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君の『好き』が重すぎる  作者: トムさん


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第4話:テスト勉強と、運命の同点(シンクロ)

5月下旬。


私たち高校生にとって、避けては通れない試練がやってくる。


そう、「中間テスト」だ。



「うわあああ! 数学の範囲、ここも入るのかよ!?」


「終わった……俺のGWのツケがここで回ってきた……」


「誰か! 誰か英語のノート貸してくれぇぇ!」



朝のホームルーム前。


教室の掲示板に張り出された試験範囲のプリントを前に、クラスメイトたちの阿鼻叫喚が響き渡る。


まるでこの世の終わりのような騒ぎだ。



そんなパニック状態の教室の片隅で、私、如月日和は一人、冷静にプリントを見つめ、口元をニヤリと歪めていた。



(ふむふむ、物理の範囲は『力学』がメイン……なるほどね)



周りのみんなは赤点回避に必死だけど、私が見ているのは「点数」じゃない。


このテスト期間というイベントを、いかにして「颯太くんとのラブイベント」に変換するか。


その一点のみだ!



私はくるりと振り返り、斜め後ろの席で頬杖をついている颯太くんの机に、両手をポンとついた。


上目遣い、角度35度。瞳を潤ませて、小首を傾げる。


必殺・あざといポーズ!



「ねえ、颯太くん……。私、今回の物理、自信ないの……」



「……あ? そうか? お前、授業中は寝てないし大丈夫だろ」



「ううん、全然ダメ! 公式とか見ると頭が痛くなっちゃって……。 だからね? 颯太くん、教えてくれないかな? 一人じゃやる気出ないけど、颯太くんと一緒なら頑張れる気がするの……チラッ」



本当は一人でも勉強できるかもしれない。


でも、そんなことはどうでもいい。


重要なのは、「彼に頼る」ことで生まれるコミュニケーションと、あわよくば発生する「お部屋訪問フラグ」だ!



颯太くんは「うーん」と唸りながらも、私の捨て猫のような視線に負けて、頭をかいた。



「……しょうがねぇな。分かんないところだけだぞ」



「やったぁ! ありがとう颯太くん! 大好き!」



計画通り!


私の辞書に「勉強」の文字はない。


あるのは「合法的お部屋潜入」の文字だけだ!




放課後。


私は心臓の高鳴りを抑えながら、颯太くんの家の玄関をくぐり、そして――ついに、「聖域(颯太くんの部屋)」へと足を踏み入れた!



「適当に座ってて。茶持ってくるから」



「はーい! お構いなくー!」



颯太くんが部屋を出て行き、ドアがパタンと閉まる。


その瞬間。


私の動きは「乙女」から「スパイ」へと切り替わった。



「ふおおぉぉっ! ここが! 颯太くんの成分で満たされた空間……!」



私は部屋の中央で立ち尽くし、まずは大きく深呼吸をした。 スーッ、ハァーッ!



(……んんっ♡)



日当たりの良い部屋特有の、少し乾いた匂い。


古紙の混じったような、懐かしい匂い。


そして微かに香る、彼が使っている制汗スプレーのシトラス系の香り。


これらがブレンドされたこの空気は、私にとって最高級のアロマテラピーだ。


酸素濃度が濃い気がする!



「ああっ、幸せ……! 私、今、颯太くんのテリトリーの中にいるんだ……!」



ベッドのシーツのシワ、机の上に無造作に置かれた参考書、カーテンの隙間から差し込む光。


すべてが尊い。


すべてが愛おしい。



私はポケットからスマホを抜刀ドロー


制限時間は彼がお茶を入れて戻ってくるまでの数分間。


いざ、記録開始!



バシャシャシャシャッ!!



高速連写モードが火を噴く。



まずは本棚!


「ふむふむ、最近はミステリー小説にはまってるのね……メモメモ。この漫画、新刊出てるから今度話題に振ろう!」


カシャッ!



机の上の小物!


「あ、使いかけの消しゴム! 丸くなってる角が愛おしい!」


カシャッ!



