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手作りチョコレート

作者: 湯城木肌

 私は恋に恋していただけだと思います。

 同級生の流れに飲まれて変に恋しないと、と思っていたのかもしれません。

 でもしなければ良かったんです。恋なんて。

 バレンタインデーは私にとってチョコの日じゃありません。彼の命日です。新しい恋人がいる今も忘れられません。

 あれは多分初恋でした。そう、初々しい恋だったと思います。

 彼が亡くなったときは泣いてしまいました。一日中ずっと。本当に悲しかったです。

 彼は私の先輩で、私が告白して付き合うことになりました。けれど、遠くから眺める先輩と近くで視覚に入るアノ人はまるで別人でした。

 付き合い始めてすぐに私は興味が持てなくなりましたが、アノ人はずっと惚れられていると思っていたようです。全て上から目線で接せられました。何なんでしょう。私は恋に恋していただけで、アナタに恋していたわけではなかったのに。

 だから、思うんです。アノ人と強制的に別れることが出来て良かったと。

 この先付き合い続けていたら、アノ人私の態度に不満を募らせていったことでしょう。そして暴力を振るうのです。

 やめて許してと泣き喚いてもアノ人は手を緩めないのでしょう。けれど、合間に耳元で囁かれる優しい言葉で私は離れられなくなるんです。

 未来に流すであろう涙に比べたら、アノ人が亡くなった時に流したものなんてたいした量ではなかったでしょう。だからこれで良かったのだと思います。

 私はアノ人を嫌いなわけではありません。そうでなければ手作りチョコレートをあげようなんて思いませんから。

 初めての手作りチョコレートでしたから調理法にも食材にもこだわって作りました。湯銭をして固めるだけではつまらないでしょう。とてもはりきっていたことを覚えています。隠し味は苺に似ているものです。詳細は秘密です。

 死ぬ前にアノ人は手作りチョコレートを食べてくれました。悲しいけれど嬉しかったです。

 アノ人との思い出を汚されないように、チョコレートの包み紙は私が回収しました。誰にもわたしません。

 その包み紙を今年は使おうと思っています。思い入れのある大事なものだから、今の恋人にも使うんです。

 バレンタインデーがアノ人の命日のままで止まっているのは嫌ですから。

 今の恋人で上書きしたいんです、2月14日を。

 今とびきりおいしいチョコレートを作っています。二度目ですからよりこだわったつもりです。ネットで検索するとアーモンドの臭いや苦味をつけるものがあるらしく、どの隠し味にしようか迷ってしまいます。

 食べた後どんな顔をするのか、今から楽しみです。

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