次なる目標を求めて 6
フィアンマの家は、軽石で出来た風通しの良い家だった。今となっては、フィアンマの服装がよく分かる。こんな気温の中じゃ冬服なんて着てられない。アンドロイドの身体である事に感謝する。機械の為、多少の温度調節機能が付いているからだ。まあ、暑いのは暑いのだが。
「良い物見せてあげようか」
フィアンマが戸棚の中から石で出来た小箱を取り出した。開けると中には、真っ赤な石が一つ入っている。ビー玉位の大きさで、熱気を吹き出している様にも思えた。
「神殿で見つけたの」
「神殿?」
「ええ、朱雀を祀っている神殿よ」
フィアンマは布を手に巻き、石を掴み出した。
「持ってみて」
受け取った石を掌に乗せた瞬間、揚魅は悲鳴を上げた。
「熱!」
「中で火が燃えてるみたいでしょ」
「本当だな…何で先に言ってくれなかったんだよ」
「言ったら面白くないから」
揚魅の不満を平気で受け流すフィアンマ。石を乗せていた手を見る。
火傷はしていないが、もししていたら面白くないじゃ済まされないだろう。
ふと、拾った石の事を思い出した。ポケットから出し、フィアンマの前に置く。
「おれが拾った石だ。その石と同類じゃないか?」
フィアンマは恐る恐る手を伸ばして石に触れ、熱くないと分かると握ったり、光に透かしたりした。
「確かにそうみたい。でも、これは水の石ね」
「やっぱり分かるか?」
「ええ。冷たいし、何かが流れる感覚があるし、何よりほら、耳に当ててみて。水の音がする」
言われるがまま、耳に石を押し付けてみる。小川のせせらぎの音や、海で波が立てる音が心地良く響いた。
「じゃあ、こっちの紅い石は耳にあてたら炎が燃える音がするのか?」
「確かめてみれば?あんまりお勧めしないけど」
揚魅はしばらく考えた末、傍にあった鉄パイプを取って石に被せ、反対側に耳を当てた。
すると、ああ、やっぱり聞こえる。さっきの水の石程ではないが、しっかりと耳に届く音があった。
松明が燃え盛る音。暖炉に置かれた炎が暖かく人を包み込む時に発する穏やかな音。
待ち切れなくなったのか、フィアンマが揚魅の肩を掴んだ。
「ねえ、聞こえるの?だったらあたしにも替わってよ」
「自分勝手な奴だな」
「悪かったわね。生まれた時からこういう性分なの」
笑い声を上げながらフィアンマに替わる。フィアンマはパイプに耳を近付け、直ぐにほっとした様な表情を浮かべた。
「凄いわ…こんな音、初めて」
「聞いた事無いのか?此処は炎の都市なのに」
「まあね。炎といっても此処にあるのは松明みたいな大きな炎で、こんなに穏やかな音は出さないのよ」
そうか、それなら…
「待ってろ」
揚魅はそう言うと家を飛び出した。焼けた大きい石を幾つも集め、長方形に削る。硬く焼けたレンガの代用品にはこれを使うのだと、前に先生が教えてくれた。それを数百個作り、家に戻って暖炉の形に組み上げる。もちろん煙突も忘れない。その中に土を敷き、薪を放り込んだ。
「何作ってるの?」
フィアンマは訝しげな表情を浮かべて揚魅を見ている。質問には答えず、ウインクを一つ返すと、揚魅は薪に火を点けた。
薪がはぜる音がする。フィアンマは目を輝かせ、そして目を閉じた。
「土木工事は得意中の得意なんだ」
揚魅はフィアンマの向かいに座り、真似をして目を閉じた。暖かく燃える火の音に耳を澄ませ、聞き入る。周りの暑さも気にならない。
ノックの音がした。目を開けると、フィアンマも揚魅を見ている。
「良くある事か?」
「いいえ。この都市では有り得ない事よ。人が訪ねて来るなんて…」
足を忍ばせ、用心しながらドアに近寄る。いざとなったら容赦なく戦うつもりだ。
ドアを勢いよく開ける。明らかにこの都市の者ではない男が四人、立っていた。
そして、その内の二人は…とても見慣れた顔をしていた。




