1話
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甘い展開ばかりです。よろしければ、お楽しみ下さい。
さなぎが蝶に生まれ変われる瞬間って羨ましい。
ちゃんと今日から『私は綺麗な蝶に生まれ変わったのよー』って自覚が生まれるから。
それまで見た目の悪さ故に卑屈な感情に振り回されていたって、一旦蝶に変身してしまえば
『さあ、見てごらん』と綺麗な身体を誇示して人生を謳歌できてしまうんだ。
いつか、私も蝶になりたい。
* * *
「今日のメンバーは大当りだね。一流企業勤務ってだけじゃなくて見た目も一流」
ふふっと何かを企んでるような笑い声。
隣のすみれちゃんは、声とは裏腹な爽やかな笑顔で向かいに座る男に視線を向けた。
ターゲットは決まったんだな、と気づいて思わず苦笑いが浮かぶ。
すっとした顔立ちで優しく口角を上げて話す彼、桜木くんだっけ……すみれちゃんのストライクゾーンど真ん中。
成り行き次第じゃこのまますみれちゃんにお持ち帰りされそう。
やる気もなく、合コンが始まってからずっと飲み食いに専念していた私は、空になったグラスに肩を竦めて
「生ビール一つ」
と通り掛かった店員の男の子に声をかけた。
「早くしてねー」
笑って片手を上げた男の子を確認して、再びテーブルのから揚げをつついていると。
「その態度はまずいだろ」
笑いを押さえた声が聞こえてきた。は?と横を見ると、いつの間に移動してきたんだろう、男が座った。
「やる気がないのはわかるけど、いい大人なんだからみんなと調和しようとか会話に参加しようとか思わないのか?」
片手でネクタイを緩めながら、私の顔を覗き込む男。
すみれちゃんの言葉を借りれば、まさしく見た目超一流。
身につけているスーツだって上等そうだし時計も海外の超一流。
「私が参加しなくても会話は成り立ってるし、誰も私に興味なさそうだし。
いい大人って言われても、いい大人の定義がわかんない」
「俺はお前に興味あるけど。お前のこの空気を読まない態度が面白いし興味ある」
「で……?私にどうしろって?」
相変わらず飄々と笑う男の真意がわからなくて、小さな声で聞いてみると
「どうしろって。うーん。とりあえず、俺の女になれば?今日、ここに来て良かったってきっと感謝するぞ」
……は?
自信ありありの顔と言葉に、思わず軽い恐怖を覚えて。
少し体を後ろに引いてしまう。
この男……変。すごく変。
見た目は一流だけど、思考回路はぶっつぶれてるんじゃないの?
「なあ。俺と付き合えよ。すっとぼけた顔もおかしいけど、お前のマイペースなとこ、かなりおかしい」
そう言って、強気に笑う男は、周りを一瞬見たあとぐっと顔を近づけてきて。
「……は?……っふ……やだ、ん……」
一瞬にして唇を重ねてきた。
目を見開いたまま、動けない私と視線を合わせて。
男は、嫌がる私を無視して、角度を変えて何度かキスを続けると。
「自分が欲しいもんは、すぐに欲しい」
上から目線で偉そうに。
一体いつの間にどうして、なんで。
この男の言葉が全くわからない。
どうなってるの?
