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DEATHEARTH  作者: 奇逆 白刃
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仲間と敵、その境とは 3

小高い丘の上に登り、フォレイグンと僅かに間を開けて座った。確かに此処からなら、皆の姿が良く見える。

フィアンマは、市長をじりじりと追い詰めていた。五秒に一回程、矢が市長の頬を掠めて地面に突き刺さり、その度に市長は穴の方向へと押されていく。剣を振っても矢は速すぎて切れないし、少しでも穴から離れれば、たちまち矢が飛んで来る。

悪魔の軍勢は、動かなかった。ブイオ達がいくら脅しても、攻撃を仕掛けても、全く動こうとしない。

何故だ?

フォレイグンが意地悪い目つきで來をちらりと見やる。その時來の頭の中を、嫌な考えがよぎった。

「まさか、あの軍勢は…」

「お前が察した通りだ。あの軍勢は、わしと市長様の命令でしか動かない。つまり、お前達に勝ち目は無い、という事だよ」

表情を歪めた。それが本当なら、僕達は全員殺される事になる。しかも、後一時間も経たない内に。

「ちっ」

フィアンマが小さく舌打ちをした。見ると、矢がもう無くなっている。フォレイグンは高笑いを響かせ、市長はにやりと笑い、こちらに近づいて来た。フィアンマは、逃げる事しか出来ない。飛べるから殺されはしないだろうが、穴の所まで追いやるなど、とても無理だ。

悔しさに身を震わせる。不意に頭の中で、何か記憶が光った。

「助言も駄目なのか」

最後の望みを懸け、フォレイグンに尋ねる。フォレイグンはしばらく首を捻っていたが、口元で笑っで軽く頷いた。

「良いだろう。ただし、一回だけ、一人だけだ。こちらが不利になるからな」

不利になるなんて欠片も思っていないのは明らかだが、今はそれに腹を立てている時ではない。フィアンマに向かって声を張り上げる。

「フィアンマ、ナチュラルストーンを使うんだ!沙流にもそう言ってくれ!」

フィアンマは一瞬驚いた様な顔でこちらを見たが、かすかに微笑み、片手を上げた。

「有難う。忘れてたわ」

フィアンマは市長に向かい、手を水平に動かした。次の瞬間、どこからともなく炎の壁が市長の前に立ち塞がり、徐々に迫って行く。市長は悔しそうにフィアンマを一睨みすると、じりじりと後退りを始めた。

「沙流!來が、ナチュラルストーンを使えって!」

沙流が振り向く。そして頷くと、両掌を上に向け、下から上へと思いっ切り跳ね上げた。

悪魔の軍勢の下方から、大量の水が吹きあげた。水は噴水の様に悪魔達を全員持ち上げ、そのまま運んでいく。

水音に市長が振り向き、後退りしながら何か叫んだ。悪魔の軍勢が動きだし、何とかして水から逃れようともがき始める。しかし、もう少しで出られる、という所で新たな水に押し上げられ、直ぐに水の上へと戻されてしまう。

「そうはさせないぞ!」

水音にも勝る沙流の大声が聞こえた。

「強制移動だ!」

そう言っている間にも、悪魔達は穴の方へと運ばれていく。市長もだ。フォレイグンがたじろぐ。來は思わず立ち上がった。

後少し、後少しだ…!

その時、一匹の悪魔が水柱から抜け出た。沙流が止めようと繰り出した水をすんでの所で全て避け、鋭い鉤爪で万生やブイオに攻撃を繰り出す。

だが当然、二人に攻撃は当たらない。悪魔は標的を変えた。

つまり、來に襲い掛かって来たのだ。

悪魔の動きは予想以上に素早かった。不意を突かれた來は悪魔を避け切れず、押し倒される。悪魔に抑え込まれ、容易に動く事が出来ない。フォレイグンは離れた所に避け、皮肉な笑みを浮かべながら來の事を面白そうに見ていた。

悪魔の鉤爪が大きく振り上げられる。來は首を掻き切られるのを覚悟した。無防備に晒された喉元に向けて鉤爪が迫って来る。それはとてつもなくゆっくりと感じられた。

しかし悪魔は、一瞬動きを止めたかと思うと凄まじい金切り声を挙げて横に転がった。解放された來は素早く身を起こす。

すぐ脇の地面に、血が飛び散った。どす黒い赤色の、悪魔の血だった。

驚いて顔を上げると、そこには血にまみれたさっきの悪魔の死体と、両手を血で赤く染め、肩を震わせながら立っているブイオの姿があった。ブイオはくずれるように片膝を着くと、荒く息をして、自分の両手を見詰めた。その顔を、驚愕と自責のこもった翳りが覆っていく。声を掛けずにはいられなかった。

「ブイオ、有難う…僕の為に。でも、君は言ったじゃないか。殺人は生き延びる為だけに」

「うるさい!」

ブイオは顔を上げ、來を見据えた。目が少し潤んでいる様に見えるのは、気のせいだろうか。

「自惚れんなよ…俺は別に…別に、あんたの為にやった訳じゃない」

最後の方は、声が小さくてうまく聞き取れなかった。

「じゃあ、何の為なんだよ。僕が()られたからって、君が死ぬ訳じゃないだろ」

「それは…」

ブイオは口ごもった。

明らかに何かがおかしい。普段のブイオなら、こんな台詞は僕の眼をしっかりと見据え、吐き捨てる様に言ってもおかしくないのに。今ブイオの視線は、一度も來の視線と会う事無く絶えず泳いでいた。言葉は時々止まり、言葉尻は小さい。

―嘘だな―

きっと、自分が言った事に背いたのを、恥じているのだろう。そう勝手に理解した來は、あえて追及する事無く曖昧に笑った。

「まあ良いや…とにかく有難う」

沙流、万生、フィアンマはもう穴の下まで全員を追い詰めていた。來は勝ち誇った顔でフォレイグンを見る。フォレイグンは怒りに顔を歪めていた。

「誓ってくれたよな。命を懸けて」

フォレイグンは舌打ちをすると、沙流達を止めさせるよう來に頼んだ。沙流とフィアンマに声を掛け、水と炎を止めてもらう。フォレイグンは押し黙り、荒々しい足取りで穴の方に向かった。丘から降りる直前に來の方を振り向き、憎しみのこもった目で來を睨み付ける。

「よし、今回は誓い通り大人しく帰ってやる…だが、これで終わりだと思うな。わしらは復讐を果たしに再びお前達の前に現れる。その時は、お前達がこの世から消える番だ」

「ああ、そう。楽しみに待たせてもらうよ」


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