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4ー6 『少女』の一番長い日

楽しんで下さい!


「……っ! はぁ……」

 照明が落ちた車内を駆ける。煩い雨音を払う。

 全部押しのけて、前へと進む。

 それでも光が差し込む事は無い。暗雲に覆われた空は光を阻む、阻み続ける。

 それは不安と、諦めと、絶望が入り混じった暗い空。

 故に届かない。届かない。

 願っても、望んでも。届かない。


 ……それでも……、光はある。


 空を暗雲が覆っても、雨が降っても。その闇を越えた先には、間違いなく光がある。


 私は越えてみせる。


 届いてみせる、リアに。



「やっと……追い付いた」

 ハルカが最後の扉を開き、軋む板張りの床を踏む。魔法の気配は無い。ただ湿った空気が自分にまとわりつくのが分かる。

 そのまま歩を進め、丁度五歩目を踏んだ所で、車両の端にリアが座り込んでいる事を認識した。

 ハルカがそこで立ち止まると、リアが小さく呟いた。

「なんで?」

「なにが?」

「……ハルカ、なんで? どうして私を追ってきたの? なんで私が居なくなるって分かったの?」

 顔を上げないまま、涙が混じった声でリアは問う。

 それが自分への問いでもあると、理解して。

 沈黙が降りた。ハルカは考えるような仕草もとらず、リアの前に歩み寄った。床が軋む音と、雨音だけが響く中、ハルカはリアの前に座り、彼女の体を優しく抱きしめた。

 愛おしい者を護るように、強く。

「あ……」

「理由は……、良く分からないよ。ただ、どこかに居なくなってほしくなかった。もっと一緒に居たかった」

「そんなの……。私は……、嘘を吐いたんだよ? 私は我が儘で動いたんだよ? 王女が嫌で、リークスフィアが嫌で、リアになりたくて……! 軽蔑するでしょう!?」

「しない! しないよ!!」

「どうして!?」

「リアが好きだから!」

「……え?」

 リアが突き放すように荒げた声に。ハルカは当然のように返す。

 自分は彼女達を利用した。自分の我が儘の為に、それなのに……。

 理解出来ない、裏切られたら嫌いになる、軽蔑する。それが普通だ。普通なのに……。

 ハルカはそんな私を好きだと言う。好きだって言ってくれる。

「そんなの、おかしい……よ」

「おかしくない! きっと、アルトもアリスも。ううん! 二人とも絶対そう言うよ」

「うっ、あ……ひっく……私、私は……! 嘘吐いて、我が儘言った……のに……!」

「リア、大丈夫だよ」

 涙を流し、声を上げるリアを強く、より強く抱きしめる。

 ハルカは優しく、しかしはっきりと想いを言葉にする。

「嘘を吐いた狼少年は食べられちゃったけど、リアは何度嘘を吐いても大丈夫だから。だって、私達が何度だって信じるから。どんな我が儘だって真っ向から向きあってあげる、駄目な時は止めてあげる。楽しかったら、私達も一緒に楽しんじゃう。これから、ずっと。だから……」

 リアはハルカに縋るように抱き付く。ハルカはそれを受け止め、優しく彼女の髪を撫でる。


 うん、今なら――きっと届く。


「帰ろう、リア」


 ハルカが笑い、その言葉が届いた瞬間。光が射した。

 暗雲を絶ち、空を塗り替える碧い剣。交叉した光の先に広がるのは、深くどこまでも澄んだ蒼。


 流れる風が心の風車を回した。


 眩いばかりの陽光が二人を照らす。


 リアは光に一瞬だけ目を細めると、金色の髪を揺らし、ハルカに微笑みかけた。


「うん」


 その言葉は何よりも強く、朝露よりも清らかで。

 陽光に負けない位に明るくて、虹よりも鮮やかな笑顔だ。


 彼女の名前は……。




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