私は忍者のような素早さで部屋中を撮影し、脳内でフォルダ分けを行う。



『颯太くんの部屋・全景』


『颯太くんの生活感プライスレス



「よし、記録完了!」



ガチャリ、とドアが開く音。


私は神速でスマホを隠し、ベッドの上に置いてあったクッションを胸に抱きしめ、潤んだ瞳で入り口を見た。



「お待たせ。……おい、何やってんだ?」



お盆にお茶とクッキーを乗せて戻ってきた颯太くん。


私はクッションに顔を埋め、モジモジしながら上目遣いで彼を見た。



「……あのね、颯太くん。 私と颯太くんの『初めて』が……この部屋で行われるんだね……♡」



「……ぶっ!!」



颯太くんはお茶をこぼしそうになりながら、顔を真っ赤にして叫んだ。



「しねーよ! 勉強しに来たんだろうが!! お前、言い方! 誤解を招く言い方やめろ!」



「えー? 『初めての勉強会』のことだよ? 颯太くんこそ何を想像したの?」



「うるせぇ! さっさとノート広げろ!」



「ちぇっ、残念」



照れ隠しで怒る颯太くん、いただきました。


この反応が見られただけで、今日のテストは満点だ。




部屋の中央にあるローテーブル。


私たちは並んで座り、ノートを広げた。



「えーと、この『運動方程式』なんだけどね……」



颯太くんがシャーペンを持ち、図を描きながら説明してくれる。


真面目な横顔。


長いまつ毛。


説明に合わせて動く唇。



(……尊い)



私は内容なんて一つも聞いていなかった。


物理法則? 知るか!


今ここで起きている「私と颯太くんが密着している」という事象こそが、宇宙の真理だ!



「……聞いてるか? 日和」



「えっ、うん! 聞いてる聞いてる! でも颯太くん、ちょっと遠いなー。よく見えないから、もうちょっとくっついていい?」



「いや、十分近いだろ。肩当たってるし」



「もっと! ゼロ距離じゃないと、知識が頭に入ってこないの!」



私はじりじりと距離を詰め、彼の腕に自分の腕をぴたりとくっつける。


体温が伝わってくる。


幸せすぎて脳が溶けそう。



「あ、そうだ颯太くん。今の説明、すごく分かりやすかったから、ボイスメモで録音してもいい?」


「ダメに決まってんだろ。恥ずかしい」


「えー、ケチー。寝る前のBGMにしたかったのに」


「やめろ、悪夢見るわ」



そんな軽口を叩き合いながらも、時間は過ぎていく。


最初は不純な動機だったけれど、真剣に机に向かう颯太くんの隣にいると、不思議と「私も頑張ろう」という気持ちになってくる。



(同じ時間を共有して、同じに目標に向かう……これも一つの愛の形だよね)



結局、私たちは夜遅くまで、肩を寄せ合ってテスト勉強に励んだ。




そして迎えた、テスト返却日。


5教科すべての答案が返され、私たちは教室で点数を見せ合うことになった。



「どうだった? 日和」


「んふふ、今回はね、颯太くんの愛のおかげで自信あるよ!」



せーの、で答案用紙の合計点を発表する。



「俺は……合計428点」


「私は……428点!!」



教室に、一瞬の静寂が流れた。


通りがかった友人が「えっ?」と足を止め、後ろの席の子が思わず身を乗り出して答案を覗き込む。



数学、国語、英語、理科、社会。


それぞれの点数は微妙に違う。


けれど、5教科の合計点は、一の位まで完全に一致していた。



「……え、マジで? すごい偶然だな」



颯太くんが驚いたように呟く。


でも、私は首を横に振った。



「違うよ、颯太くん」



「え?」



「これは偶然なんかじゃない……私たち自身の意思すら超えた、逃れられない宿命サダメなんだよっ!!」



私の心の中で、運命の鐘がガンガンと鳴り響く。


確率にすれば天文学的な数字。


それが、私たち二人の間に起きた。


これはもう、前世からの赤い糸が鎖のように絡み合っている証拠だ!



「やっぱり私たちは一心同体なんだね! 思考回路が完全にシンクロしてるんだよ!」



感極まった私は、理性をかなぐり捨てて彼に飛びついた。



「わーーっ! 颯太くん大好きーーっ!!」



「うおっ!? ちょ、教室! おま……!」



ドガァッ!!



私が全体重をかけて抱きついた衝撃で、颯太くんのバランスが崩れる。


机の上の筆箱が落ち、消しゴムがコロコロと床を転がっていく。


後ろの席の机に、颯太くんの背中が激しくぶつかり、ガタガタガタッ! と大きな音が教室中に響き渡った。



「な、なんだ!?」


「うわ、また如月さんが暴走してる……」


「テスト返却直後になんであんなに幸せそうなの……?」


「先生、見て見ぬふりしてるぞ……」



クラスメイトたちが一斉にこちらを振り返り、呆れと生温かい視線を送ってくる。


でも、そんなの今の私には届かない。



「離れろって! 苦しい! 机ひっくり返る!」


「離さないもん! テストの結果より、颯太くんの方が100倍大事だもん!」



真っ赤な顔で私を引き剥がそうとする颯太くん。


その体温と重みを全身で感じながら、私は確信する。



今回のテスト、私の判定は……文句なしの満点ハッピーエンドだ!

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