紅に舞う者 4
なんだか怠い。
歌恋は家の外に出た。
Sunの方向から風が吹いてくる。暖かな風だった。気持ちが少し軽くなる。
しかし、なんだか違和感を感じた。生暖かい風の中に、明らかに自然じゃない物を感じる。なんだろう、何か人工的な、空気中に存在してはいけない物の様な…。
息苦しくなってきた。空咳をし、思いっきり大きく息を吸う。息苦しさは直ぐに消えた。
しかし、頭の中が、まるでもやが掛かっているかの様にはっきりとしない。自分が何を考えているのかさえも忘れてしまいそうだ。
「歌恋、どうしたの?風邪ひくわよ」
家の中から女の人が出て来た。
―あれ、誰だっけ―
何故だろう、見た事ある顔なのに、名前が思い出せない。
そもそも、名前って…何?
目の前にそびえ立つ物を見上げる。これは、何だろう。人が入れる物?柔らかい物?硬い物?
頬が暖かくなった。顔にあたる物、これは何?
恐い…怖い…こわい。
なに、わたしになにがおこったの?
わたしは…だれ…
まわりのものすべてがこわい。
身体を戦慄が走った。強い輝きを、導きを身体から感じる。思わずそれを掴み出した。
なに、これ…
水色の丸い物だった。あの輝きは間違いなくこれから発せられている。そしてこれは、自分をどこかに導こうとしていた。
わたしはどこにいけばいいの…おしえて。
光が見えた。本物の光ではない。この光は、自分にしか見えない特別な光。大きな山の反対方向にまっすぐ伸びている。
「歌恋?ちょっと、どこに行くの?」
後ろから、声が聞こえる。
かれんってなに?あなたはだれ?なぜわたしにはなしかけるの…
何も見えない。いや、見えているのだが、感じない。今見える、存在を感じる物は、目の前のこの光と持っている水色の丸い物だけだった。
足が前に出る。右手には、丸い物を握りしめたままだ。意識などしていない。無意識の内に歩いている。
なにもきこえない…なにもかんじない…わたしは…わたしは…
目は光の遥か先を見詰めたまま動かない。見ているのかすらも分からない。歩き続ける足以外に動く所は無い。
あるく…あるきつづける…さきへ…ひかりのさきへ…