早く帰りたい。
そんな私の早く帰りたいという、切実な気持ちを汲んでもらえる訳もなく。
妙な男は私の隣で飲み続けていた。
時折私を見つめては、甘い笑顔を向けながら。
それからしばらくして、すみれちゃんが狙いを定めた男の酔いがいい感じになった頃、ようやく合コンという拷問はお開きとなった。
* * *
「じゃ、私はこれで」
颯爽と男に腕を絡めながらタクシーに乗り込むすみれちゃんを呆然と見送っている私の傍らには
「俺んち近いから歩くぞ」
相変わらず自分の気持ちに超素直で訳のわからない男が立っていた。
私の腕を取ると、他のメンバーたちには片手をヒラヒラさせるだけの挨拶を残して歩きだす。
最初の信号を渡ったところに、ちょうど地下鉄の入口があった。
ずっと私の腕を掴んでる男から一気に腕をふりほどいて地下への階段を走って降りる。
一瞬追いかけようと男が伸ばした手を避けて思いっきり走った。
それなりに飲んでいたせいで、なかなか気持ち悪いけど。
あんな男の部屋に連れ込まれるなんて真っ平だ。
緩めの吐き気を我慢して、とりあえず電車に乗り込んだ。
ほっと一息ついて、安堵するけれど、唇にはあの男から残された熱がまだ感じられて、とくん、と鼓動も暴れている。
そして、ほっとした私は警戒心も何も持たずに、家路をたどって。
茫然としてしまった。
どう考えてもおかしい。
「なんでいるの?」
自宅マンションのエレベーターから降りて廊下を曲がった瞬間目に入ったのは、さっき振りきったはずの男。
私の部屋のドアにもたれて、煙草をすっている。
私を待っている以外に考えられない。
どうしてここまで私にこだわるのか、なんで私の部屋を知っているのかと、私の頭はぐるぐるいろんな事が回って混乱するのみ。
そして鳴り響く警戒信号。
とりあえず、あの男がここにいる限り部屋に近づくなんてできない。
下の階の仲良し、友美ちゃんの部屋に逃げこもうと、そっと身体の向きを変えた途端。
「うわっ」
今までおさまっていた酔いが私の身体を揺らして、視界はぐるぐる回りはじめ、身体の力は抜けて。
近づく廊下の格子模様。
あぁ…今、私は倒れてるんだ。
他人事のような感覚のままに、引力に忠実に倒れていくのを実感して、感じるだろう痛みを覚悟したけれど。
「寝るなら俺の腕の中にしろよ」
ばふっと抱え上げられたのは、駆け寄ってきたあの男の胸の中。
そして、不安を覚えながら、私の意識はすっと途切れた。
ああ、つかまってしまったんだ。
どうしよう。
* * *
どんよりと重い体を包む優しい温かさに気づいて、意識は戻っていく。
何かに包まれながら、保護されながら。
久しぶりに感じる安心感が心地好くてしばらくこのままでいたい、と。
考えたけれど。
ふと気付いた体を這う動きに、はっと目を開けると、私を抱きしめながらにやりと笑っている男。
「ちいせぇな」
「は?」
「どこもかしこも。小さくて甘い」
けだるい瞳を私に向けて、額にかかっている私の前髪を梳きながら落とされる低い声。
「もろに俺のタイプだよな……」
そっと近づく唇が、私の唇を塞いで啄むように刺激を与える。
「あっ……」
寝起きのぼんやりとした意識の中で、避ける事も拒む事もできなくて。
心地好さと罪悪感との狭間に、もがきながらも男の体温から離れられなくて。
未来の見えない関係へと自分を投げ入れてしまった。
賭けるには危うすぎる男の側で、泣く日々か笑う日々か。
これからを描くには足りない材料に震えながら、ただ男が落とす唇に酔っていた。
さあ、どんなに後悔しようとも、一瞬の誤りが私を悲しみの波に突き落とすとしても。
捕まってしまった。
これからを、どう決断しようとも。
捕まってしまった。
彼と私の運命が、今カチッと音を立てて繋がった。
* * *
「合鍵くれ」
そう言われたのはこの男が私の部屋に二度目に来た夜。
残業で疲れた体をふらふらさせながら帰ってきた私を部屋の前で待っていた男がまず言ったのがこの台詞。
おかしいでしょ。
普通、おかえりとか久しぶりとかがまず先に出るんだと思うけど。
そろそろ日付が変わる頃、
こんな遅くに来るなんて、どれだけ非常識な男なんだろうとぼんやり考えながら、それでもどこかドキドキしている自分も確かに存在していて。
そんな自分が何だか嫌で、部屋を開けながら、疲れてるのを理由にお引き取り願おうと振り向いた途端に部屋に押し込まれた私。
「合鍵ないなら、俺んちに明日越してこい」
は?
