大好きな言葉は「孤高道」
もうそろそろ時効かな。
そう、最近思うようになった。
お兄ちゃんを許そうと。
私は2人兄弟の末っ子長女だ。
2つ年上の兄がいる。
この兄が、昔からとんでもない問題児。
家に遊びに来る友達はみんな、茶髪は当たり前、耳に乾電池いれてたり、びっくりしたのは今時リーゼントな人もいるのだ。
そんな兄は小学から煙草に手をだし、中学でシンナー、高校で薬をやっていた。
家の路地で学校帰りにばったりシンナー吸ってる兄を見たときは本気でぞっとした。
あるとき、2階の部屋から
バタバタバタバタバタァ~~~
と降りてきて、こっち見るなり
「お前、習字の墨もっとるや?」
「えっっ、学校で使ってるやつあるけど。」
「ちょっと貸せや。」
次の日の朝、起きてきた兄を見て愕然。
腕に大きな入れ墨があった。
腕には「孤高道」と書かれていた。
「え?はぁ?あの墨ってこのための墨?」
その日から兄はおかしくなった。
家の貯金箱からお金を取り、お母さんの財布からお金を取り、勝手に質屋にいれたり、
挙句の果てには、妹の私からお金を借りる始末。
もちろん、わたしはそのたびに断わってはいたが、やはり兄でも怖いものは怖い。
たまに貸すしかなかった。
そんな兄を見て育った私は絶対に兄にだけはなりたくないと思い、勉強をし、毎日明るく元気な笑顔をし、家の中の闇とずっと戦っていた。
もちろん、そんな息子を持つ親は一日中しかめっつら。どなりっぱなし。
そんな家庭を明るくしたかった。
お兄ちゃんだけじゃなく、本当はもっと私を見てほしかった。
私もただの中学生。子どものなのだ。
そんな生活が3年以上続き、私は高校卒業とともに家をでることにした。
もうこんな家にはいたくなかった。
家を出る前の日、
バタバタバタバタバタァ~
と兄が2階からおりてきた。
家にいてもめったに話さない兄弟。
一旦外に出たら、口をきくことを禁止されてた兄弟。(兄に話しかけるなと言われていた)
そんな兄が一言。
「これ。」
「え、なにこれ。」
「お前に借りた金・・・返す。」
「え、いやでも、もう覚えてないし。」
「遅くなってわりい。」
たったそれだけのやり取りだった。
お金を貸したのが確か中2の時。
あれから5年。返ってきた。
そして、あれから10年。
今でも覚えてるあの日のこと。
そしてたまに思い出すあの日のこと。
あの時なんで、私にだけお金を返してくれたのか。(親にも友達にも借りていた)
なんで、今まで返してくれなかったのか。
なんで、ちゃんと覚えていたのか。
なんでなんでなんで・・・
私に一つだけ分かるのは、兄はちゃんと「兄」を貫いてくれたこと。
私をちゃんと「妹」と思っていてくれたこと。
兄のことをどこかでずっと恨んでいた。
そして、そんな自分が嫌だった。
許そう。
そう思った。
目の前にいるのは私のたった一人の兄。
あの時、お金を返してくれた兄。
そう思いながら、伝票を片手に席をたった。
「おごってくれんの?サンキュー」
後ろからは兄のお気楽な声だけが響いていた。
「1万5千円です。」
「・・・」