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DEATHEARTH  作者: 奇逆 白刃
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異界の輝、五つの石 5

頭の奥を鋭い痛みが駆け抜けた。脳を、頭蓋骨を揺さぶられ、悲鳴を上げる。痛みに耐え、目を開けると、そこには市長が居た。

「お早う、來。気分はどうだ?」

皮肉な笑みを浮かべている。さっきの痛みは、こいつが電気を流したからだろう。つくづく、電気が好きな奴だ。

「市長が電気の無駄遣いをしてくれたおかげで、最悪の状態から抜け出せましたよ」

市長が頭に来たのだろう、痛みが強くなった。歯を食いしばるが、隙間から呻き声が漏れる。逃れようと身体を捩るが動けない。身体は鎖でしっかりと縛られていた。市長が笑い声を上げる。

「Sunに住む我が人民達が苦しむのを見るのは辛いが、こうして裏切り者が痛め付けられるのを見るのは堪らなく愉快だな」

くそ…この悪党め。

痛みがさらに増した。もう抑えられない。耐え切れない苦痛に叫び、悶える。頭を鷲掴みにされ、激しく揺さぶられた。

痛い…苦しい…。

反り返った首に縄が掛かる。息が詰まった。だが窒息して死ぬ程ではない。脳の奥で、血と痛みが脈打っている。永遠に終わらない苦痛。視界が霞み、涙がこぼれる。あらん限りの声で泣き叫んだ。

痛みが増す、縄が食い込む、全身が痺れる…

何度繰り返しただろう。身体は疲れ果て、意識は朦朧としている。しかし、意識を失いかけると直ぐに痛みが強くなった。苦しみの只中に引き戻され、身体は痙攣し、のたうつ。耳の奥底で、市長の高笑いが聞こえた。

もう駄目だ、もうすぐ死ぬ。苦痛に苛まれ、抗う事もろくに出来ないまま…。

命の蝶。

ある言葉が蘇って来た。ブイオと行った洞窟で、老婆から聞いた言葉。

命の蝶に運命を委ねるのだ。

そうだ、命の蝶。命を委ねてみよう。抗わず、どこかにいる筈の儚い望みに全てを懸けてみよう。

目を閉じ、全身の力を抜いた。小刻みに痙攣を続けるが、苦ではない。叫び声も、意識を外すと制御出来ない喘ぎ声だけに変わった。不思議と気が楽になる。市長がまた流れる電気を強くした様だが、ほとんど感じない。それでも、身体が限界なのは感じ取った。もうもたないだろう。心臓が止まってしまう…

ドン。

大きい音がした。何だ、僕の中で何かが破裂したのか…?

ほぼ同時に痛みが遠のき、気が楽になった。

―ああ、死ぬんだ―

しかし、一向に意識は無くならない。心臓も規則正しく動き続けている。穏やかな死の代わりに、聞こえて来たのは聞きなれた声だった。

「おい、來!大丈夫か!生きてるか?意識はあるか?來!」

「沙…流」

辛うじて声を絞り出し、目を開ける。目を開けるのが、こんなに辛い事だとは…

でも、沙流は間違いなく目の前に居る。來の肩を掴むその力強い手から生きている者の確かな温かみを感じた。

抱き締めたい。今までの苦痛を、助けてくれた事への感謝を、この手と口で伝えたい。でも、身体が動かない。さっきまで狂った様に引きつっていた筋肉は、少し力を入れるだけでも攣りそうだ。

焦点が合い、目をはっきりと開けられる様になった。首も回せる。

沙流が鎖を引きちぎった。恐るべき怪力だ。さっき沙流に投げ飛ばされ、壁にぶつかった市長が、憎しみに顔を歪ませながら沙流に襲いかかる。沙流はその腕を掴むと再び投げ飛ばした。窓ガラスにぶつかった市長は、今度は起き上がらない。