日中仕事でフル稼働させていた脳内には、思考能力はほとんど残っていなくて、男の発した言葉の意味を深く考える前に。
「ちょっと……っふ……やめて……」
玄関の壁に押し付けられた途端にふさがれた唇は、更に何も言えない状況に陥り。
両手を壁に固定されて、体を合わせられた私には何も選択肢は残っていない。
ただただ、甘いキスを受け入れるしかなかった。
思いのほか、嫌じゃなくて。それがショックだったけど。
この男のされるがままに唇を啄まれて、体はどんどん熱くなって脈拍だって激しい。
そんな私の状態を楽しんでるのか
「欲しいもんは今すぐ欲しい」
と初めて会ったコンパで唐突に言われた言葉をまた投げかけられる。
「欲しいもんって何?」
途切れ途切れになる息を無理やり整えてそう聞いた私の額に自分の額をくっつけると、この傲慢極まりない男は。
「お前の全部。何もかも全部」
やっぱりそうか。
自信に満ち溢れていて、私が拒否するなんて全く思っていなさそうな視線をぐっと向けて、さらにきつく抱きしめられると。
「明日、越してこい」
どうしてこんな展開になるのか、客観的な私は疑問でいっぱいで、この男の考えてることを見透かしてみたいと思うけれど、体を包み込む温かい安らぎが心地よくて。
頷かないけれど拒む事もできなくて。
ただこの男の体温に溺れそうになっていた。
* * *
可偉……折川可偉。おりかわかい。
この男にピッタリな名前を初めて聞いた時にはあまりにもはまりすぎていて笑ってしまった。
何事も可能にするくらい偉そうな男。
ご両親は、成長後のこの男をわかっていて名づけたとしか言いようがないピッタリな名前。
『かい』
そう私が呼ぶ度に穏やかな表情を向ける男は、誰もが知る一流企業に勤務している。
出会ったコンパにはその会社の面々が揃っていて、私以外の女の子達のテンションの高さは尋常じゃなかった。
そんな波に乗り切れず食べに走っていた私をなぜか気に入って、それ以来まるで私を所有物かのような態度で接してくる可偉。
会ったその日に抱かれて、私がそれまで培ってきた常識も何もかもがひっくり返ってしまった。
可偉に抱かれる事を、拒まなかったのか、拒めなかったのかわからないけれど、私の心が可偉に惹かれていた事は、否定できない。
可偉の見た目はかなりいい。
180㎝は余裕で超えている身長に、整った小さな顔。
細身だけど脱いだらすごい。
多分、周りには可偉を狙ってる女の子はたくさんいるはずなのにどうして私を口説くのか全くの謎。
「ねえ、私のどこが気に入ってるの?」
まだ体の熱が抜けきらないベッドの中で、可偉の腕に包まれたままそう聞いてみる。
私の目の前には引き締まった可偉の胸。
激しく私を抱いた後の鼓動はまだ強い音を立てている。
私が喘ぐ度に嬉しそうに笑って、体の奥を可偉に探られては真っ白になる私を無理矢理引き戻しては更に高みに連れて行く可偉。
きっと、可偉の背中は私がひっかいた爪のあとで赤くなってるはず。
そんな状況が恥ずかしい自分って一体どうしたの?
