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4ー4 『少女』の一番長い日

動きの部分で時間が掛かりました。感想があれば宜しくお願いします。


「どうして……?」


 リアは震える声を押し留めるように、両の手で口元を覆った。


 信じられ無かった。来れる筈が無かったから。

 居場所は隠蔽した。此処に至るまでには兵士もいる。積み荷を守る為、安全を確保する為の精鋭。そう偽って、自分の為に動く人間を用意した。裏切りは有り得ない。

 それなのに……!

「何で……!!」

「何を聞きたいのかは分からないが、とりあえず、居場所が分かったのはそれだ」

 立ち上がり怒鳴り声を上げたリアに、アルトは飄々とした態度で応じ、リアの胸元を指差した。

 そこにあった魔法結晶。ペンダントに加工された光の欠片は、雨に濡れながら、淡い光を放っていた。

「気付いてたろ? それに俺が魔法を込めたの」

 リアは一瞬顔を伏せ、直ぐにアルトの目を見つめ返した。

 何も言わないのは肯定。そう受け取り、アルトは続ける。

「まあ、簡単な話だ、それを追ってきた」

「……私が起きていたと気付いていたのなら、捨ててしまうとは考え無かったの?」

 皮肉げに、自嘲したようにリアは笑う。降りしきる雨のように冷たい視線を、アルトに向けた。

「考えなかったさ。いや、捨てないと思ってた」

「……何故?」

「リアは良い奴だからな」

「……!」

 リアの問いに、当たり前のように返すアルト。普段の気怠げな色が見えない瞳に見据えられる。心の奥を見透かされそうで、リアは思わず目を逸らした。

 だが、いつの間にか自分の前に立っていたハルカに頬を押さえられ、強制的に目を合わされる。

「一週間だったよね? リア」

 何も言えなかった。涙が零れそうになった。

 彼女達はもう気付いているのだろう。これが私のエゴだと。王女という責任を放棄しようとしている私に。『リア』になりたかった私に。

「まだ時間はあるよ? 思い出も沢山作れるよ、だから……」


 ――あ。


「帰ろうよ?」

 ハルカがそう言った瞬間。リアの心の天秤が傾いた。


「……いや」

「え?」

「帰るなんて……、帰るなんて……、嫌だあぁっ!!」

「ハルカっ!!」

 リアの絶叫が車内の空気を揺らし、光が散った。

 無数の光芒が空気を圧縮し、魔法の弾丸に変わったそれが、二人を射抜く様に延びる。

「ちいっ!」

 放たれた弾丸の軌跡を見切り、アルトが刀を振るう。刹那の内に放たれた銀閃は魔法の光を掻き消し、車内を夜と雨の闇に沈めた。魔法の残滓だけが星のように車内を照らす。

「アルト! 今の!?」

「リアじゃない! 上だ!」

 叫び声と共に天井が砕け、一振りの剣が車内の床に叩きつけられた。

 そう認識した瞬間、アルトの立っていた場所が横薙に両断される。生じた剣圧が空気を巻き込み、まるで嵐に撫でられたように、車内の椅子や格子棚が弾け飛んだ!

「今のは確実に殺すつもりだったんだが……」

「あの程度で死ぬんなら、とっくに死んでるさ、依頼主(ジーク)さんよ」

 車内の粉塵が汽車の風で流されると、白いローブを纏った男が大剣を握り締め、アルトに対峙していた。聖騎士ジーク・レイザス、王女を護る騎士が。

「気付いていたか」

 アルトは薙払われた空間から一歩引いた位置で、刀の切っ先をジークに向けた。どこか真剣で、どこか浮ついた不思議な笑みを貼り付けて語られた言葉は不安定な感覚を覚える。

「ハルカ! リアは奥の車両に走っていった! 早く行け!」

「でも! アルトは!?」

「この馬鹿倒してさっさと追うさ、だから……」

 ハルカの声に振り返らないで、アルトは言う。先程の不安定な感覚は消えていた。

「此処は任せろ」

「うん!」



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