異界の輝、五つの石 2
ベッドの上で伸びをし、欠伸をする。何回目だ?…忘れた。
揚魅はEarthにスキーをしに行った。仕事は市長の都合で長期休暇。歌恋は留学中。今頼んでいる実物大のコンコルド模型が届くのは、二日後だ。…やることが無い。
もう一度伸びをすると、沙流は街に出た。
人通りが少ない。小さな子供、女達、痩せた者、太った者…いつもより目立つ。理由は直ぐに分かった。
―健全な身体つきの男がいない―
どこだ、どこに居るんだ?
取り敢えず、支庁に向かって走り出した時、背後から肩を掴まれた。手を振り払い、振り返ると、屈強な兵士が二人いた。右側の兵士が口を開く。
「我々と来い。市長の命令だ。服は着替えなくて良い。そのまま連れて行く」
何だよ、何の話だ?
訪ねようとした時、全てが分かった。
自分の体格…大柄で、太っても痩せても居ない。そうか、いなくなった男達は皆こいつらに…
しかし、分かった所でどうにもならない。沙流は兵士達に付いていった。
「なかなかの上玉だな、役に立ちそうだ」
市長が言った。此処はどこだろう。空を飛ぶ窓の無い戦車の中で、沙流は何をするかも分かっていなかった。
「市長…これから一体何をしに?」
市長が笑みを浮かべる。ぞっとする程恐ろしい笑いだ。
「悪魔狩りだ」
「悪魔狩り!?」
「そうだ。魔界に乗り込み、生け捕りにして、我が手下とする。いい案だろう」
そうか?そうなのか?どうしてもいい案だとは思えない。悪魔にだって人権はある筈だ…多分。
俯き、黙ってしまった沙流を見て、市長は不愉快そうに鼻を鳴らした。
「ふん、もう少し喜んでも良い筈だぞ。まあ良い、おまえは後で、悪魔の血をたっぷりと被る事になるだろうから、十分に注意しておけ」
えっ…し、市長…?
違う。いつも、Sunの人々に見せる温厚で柔和な表情と全然違う。残酷で冷血な表情。殺す事を生き甲斐とし、命の価値を考えもしない者の表情。
これが…素性か。
憎しみが湧く。仮面を被った市長に…そして、自分と來を引き離した悪魔に。
もう、信じられない。市長も…Sunも…自分の周りにある物全て…何もかも。
虚構に囲まれてしまった。
戦車がどこかに着地した。床のハッチが開く。
―今、信じられるのは自分のみ―
沙流は心を引き締め、階段に一歩踏み出した。