「死んだ…のか?」

「いや、気を失っただけだ。じきに意識を取り戻すだろう。その前に逃げるぞ」

沙流に抱え上げられる。まだ身体に力が入らず、疲れ果てていた來は、沙流の胸に顔を埋めた。鼓動が聞こえる。暖かい。

「沙流」

「何だ?」

「僕らと一緒に来てくれないか…魔界に」

沙流の声がきつくなる。

「魔界に?Sunを捨てて、悪魔の棲む魔界に行けと?」

やっぱり駄目か。小さく息を吐く。沙流が笑った。

「当たり前だろ」

パキンッ。

沙流の指先で何かが音を立てて砕けた。

「行くに決まってるじゃないか。Sunは喜んで捨てるよ、おまえみたいに」

―ICチップを砕いたのか―

嬉しい。沙流はブイオを受け入れてくれた。

「ブイオは悪魔だけど、おれは好きだぜ。おまえと同じ位…あ、ほら、着いたぞ」

地面にそろそろと足を降ろす。少しふらついたが一人で立つことが出来た。大きく息を吸う。新鮮な空気が肺の隅々まで行き渡り、途端に元気になった。

「來…迎えに来たぜ」

ブイオが居た。沙流が僕の身に起きた事を隅々まで話す。

僕の叫び声は沙流の耳にも届き、その声を頼りに部屋に辿り着いたらしい。部屋の前で様子を窺うと、首を絞められ、かなりの電圧に感電して悶え苦しむ僕が居たという。そのまま飛び込んでも勝てるかどうか分からなかったが、急に大人しくなった僕を見て慌てて市長に跳びつき、無我夢中で投げたのだそうだ。

ブイオの顔が青ざめる。そして僕に抱き着いた。

「來、よく耐えたな。あんたに死なれたら俺はずっと悩む所だった」

「君と沙流のおかげさ。あの状態が後一分でも続いてたら心臓がきっと止まってた」

「そんなことないさ。あんたの生命力は半端じゃない」

実は違う。ブイオと沙流だけじゃない。僕の生命力でもない。望みが叶えられたんだ。

―命の蝶が僕を救ってくれた―

「さあ、一旦魔界に帰ろう。オームルへは明日出発する」

沙流も行くと伝えると、ブイオは分かってるよ、とでも言わんばかりに微笑んだ。

三人を乗せた馬は軽やかに走り出した。

「おれは、ブイオに抱えられてた方が、眺めが良くて好きだなあ」

沙流が不満を漏らす。確かにこの馬は早いが、景色は飛ぶようにすぎ、目を止める余裕も無い。

「なるほど。沙流様はスポーツカーより遊覧船の方がお好みで」

「おれは幼稚園児か」

ブイオが声を上げて笑った。僕もだ。沙流までもが笑っている。

「そうだ、良い知らせがある」

ブイオが僕らの方に振り向いた。前を全く見ていない。何かにぶつかるとは考えないのか?

「万生が一緒に来てくれる」

僕は歓喜の声を上げた。沙流は眉を顰める。

「万生?誰だよ、それ」

「ああ、あんたは知らないか。まあ、会ったら分かる。特徴的だからな、化け猫は」

「ば、化け猫!?」

「可愛らしい化け猫さ」

來もブイオの調子に合わせた。訝しげな沙流と、笑うブイオと來。そのまま大穴まで走り続けた。

ブイオが馬を一匹ずつ降ろし、次に來と沙流を一人ずつ降ろす。そして三人で万生の所まで馬に乗って走った。

「石は五個ある。いろんな所に散らばっていて、全部探す必要があるみたいだ。まあ、特有の輝きを持っているらしいけどな。後、その石の持ち主も探さなければいけない」

毒池島に着く直前、ブイオが呟いた。

「で…その持ち主の一人が多分來だ」

え…僕!?

「あんたは多分…大いなる氏族だよ」

物凄いプレッシャーを感じた。だとしたら、命の蝶は大いなる氏族と関係あるのかもしれない。だからこそ、僕は助かったのかも。

「でもあんたは角翼族じゃない」

「どうして言い切れる」

「角翼族はあんたみたいに優しくないからな。かなり獰猛みたいだぜ」

沙流が身震いした。苦笑いを浮かべている。

「こんな時じゃ無ければ会いたくないな」

「ごもっとも」

島の入り口で、万生は待っていた。それを見た沙流の第一声、何となく想像がついた。きっと…

「あれ、揚魅何やってんだ?」

やっぱり。沙流はあまりにも分かり易い。必死に笑いを堪えた。

「沙流、揚魅じゃなくて。万生だよ」

「ああ、そう言われれば確かに化け猫だ」

万生は黙って沙流を見ていたが、[化け猫]という言葉に即座に反応した。

「おい、沙流。化け猫って誰から聞いた?」

「誰って」

沙流が無言でブイオを指差す。次の瞬間、そこに万生は居なかった。遥か島の内陸で、ブイオを追いかけている。ブイオは楽しそうに笑っていた。万生も本気じゃなさそうだ。

「世界には同じ顔をした奴が三人いるっていうけど、揚魅と万生はその内の二人かな?」

沙流が首を捻る。來は肩を竦め、二人でブイオと万生の所に歩いていった。


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