異界の輝、五つの石 3
ん…。
此処は…どこだ?
記憶が無い。
ああ、そうだ。思い出した。整理しよう、えっと…
髪の色の変化に気付いてから、大急ぎで帰った。直ぐにブイオは飛び出していき、何が何だか分かっていなかった僕は、起きて帰りを待っていた。それで、しばらくして帰って来たブイオは本を持って僕を連れ出し、万生の家に行き、そして一睡もしていなかった僕は力尽きて寝た。それで起きたら此処にいた。
「思い出してくれて、嬉しいよ」
気が付くと、妙に優しい笑顔のブイオが頭上に居た。
「俺だって一睡もしてない。あんただけ寝るなんてずるいと思わないか?」
「君も寝れば良かったじゃないか」
「あんたの蝙蝠…グアンが、起きてろ起きてろってうるさいんだよ」
グアンが、羽を動かす。
[心配してたんだよ]
何となくグアンの気持ちが分かる様になった。
「有難う、グアン」
キキッ。
「俺の心配は無いのかよ」
「今元気なら問題無し!…ほら、寝たらおぶってやるから」
ブイオは答えない。代わりに鼻を鳴らして來を睨みつけると、部屋を出て行った。
「付いて来い。万生の所に行く」
ドアの向こうから声がする。來は肩を竦め、ブイオの後を追いかけた。
白い馬が顔を摺り寄せる。地獄の馬なのに暖かい。…体温というよりは炎の暖かさという感じだが。
「行くぞ」
ブイオが馬に飛び乗り、指を鳴らす。驚異的なスピードで、二匹の馬は軽やかに走り出した。
「で…何が分かったって?」
「石のありか」
…石?何だ、それ。
「ああ、そうか。來、寝てたもんな」
首を傾げる來に、万生が石の事を手短に説明した。
「ただし、見付かったのは一つだけ…玄武石だけだ」
「玄武石?」
「蛇亀族の石だ。持ってたら何か良い事があるかもしれない」
「どこにある」
ブイオが身を乗り出す。瞳がいつになく真剣だ。
「オームルって所なんだけど知ってるか?」
「オームル…水の都か」
「ブイオ、知ってるのか」
「名前だけは」
後で説明する。まずは移動。と言ってブイオが立ち上がった。その時…
地面が激しく揺れた。ブイオが机に手を着き、三人同時に窓の外を見る。
地上との接点である穴から数台の戦車が降りて来ていた。そこらじゅうの家を焼き、何人もの兵士が降りる。
ブイオの行動は素早かった。來の腕を掴むと、白い馬の上に放り投げ、同時に自分も黒い馬に飛び乗る。そしてすぐさま馬を全速力で走らせた。
数秒で現場に着いた。二人が降りると、馬は敵に向かった。火の粉を吐き、暴れまわる。剣が刺さっても傷はたちまちにして癒えた。
敵は人間だった。数十人の男が悪魔達に打ち掛かり、悪魔が死ぬ前に捕まえて戦車の中に連れ込む。一体悪魔達をどうする気だろう。
ブイオにも一人の男が切り掛かった。ブイオは素早く身をかわし、男の腹に拳を叩き込む。崩れ落ちた男の手から剣を奪い取ると、周りを囲む男達に切っ先を向けて來を離れさせ、それを見切ったかの様に飛び掛かって来た男達を容赦なく切り捨てていく。
來はその光景を呆然と見詰めていた。來には、人間は手出しして来ない。悪魔しか狙っていないのだろう。
「おお來、此処に居たのか。会えて嬉しいぞ」
聞き覚えのある声がした。市長の声だ。
「可哀想に、その青い髪や眼は、悪魔にやられたんだろう?もう大丈夫だ、私と共にSunに帰ろう」
ん…眼…?
どさっ。
背後で音がした。見ると、ブイオが周りの男達を全て片付け、片膝を着いている。かなり息が荒い。
一人の男がブイオに銃を向けた。ブイオはまだ気付いていない。男の指が引き金を引く…
―危ない!―
身体が勝手に動いた。ブイオを突き飛ばして一緒に倒れ込む。頬が裂け、鋭い痛みを感じた。
「來、何をしている!」
市長の声が慌てている。
「この裏切り者!おい、おまえ、こいつを倒せ!」
その声に悪魔の血を付けた一人の男が進み出た。その顔を見て、驚く。相手も同じだ。
…沙流だった。
「來…何で」
沙流なら分かってくれるかもしれない。ブイオの横に座り、片手をブイオの上に乗せたまま、來は声を張り上げた。
「沙流、止めてくれ!何で悪魔達を襲うんだ!皆良い奴ばっかりなのに…」
「聞くな!助かろうと必死になる奴の戯言など聞かなくて良い!」
市長の声もする。沙流は動かない。いや、動けないのか。
「くそ、もう良い!私が始末する!」
怒りに満ちた市長の声と共に、上から網が降ってきた。再びブイオを突き飛ばすが、來は網に捕まった。浮かび上がり、戦車は穴へと向かう。ブイオが追って来るが、網に触れる前に何かに阻まれた。他の戦車が作った見えない壁だった。ブイオは必死に叩くが、壊れない。來を見上げて歯軋りするブイオを沙流が憎しみのこもった目で見ている。もしかしたらブイオを殺すつもりか?
声を出して警告しようとしたが、出来なかった。網を高圧電流が走り、來は気を失った…。




