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大好きな言葉は「孤高道」

作者: sakko4444

もうそろそろ時効かな。

そう、最近思うようになった。


お兄ちゃんを許そうと。





私は2人兄弟の末っ子長女だ。

2つ年上の兄がいる。

この兄が、昔からとんでもない問題児。

家に遊びに来る友達はみんな、茶髪は当たり前、耳に乾電池いれてたり、びっくりしたのは今時リーゼントな人もいるのだ。


そんな兄は小学から煙草に手をだし、中学でシンナー、高校で薬をやっていた。

家の路地で学校帰りにばったりシンナー吸ってる兄を見たときは本気でぞっとした。


あるとき、2階の部屋から

バタバタバタバタバタァ~~~

と降りてきて、こっち見るなり

「お前、習字の墨もっとるや?」

「えっっ、学校で使ってるやつあるけど。」

「ちょっと貸せや。」


次の日の朝、起きてきた兄を見て愕然。

腕に大きな入れ墨があった。

腕には「孤高道」と書かれていた。


「え?はぁ?あの墨ってこのための墨?」



その日から兄はおかしくなった。

家の貯金箱からお金を取り、お母さんの財布からお金を取り、勝手に質屋にいれたり、

挙句の果てには、妹の私からお金を借りる始末。

もちろん、わたしはそのたびに断わってはいたが、やはり兄でも怖いものは怖い。

たまに貸すしかなかった。



そんな兄を見て育った私は絶対に兄にだけはなりたくないと思い、勉強をし、毎日明るく元気な笑顔をし、家の中の闇とずっと戦っていた。

もちろん、そんな息子を持つ親は一日中しかめっつら。どなりっぱなし。

そんな家庭を明るくしたかった。

お兄ちゃんだけじゃなく、本当はもっと私を見てほしかった。

私もただの中学生。子どものなのだ。


そんな生活が3年以上続き、私は高校卒業とともに家をでることにした。

もうこんな家にはいたくなかった。


家を出る前の日、

バタバタバタバタバタァ~

と兄が2階からおりてきた。

家にいてもめったに話さない兄弟。

一旦外に出たら、口をきくことを禁止されてた兄弟。(兄に話しかけるなと言われていた)


そんな兄が一言。


「これ。」


「え、なにこれ。」


「お前に借りた金・・・返す。」


「え、いやでも、もう覚えてないし。」


「遅くなってわりい。」



たったそれだけのやり取りだった。

お金を貸したのが確か中2の時。

あれから5年。返ってきた。




そして、あれから10年。

今でも覚えてるあの日のこと。

そしてたまに思い出すあの日のこと。


あの時なんで、私にだけお金を返してくれたのか。(親にも友達にも借りていた)

なんで、今まで返してくれなかったのか。

なんで、ちゃんと覚えていたのか。


なんでなんでなんで・・・


私に一つだけ分かるのは、兄はちゃんと「兄」を貫いてくれたこと。

私をちゃんと「妹」と思っていてくれたこと。



兄のことをどこかでずっと恨んでいた。

そして、そんな自分が嫌だった。






許そう。





そう思った。


目の前にいるのは私のたった一人の兄。

あの時、お金を返してくれた兄。



そう思いながら、伝票を片手に席をたった。




「おごってくれんの?サンキュー」




後ろからは兄のお気楽な声だけが響いていた。














「1万5千円です。」


「・・・」



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