3ー4 誰かの景色
遥かなる道はあれど、果て無き道はない、そう信じたいです。
進んでんのかなコレ?
風を掴むように手を伸ばす。
空に届くように、指先が星に触れるように。
手を伸ばす。
風が指の間を吹き抜ける。
誰だったか、人が想像出来る事に不可能は無いと言ったそうだが、頭上に広がる星を掴みとるイメージは夢に描いても叶いそうに無い。
夢は時に、人を絶望させる。
そういうモノらしい。
けど、夢は描かなくては叶わ無い。抱かなければ自らの指針を得る事も出来ない。
絶望は恐い。
それでも……、前に進みたい。
世界を変えたい……。
○
「ついてるぞ」
「え?」
アルトは手を伸ばすと、リアの頬に触れた。
先程買ってきたチョコレート味のソフトクリームを指先ですくい取り、軽く舐めた。
口に入れると、半分程溶けかかっているのが分かる。
「どうしたんだ?」
アルトはあまり反応を示さないリアを覗き込んだ。
アイスを一口食べてから、ぼんやりと空を見上げたままだったので流石に気になったのだ。
普段だったらこういう時にはハルカが声を掛けるのだが。ハルカは露天でアレクが働いていた事を知ると、「挨拶をしてくる」と言って場を離れた。
今頃さぞ面白い光景になっている事だろう。
少々不謹慎な事を頭の隅で考え、頬を抑えながら、此方を向いたリアと目を合わせた。
瞳が少し潤んでいる。頬が紅潮し、動悸も激しいのか、せわしなく呼吸を繰り返している。
何かの病気?それとも酒か?
アルナスの法で飲酒は十八からとされているから後者は無いか。
「リア?」
「わざとかしら?」
「何が?」
「……馬鹿」
「え?」
突然罵倒された。
リアは理由が分からず狼狽するアルトに、
「自分の胸に手を当てて考えなさい」
と言うと、残ったアイスをさっさと食べ切り、丁度戻って来たハルカの方へ歩いていった。
何かしたか?思い当たる節がない。
アルトは軽く首を傾げ、リアの後を追った。
○
「何だ……それ?」
アルトはバスケットに、正確には山積みの菓子が積まれたバスケットに呼び掛けた。
「飴とクレープ」
「どうした?」
「アレクさんがくれた」
バスケットの向こうから事もなげに答えるハルカ。
山積みの菓子類に埋もれている為表情が見えないが、声の調子から察するに多分喜んでいるのだろう。
甘い物好きだしな。
「ほどほどにしろよ」
「分かってまーす」
本当か?
一瞬疑うが、まあ良い。
そして多分アレクのバイトは今日限りだ。
いくら緊張したって、商品をプレゼントするのは流石に行き過ぎである。
「ご愁傷様だな」
「え?」
「こっちの話だ、ところで次は街道なんだが、昼も近いしどっか適当に入るか?」
アルトは外壁に手を掛け、アルフィールの方に目をやった。
時計搭の短針が十二を示そうとしているのが見える。
「ふっふっふ、その必要はないよ」
「は?」
不敵に笑うハルカはアルトの声を無視して、鞄から包みを取り出した。
派手すぎず、地味すぎず、センスの良い袋に包まれたそれは、アルトの目には負のオーラを纏っているように見えた。
というより、実際に異臭を放っていた。
「べん……とう?」
「そ!アルトが来る前に作ったの」
誇らしげなハルカは「どうだ!」と言わんばかりに胸を張って言った。
「リア……、知ってたのか?」
「ええ、知ってたわ。男性は手作りサプライズ弁当が好きだと、以前読んだ本に書いてあったから黙っていたけど」
はた迷惑な事を……。
アルトは逃げ出したくなる衝動を抑え、どうすればこの状況を脱する事が出来るかを考えた。
以前のサンドイッチでは魂を刈り取られる所だった。
だから考える、死にたくはない。
そして……。
「アレクにお礼をしよう」
アルトは普段だったら絶対に有り得ない台詞を棒読みで吐き出し、有無を言わさずに弁当を取り上げ、走りだした。
「え?ちょっと!?」
ハルカとリアは呆然、アルトは生死の境、アレクはあっち側に旅立つ瞬間だった。
余談だが、この後アルトの財布が軽くなったのは言うまでもない。