って思うけれど、最初に会った時から私に対して甘い態度で押してくる可偉の思うがままに洗脳されてしまった。
今抱かれたばかりなのに、もう抱いて欲しくなる。
掠めるように触れ続ける可偉の指先をぐっと私の体に押し付けて、もっと強く触って欲しくなる。
どうしたの、私。
「紫の事、欲しいから。欲しいから、好きなんじゃないのか?」
「え?」
「初めて目を合わせた時から欲しいって思ったんだから好きって事だろ」
頭を優しく撫でながら呟く可偉は、なんでそんな事を聞くんだっていうような口調で。
「紫が俺を求めてくれるように、たとえ求めなくても俺のもんにするって決めたんだよな。
他の男には絶対にやらないってあたりまえのように決めて、あの日は追いかけた」
「追いかけられたね、確かに」
「すみれちゃんだっけ。コンパの幹事経由でそのすみれちゃんから紫の住所を聞き出して、紫を捕まえた」
「うん、捕まりました」
「女には困らなかった俺がそこまでするんだから、紫の事好きなんだってことだろ?」
「はあ……」
なんだかなあ。そう言われればそうなんだろうし自信にあふれた声音で言う可偉にこれ以上聞いても求める答えはもらえそうにないし。
私としては、性格が気に入ったとか、まあ、ありえないけど一目ぼれしたとか。
具体的な答えを求めてたのに。
女の子なら、そんな答えをもらって安心したいもんでしょ。
何となく曖昧な可偉の答えに唇をとがらせて、不満げにため息を吐いた私をぐっと抱きしめた可偉は、私の耳元にくくっと笑いを落とした。
いつもいつもマイペースなこの男だけど、露骨に不満げな感情を出した私を目の前にしても笑ってる。
私もつられて笑ってしまいそうになる。というか既に苦笑してる。
「こうやって俺の腕にいるなら笑ってても怒っててもどっちもかわいいな。
俺の知らない所で幸せになったり悲しんだりするのは許せないけど」
「それって可偉のわがままでしょ」
「くくっ、わがまま万歳だろ。惚れた女の全部。感情も生活も体も何もかも自分が自由にしたいって思うのは許されるわがままだろ」
ん?と最後に言いながら、私の首筋をきゅっと噛む可偉。
「や、やめてよ。ただでさえキスマークが絶えなくて会社で冷やかされてるのに」
慌てて可偉から離れようとしても、そこから簡単には自由になれない。
男の力にかなうわけなく、可偉の腕の中から逃げようとするのは無駄だと改めて知らされる。
見上げると、可偉の優しい瞳が私を見つめている。
揺れるその瞳の奥に映る私の顔は。
抱かれて高揚しただけではない、満足した女の顔。
大切にされているとわかっている女の顔が見えた。
「私も、可偉が欲しい……かも」
思わず口から出た言葉は、初めて告げる可偉への想い。
あっという間に捕えられて落とされて、気持ちも体も生活も何もかもを思うがままにされた。
自分の状況が受け入れられなくて、何度も何度も戸惑ったけれど、一度も不安にはならなかった。
可偉が私を不幸にするなんて思えなかった。
可偉は自信に溢れて偉そうな言葉しか言ってないけど、それでも本気で逃げようなんて思わなかった。
逃げる気になれば、実家に帰ることもできるし会社を辞める事も選択肢の中に浮かんだはず。
それでも私は可偉に振り回される事から逃げようとしなかった。
抱かれて満ち足りる自分を否定できなかった。
『わがまま万歳』
なんて可偉にぴったりな言葉だろう。
本当、可偉にぴったりの言葉だ。
私が囁いた言葉に、にやりと口角を上げた可偉は何も答えず、再び私に覆いかぶさった。
じっと私を見つめるのは強引で自分勝手な男。
私の言う事にまともに答えてくれるなんてないしペースも合わせてくれない。
それでも、私を傷つけたり悲しませる事はしないだろうって感じる。
根拠のない女の勘?だけど。
それでも、私もこの男が欲しいって思えるから、それを唯一の根拠にこの男を信じてみようかなって思える。
ゆっくりと可偉の頬に手を伸ばすと、男にしては整いすぎの輪郭に胸はときめく。
「可偉の全部……欲しい」
思わず溢れた想いが言葉になってこぼれた。
出会ってからずっと否定していた自分の本音を認めた途端に伝えたくなった感情。
「全部……頂戴」
可偉の頬を両手で挟んで、初めて自分から顔を寄せて唇を合わせた。
途端に私の口の中には可偉の舌が優しく入ってきて、絡ませあう舌の熱さが私の感情をさらに煽る。
もう、だめだ。
このどうしようもない男は手に負えない。
* * *
「早くしろよ。今日中に終わらないぞ」
「……」
慣れたつもりでいたけど。この男の強引さには慣れたつもりでいたけれど。
何で?何で引っ越しってあっさりと実行されちゃうわけ?
