4ー5 『少女』の一番長い日
戦闘シーンを頑張りました!
「アルト、絶対にすぐ追いついてよ!」
ハルカはそうアルトに言い残すと、ジークの横を抜け、最早原型を留めない程に破壊された車内を駆け、闇に沈む車両の奥へと消えていった。
大気が静まり返る。
ジークは靴音の残響を見送るように一瞥すると、アルトに向き直り、剣を構えた。
「良いのか? 魔導士の手助けが無くて」
「アンタこそ、良いのかよ? ハルカを通して」
アルトは刀の切っ先をジークに向け、からかうように笑う。ジークは眉一つ動かさずに応じた。
「問題は無い。彼女が姫様を変えるなら、私はそれに従うまでだ」
「そうかい……!」
アルトはそう言った瞬間に床を蹴り、刀を振り払った! 車内の粉塵が舞い、一瞬の内に眼前に迫った剣閃を、ジークは大剣を振り上げて殺し、そのまま押し切る。アルトは力を流すように一歩引き、返す刃で切りかかるが、ジークはそれを左手の籠手で受け、大剣を振り下ろした。
二人は幾度となく必殺の刃を振るう。視界を埋め尽くす無数の剣戟が戦いの苛烈さを物語る。
大剣が刀を弾き、刀が大剣を流す。魔法で護られた鋼鉄の刃が触れる度、青白い火花が散り、闇を染める。
殺気にも似た空気に、酔ったような感覚を覚え。二人は刃を交えたまま、同時に口角を吊り上げた。
「私とお前は似ている」
「どこがだよ? って言いたい所だが、何となく分かる」
空気を裂く一閃が車内を撫でた。
「護るべき者が居る」
「護りたい奴が居る」
アルトは刀を、ジークは大剣を強く握り締め後退し、互いに距離を取る。緊張を混ぜた空気が停滞した。
「私は姫様に救われた。彼女が居なければ今の私は無い」
「俺はハルカに教えられた。生きる意味ってやつを。けどな……!」
アルトは視線を鋭く細めた。
「俺とアンタは決定的に違う」
空気が変わった。
ジークの瞳に、強い熱が見える。感情を露わにしない彼なりの激情。殺意にも似た空気。ジークは大剣を掲げた。
「違う? そうだ、私はお前とは違う! 姫様の隣に立ち、姫様を護る! どんな手段を用いようと、姫様の行く手を阻む全てを断ち切ってみせる!」
「それが違いだ! お前は護るしか出来てねぇんだよ! 道に迷った時、道を見失った時。一緒に悩んで、一緒に探してやる。隣に立つってのはそう言う事だ!」
その言葉に続くように、二人の武器に、無数の光芒が伸びる。
魔力を込め、想いを込め。空に挑むように、空を絶つように。碧い光の柱は束ねられる。
彼等が手に在るそれは一振りの剣。
「俺たちは、決定的に違う!」
「私たちは、決定的に違う!」
大気を巻き込むように伸びた光の剣が、全力を持って振り下ろされた。
光が交叉した。
衝撃。轟音。世界の一切が光に塗りつぶされ、空を覆っていた暗雲を貫き、拡散する。
光が伸びた先に蒼穹が広がった。




