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エピローグ

最終回です! 此処まで読んで下さった方、是非感想を下さい!



――特報――

『鉄道大破!?』


「三日前の未明、アルナス王国と隣国カルシア共和国を繋ぐ鉄道が大破していた事が判明した。

 未だ原因は不明だが、魔法検察官による検証では、破壊された後を見る限り、「何か強い力で叩き壊されたようだ」との事だ。

 現在検察では、暴風によって何らかの被害を受けた事故としての捜査が進められている。


 尚、本件との関連性は不明だが、シルム大河上の鉄橋周辺から、碧い光の柱が伸び、暴風雨を消し去ったという目撃証言がある。

 まことに信じ難い事だが、三日間降り続くと言われていた豪雨が実際にその姿を消した所を見るに、虚言の一言で片付けるには、余りに早計であると言える。

 今後我々はこの超常的事態の調査を進めると共に……。」


―――――


「随分派手に載ったな……」

 木製の古椅子に身を預けたアルトは、嘆息するように息を吐くと、特報と書かれた新聞を放った。

 軽い音を立て、テーブルの上に見慣れた構成の誌面が広がる。

 平和記念碑速報――アルナスタイムズ――小難しいというより、完全に創刊者の趣味で付けられであろうタイトルの情報誌は、新聞というより娯楽のような面が売りの、一風変わった日刊誌だ。

 ハルカが愛読している為、アルトも毎日目を通してはいるのだが、毎回情報の濃さや誌面の厚さが違う上に、連載している短編小説もかなりの頻度で飛ぶ。

 つまり、当たり外れの大きい事で有名なのだ。

 ただ、裏付けの取れない情報は載せないなど、情報誌として誠実な部分は評価出来る。

 そのせいで、ゴシップ記事は面白いとは言い難いのだが。


 ……しかし、我ながら上手く処理したモノだ。あれだけの惨事だったというのに、誌面には曖昧な表現が多い。負傷者が自分達だけだった所も大きいのだろう。

 隠蔽工作を手伝ってくれたアレクには感謝しなくてはいけないな。今度飲みに行ったら、少しばかり奢ってやろう。


 まあ、回り道はしたが、今回は上手くまとまったと言った所だ。ただ、今回上手くいったからといって、二度としたいとは思わないが。

 アルトはインクの滲んだ誌面をぼんやりと眺め、コーヒーを一口啜る。

 久しぶりに落ち着いた朝だ。そんな事を頭の片隅に浮かべた瞬間、事務所の扉が勢い良く開かれた。

 見れば、そこには活発そうな笑顔を浮かべる少女が一人。

「おはよーございまーす!」

「ああ……落ち着いた朝、短かかったな……」

 再び溜め息を吐く。アルトはコーヒーカップをテーブルの上に置いた。

 淹れたばかりの為か、白い湯気が立ち上っている。アリスは湯気越しに問う。

「あれ? アルトさん一人ですか?」

「見ての通りだ」

 室内を見回すアリスに肩をすくめ、軽く応じる。見慣れた部屋は閑散としており、人の気配は無い。

「そうですか……」

 あはは、と笑顔を浮かべたまま落胆するアリス。笑顔を崩さないのは流石と言った所だが、妙に疲れているような感を受ける。アルトはカップを手に取ると、そんな彼女に何気なしに聞いた。

「ところでアリス?」

「はい?」

「あれからまだ数日だ。お前は随分頑張ってくれたし、その……、疲れてないのか? もう少し休んだって良いと思うが」

「え? あはは! 私はへーきです! ハルカ達の為ですから!」

 一瞬キョトンとした表情を作ると、アリスは屈託の無い笑顔を浮かべ、アルトに言った。

 これが一切の冗談を抜きにした言葉なのだから、まったくもって脱帽する。

 あの日、事務所に戻って来た自分達を笑って迎えてくれた彼女の姿は、新しい記憶ながら印象的だった。

「……そうかい、まあ無理はするなよ」

「はい! でも、私は恩返しが済んでませんから! ハルカにもアルトさんにも! だからまだまだ頑張りますよ!」

「そっかあ……、じゃあ恩返ししてもらおっかなあ〜〜!」

「え? わひゃあ!」

 アリスが手を胸の前で合わせて熱弁を振るうと。どこからか現れたハルカが、突然背後からアリスに抱き付いた。

 銀髪を揺らし、ジタバタと暴れるアリスを抑え、満面の笑みを浮かべるハルカ。

「ちょっ……! ハルカぁ!」

「えへへ、ありがとう」

 ハルカはアリスが落ち着きを取り戻したのを見計らいそう言うと、軽い靴音を響かせ、アリスから離れた。

 悪戯っぽい笑みは彼女らしい。

 頬を染め、アリスはハルカを睨む。

「もう……。準備は済んだの?」

「うん! 勿論! 主役も大丈夫!」

「本当に?」

「大丈夫だって! アリスこそ、今日は沢山歩くんだから準備はしっかりと……」

「おい」

 言い争う二人の間にアルトは横槍を入れる。突然の言葉だ。二人はキョトンとした表情でアルトの方を向いた。

 椅子に身を預ける彼の表情は、呆れていると心底訴えかけていた。

「ん? アルト何か忘れ物?」

「いや、扉の前で待ちぼうけを食ってる奴がいるんだが?」

「え? ああ! ごめんなさい!」

 アルトにそう言われ、慌てて扉の前に駆けていくハルカ。

 古びた扉を開き、迎え入れられたのは二人の男女。

 厳格そうな騎士と、高貴な雰囲気を纏う少女だ。騎士は幾分か柔らかい表情を浮かべ、少女は緊張したような面持ちで此方を伺っていた。


 ハルカは満面の笑顔で二人に応じる。


「ウェイアーズ魔導士事務所へようこそ! 本日のご依頼は何ですか?」


「あ……、その私……」


「姫様、落ち着いて」


「わ、分かってるわよ……! その、王都の観光を手伝って欲しいの」


「はい。ところで……、貴女のお名前を伺っても宜しいですか?」


「あ……」


「姫様」


「う……、リ、リークスフィア……、リークスフィア・フォン・アルナス。リアって呼んでくれると嬉しい、かな……」


「クスッ、はい! その依頼、確かに受けました! じゃあリア、あの日の続きを始めましょう!」


 ハルカはリアの手を取る。


 繋がる手、優しく引かれるそれを見て、少女は笑う。


 暖かな想いを受け、自分を自分にしてくれた貴女に感謝して。


「ありがとう、私を見つけてくれて」


「うん! どういたしまして、リア!」


 二人の笑顔を見下ろす空は、あの日の様に澄み渡っていた。




一先ず完結です。気が向いたら続きを書くかも知れません。その時は宜しくお願いします!

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