水の欠片の正体は 3
―くそ、沙流め―
まさかあいつまでもが裏切るとは。あいつならばわたしが思うままに動かせると思ったのに。來に寄せる友情のせいでわたしを裏切った。
でも、まあ良い。どうせあいつらは堕ちた奴らだ。Sunでの生活を有難く思わない、脳味噌しかない奴と、図体ばかり大きい、頭が空の奴。
あいつらはSunを捨てた。しかし、それで良い。居ても邪魔なだけだ。
複数のモニターを見詰める。五、六百人程の、チップを与えた者の生死、行動、感情が映し出されていた。皆、従順で愚かだ。神山やわたしへの憎しみ、裏切りを浮かべず、ただわたしに生かされている。
その頭上のスピーカーからは、魔塗や神山への恨み、憎しみの言葉が伝えられるが、今は沈黙していた。
ふと、思い出した。この間まで毎日の様にそこから吐き出された言葉。
見たくない。神山なんて、人間なんて。
そして、何らかの理由を付けて殺さなければならない裏切り者が載る[ブラックリスト]に十五年間載り続けた名前…來。
それにしても、どうしてあんな奴らがこのSunに住んでいたんだ?わたしが承認してチップを与えたのか?
しばらく自問自答を繰り返し、魔塗は一人、首を振った。
いや、そんな筈は無い。あんな奴ら、Deathにも値しない。そうだ、元々魔界があいつらには相応しい場所だったのだ。
ならば、もう安全だ。わたしの敵となり、闇の住人となって、この世から消えてしまえ…!
手を伸ばし、受話器を取る。繋ぐ先は保健機関内の一室だ。呼出し後直ぐに、男の声がした。
[こちら、保健機関治安実験局脳移植課No,156]
「魔塗だ。責任者は居るか」
[只今、保健機関治安実験局脳造成課No、039に居ます]
「了解した」
一旦受話器を置き、再び取る。繋ぐ先はさっき男の言っていた部屋だ。
[こちら、保健機関治安実験局脳造成課No,039]
「魔塗だ。人工知能の方の造成は進んでいるか」
[大方完成しています。移植段階に進んでいる物は、現在保健機関治安実験局脳移植課に送ってあります]
「サンプルはあるか」
[はい。保健機関市民育成局身体開発課に一つ展示してあります]
「分かった。なるべく早く終了させて欲しい」
[承りました]
コートをはおり、Sun唯一の病院へと向かう。表向きは病院として知られているが、正式名称は保健機関だ。入って直ぐ、左の一角に研究展示区画があり、今回の人工知能も展示してあった。隅々まで調べ、頷く。
満足だ。これで計画はようやく本線に乗る。
支庁にある自分の部屋へと戻る。支庁も、正確に言えば惑星管理機関だが、それを知る者は少ない。再び受話器へと手を伸ばす。今日はやたらと電話に縁がある日だ。
[こちら、惑星管理機関環境保全局地域清掃課No,12]
「魔塗だ。空いている部屋があるか」
[No,53が空いています。來、沙流、歌恋が使っていた部屋ですが]
「構わん。今から向かっても良いか」
[勿論です]
地上三十階から、エレベーターで地下三階へと一気に下りる。普通に働く者は指紋認証と虹彩認証が必要だが、魔塗を含める上層部の数人はノーチェックで通れる。053と書かれた部屋には設備が完璧な状態で整っていた。地図を呼び出す。広い所…周りに迷惑が掛からず、住民に気付かれない所…
あった。F-47、Earthの高山地帯だ。此処ならさすがに誰もいないだろう。もしいれば…捕まえて、後は保健機関治安実験局にでも任せるか。部屋に戻り、受話器を掴む。
[こちら、保健機関治安実験局脳移植科No,156]
「魔塗だ。移植状況は」
[全体終了しました]
「よし、良くやった。今すぐ向かう。F-47だ。何体いる」
[約200体程]
受話器を置き、F-47に向かう。住民福祉機関移動手段開発局輪走行課が新開発した車は、さすがに早く、振動が無い。実に快適だ。保健機関治安実験局の車もほぼ同時に着いた。荷台から200体近くの悪魔が降りてくる。技術士達の手によって人工知能を移植され、わたしに従順な手下達に生まれ変わった悪魔達だ。
「数体山に偵察に行け。残りは性能を調査する」
数体の悪魔が山へ走って行った。魔塗は込み上げて来る勝利の笑いに身を委ねた。




