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DEATHEARTH  作者: 奇逆 白刃
25/93

次なる目標を求めて 5

「はぁ…はぁ…」

どれだけ走り続けているのだろう。背後からは車が追跡してくる音が止む事無く聞こえて来る。しかもその音はとめどなく、どんどん大きくなっていた。このままじゃ追いつかれるし、かといって隠れられる様な所も無い。直ぐに捕まえないのは何か考えがあっての事だろう。疲れさせる為か?それとも楽しんでいるのか?

足が思う様に動かなくなってきた。嫌でもスピードが落ちる。車に轢かれるのを覚悟し、揚魅は固く目を閉じた。

網に身体が捕えられた。命を落とさなかった事に一息吐く。機械の身体だから、死ぬ事は無くても壊れる事はあるだろう。でも、そんな暢気な事を考えている場合じゃない。

―捕まった―

あの時の白衣の男が進み出た。恐ろしい笑みが顔に張り付いている。

「運動は存分に出来たかね?」

皮肉な口調だ。言い返したいが、余りにも疲れすぎていて声すら出せない。

「さあ、帰ろうか」

「…どこ…へ」

途切れ途切れだが、何とか声を絞り出す。

「どこって、住民福祉機関生命維持局身体継続課に、決まっているじゃないか」

「長…い」

「簡単に言えば公民館だよ」

公民館…あの場所か。嫌だ、戻りたくない。

男の手が揚魅の腕を掴む。身体に力が入らないから抗えない。首をかすかに振るのがやっとだ。

「抵抗したって無駄だ…ああそうか、君は既に抵抗する気が無いんだね」

「…ある」

「だったら抵抗してみたまえ」

この男は揚魅が抵抗出来ないのを知っていてこの事を言っている。だから、余計に腹立だしい。

男が腕を引っ張った。腰が浮く。揚魅は黙って俯いた。

―もう駄目だ―

男が手を離した。腰をしたたかに打ち付け、呻く。男の手首には赤い矢羽の付いた矢が深々と突き刺さっていた。

「誰だ!」

男が手首を抑え、怒りで顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

「立ち去れ!」

その声に負けない大きさの声がした。聞こえて来る方を向くと、矢を弓につがえた一人の少女が立っていた。歳は十二歳位だろう。背中まである髪と瞳は真っ赤で、肌は浅黒く、頭に布を鉢巻の様に巻いている。服装からしても随分と野性的な少女だ。この季節だというのに、腰と胸に赤い布を巻いただけという軽装で、寒くないのだろうか?

その少女がもう一度弓を放った。空気を割く音と共に矢は男の目の前を掠め、地面に突き刺さった。

男は悲鳴を上げて車の中に駆け戻ると、車を急発進させた。ものの数秒でその姿は消え、少女は歓声を上げた。

少女は揚魅の所にやって来ると、網を丁寧に外した。

「大丈夫?」

「有難う…さっきの弓の技術凄かったな」

「どうも。でも、人間って臆病よね。あたしが矢でちょっと脅してやったら、あっという間に逃げ出すんだから。ほんと、いい気味」

随分と元気だな…。思わず性別を疑いそうになる。

「本当に女か?」

「保健的視点でいう身体構造上はね」

…よく納得した。言い返し様が無い。

「なあ…おまえ、名前は?」

「フィアンマよ」

「そうか…おれは揚魅だ、宜しくな」

「ええ、宜しく」

話す事が無くなった。フィアンマも同じ様だったが、しばらくして立ち上がる。

「こうしてても始まらないわ。取り敢えず、家に来る?」

「おっ、そりゃ良いね」

こんなにあっさり決めてしまって良いのだろうか。少しばかり心配だが、まあ良しとしよう。

「ねえ、あなたってなんか不思議よね」

草原を並んで歩きながら、フィアンマが唐突に言った。

「不思議?」

「ええ。何だろ、人間っぽくないっていうか、そんな感じ」

「それは、おれがこんな身体だからじゃないの」

「こんな身体って?」

口に出して説明し辛いので、フィアンマから矢を一本借り、腕の皮膚を少し裂く。下から現れた黒い機械を見て、フィアンマは息を呑んだ。

「あなた、人間じゃなかったの!?」

「精神は百パーセント人間。ちょっとある陰謀に巻き込まれてね」

「陰謀って何よ?」

「説明すると、長くなる」

「ふーん…じゃあいいや。長ったらしい話を聞くのは苦手なの」

とても諦めが早い。さばさばした奴だ。

この言葉を來が聞いたら溜息を吐いてこう言うだろう。

もう少し粘れよ。

沙流の場合は…そうだな、こんな感じか。

そうだそうだ、おれも嫌いだ!

胸を張って同調するだろう。そして來が沙流に食って掛かって…

思考が逸れた。意識をフィアンマの方に戻し、笑ってみせる。

「どうせ、いつか知る事になると思うけど」

「ふふん、楽しみに待ってるわ」

「楽しめるかな?」

「あたしを甘く見ないでよね。人間相手なら絶対に負けない自信があるんだから」

「千人位束になって掛かって来てもか?」

「知らない。やった事無いから、そんな人数」

何だか気が抜けるな。一対一なら何とかなるかもしれないが、Sunからの軍隊でも来たらそれこそ一溜まりも無いだろう。まあ、自信満々に言われて期待を裏切られるよりは、マシか。

次第に暑くなってきた。空は赤く、火の粉が舞っている。考えにふけっている間に、人間の世界から遠く離れてしまった様だ。途中で一回落ちた様な感覚があったが、その時からだろうか?

「此処があたし達の町、フラムフエゴよ」

「やけに暑いんだな」

「そりゃそうよ。炎の都市だもの」

「納得した」


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