「俺んちに越してこい」
そう言った可偉の言葉にウソはなくて、そう言った翌日の朝には引っ越し業者が私の部屋にやってきた。
慌てる私をよそに、業者さんはさすがプロ。
それほど広くはない部屋からどんどん荷物を運び出していった。
「可偉……これから私はどこに……」
それまで可偉の部屋に行く事を拒否していた私は可偉の部屋がどこにあるのか知らなかった。
会社だって辞めるわけにはいかないのに突然引っ越して。
私の日常はこれからどうなるんだろ。
そして、可偉の車に乗せられて、連れてこられたのは。
私が住んでた部屋から車で30分ほどの閑静な住宅街。
いくつか角を曲がった先には、見覚えのある引っ越し業者のトラック。
既に到着して、待っていた。
「え?あの家……?」
「そう。気に入った?」
いや、気に入ったも何も。
予想ではマンションの一室だと勝手に思い込んでいたのに、その家はご立派な一軒家。
ベージュの外壁に茶色の屋根。
二階建てのその家はどう見てもファミリー向きの大きな家。
庭だってそこそこ広いし前面道路も広くてゆったりしてる。
「えっと……誰か他に住んでいたりする?」
思わず浮かんだ不安を口にすると。
「まさか。紫と二人っきりで暮らせるのになんで他の人間と一緒に暮らすんだ?」
呆れたように答えが返ってきて、ほんの少しほっとする。
「この家、気に入らなかったら他探すけど。新築だし、すぐ売れるだろ」
「は?……可偉の持ち家?名義は可偉?」
「あ?当たり前だろ。紫と暮らすって決めた時に買ったんだよ。結構広いしいいと思うぞ」
車から降りて、見上げたその家は、どうしてなのかわからないけど、私が嫌だと思うような印象はどこにもなくて、この状況への戸惑いよりも嬉しさのほうが大きくなってくる。
じわじわと。
「とにかく、中見てみろ。紫の好きにしていいから」
私の肩を抱いて、のんびりと家の中に入っていく可偉は、楽しげに笑って足取りも軽い。
本当に幸せそうな顔をしてる。
まだまだ戸惑ってる私の不安にも苦笑するだけ。
そっと触れるだけのキスを落として、何かを私の手に握らせる。
「何……?」
左手に乗せられたそれは……。
「鍵?」
「そ、この家の鍵。もう紫の家はここだから。合鍵なんかじゃない、紫の家の鍵。
俺の全部が欲しいんだろ?俺の生活をお前にやるってこういう事じゃない?」
くすくす笑いながら、二階へ私を連れていって。
「ここが寝室。俺の夜も紫にやる。俺も、紫の全部もらうから」
日当たりのいい寝室はかなり広くて、窓際に置かれたベッドはキングサイズに違いない。
家具くらい、私に選ばせて欲しかった・・・って思いながらも、私を悲しませる事はないだろうって妙に信じられるこの男の生活に、引きずり込まれた事を嬉しく思える自分が。
悔しくも、嬉しかった。
この先、どうなっても、きっと私はこの男からは離れられないんだろうな。
新しい部屋から見る、新しい景色。
可偉とのんびりと眺めながら、これから始まる甘いであろう毎日に、気持ちがとくんと潤って。
寂しい事や、悲しい事が多かった私の人生が、彩を帯びたように感じた。