、來の名前を呼ぶ声が聞こえた。夜景に、羽の生えた黒いシルエットが浮かび上がる。

「どうやら、迎えが来たようだね。随分長居してしまったみたいだし、そろそろ行こうか」

三人が立ち上がると同時に、水晶の光の中にブイオが現れた。ブイオはわざとらしく大きな溜息を吐く。

「あんた達一体何やってたんだ?皆心配してたぞ。しょうがないから俺が様子を見に来てやったけど」

アレグレは声を上げて笑った。夜の静けさに、笑い声がこだまする。

「ブイオ、あんたは隠すのが下手なんだね。そんな事言って、本当はあんたが一番心配してたんだろう。違うかい?」

ブイオは答えず、ただ顔を赤らめてそっぽを向いた。アレグレは尚も笑い続ける。

「明日は市場を案内してやるよ。何か欲しい物があるなら、そこで買いな」

礼を言った。そっぽを向き続けるブイオを小突くと、ブイオも渋々といった様子でアレグレを見る。

「…有難う」

「ちっとも有難くないみたいだね。じゃあ明日あんたは留守番…かな」

アレグレはそう言ってにやりと笑った。途端にブイオが慌てる。

「なっ…ちょっと待てよ!俺も行くって!…第一俺に留守番させたら、家が無くなるぜ?」

「ははっ、それは困ったね。…しょうがない、あんたも連れてってやるとするか」

二人のやりとりに、失笑した。それにつられたのか、アレグレも笑い出す。二人が笑っている様子を見て、ブイオもくすり、と笑った。

「さあ、帰ろうか。皆がお待ちかねだろうからね」

三人がひとしきり笑い終えた頃を見計らってアレグレが親指で家の方向を指す。大人しくそれに従った。水晶の所での会話が嘘のように、帰り道四人は一言も言葉を交わさなかった。その理由は寒さだけじゃないだろう。


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