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君の『好き』が重すぎる  作者: トムさん


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3/10

第3話:GWは二人で山登り(という名のデート)!

ゴールデンウィーク。


黄金週間。


なんて素晴らしい響きだろう。


カレンダーの赤い数字が連続するこの期間は、私、如月日和にとって、颯太くんとの時間を無制限に確保できる「黄金のボーナスタイム」と同義だ。



5月初旬の朝。


空は雲ひとつない快晴! 私は鏡の前で、最終チェックを行っていた。



今日のテーマは『山ガール風、だけど清楚な可愛さは忘れないよコーデ』。


動きやすいキュロットスカートは、春らしいパステルブルー。


トップスは白のブラウスに、薄手のマウンテンパーカーを羽織る。


そして足元は、機能性重視のトレッキングシューズ。


普段の制服姿とは違う「アクティブな私」に、颯太くんはドキッとしてくれるだろうか?



「うん、完璧! 今日の私は、新緑よりも眩しいはず!」



リュックには、昨夜から仕込んだ「特製お弁当」と、予備のタオル、救急セット、遭難した時用の非常食(ナッツ類)、そして溢れんばかりの愛を詰め込んだ。


準備万端。


いざ、愛しの彼のもとへ出陣!




「おはよおおぉぉぉっ!! 颯太くーん!!」



ピンポーン! ピンポーン! 颯太くんの家のインターホンを連打する。


休日の朝8時。


常識的に考えれば迷惑かもしれないけれど、恋人(予定)のモーニングコールなら許される特権だよね!



ガチャリ、とドアが開く。


そこには、寝癖を芸術的に爆発させ、眠そうに目をこする颯太くんが立っていた。



「……ふわぁ……おはよ、日和。……朝早くから元気だな……」



Tシャツにスウェット姿。


無防備なその姿を見た瞬間、私はポケットからスマホを神速で抜刀ドローした。



「ストップ! そのまま動かないで!」



「は? なに……?」



カシャッ!



「よし、保存っと!」



画面を確認する。


寝起きでポカンとしている颯太くんと、その横で満面の笑みでピースする私。


朝日差し込む玄関でのツーショット。


タイトルをつけるなら『無防備な王子様と、朝からハイテンションな私』かな!



「……勝手に撮るなよ。顔洗ってねえし」



「いいの! その『ありのまま』が尊いの! さあ、着替えて! 天気がいいから光合成デートに行こう! 山が私達を呼んでいるよ!」



私は文句を言う彼の背中をグイグイと押し、強引に「地獄ハイキング」への扉を開けさせた。




私たちが向かったのは、星見台市の北側に位置する「展望台へのハイキングコース」。


地元では「恋人の聖地」なんて呼ばれているけれど、その実態は、急勾配の坂道と無限に続く階段が待ち受ける、心臓破りの難所だ。



木々の間から木漏れ日が降り注ぎ、新緑が鮮やかに輝いている。


土と草の混じった、湿り気のある春の匂い。


小鳥のさえずりがBGMのように響く中、私はスキップするような足取りで山道を登っていた。



時折、立ち止まってはスマホを構える。



「あ、このお花綺麗! 颯太くん、そこに立って!」


「えー……」


「はいチーズ! カシャッ! うん、お花より颯太くんの方が可憐だね!」



タッタッタッ、と軽やかに階段を駆け上がる。


重力? 何それ? 今日の私には適用されてないみたい。


振り返ると、5メートルほど後ろを、颯太くんがゾンビのような足取りで歩いていた。



「はぁ……はぁ……、まっ、待てよ……日和……」



「あれ? 颯太くん、もう疲れちゃった?」



「お前が……速すぎるんだよ……! ここ、結構な勾配だぞ……?」



颯太くんの額からは、玉のような汗が流れ落ちている。


肩で息をして、Tシャツの背中が汗で張り付いている。



(……キャッ♡)



苦しそうなのは可哀想だけど、それ以上に「汗だくで頑張る男の子」って、どうしてこんなにセクシーなんだろう!


首筋を伝う汗の一滴一滴が、まるでダイヤモンドの輝き。



カシャッ!



「……今、何を撮った?」


「頑張る男の背中! セクシーだよ颯太くん!」



「くそっ……お前、なんで汗ひとつかいてねえんだよ……サイボーグか……」



颯太くんが膝に手をついて立ち止まった。


足が限界らしい。


彼の背負っているリュックが、鉛のように重く見えた。



私は数段上の階段から、ピョン! と彼の目の前に飛び降りる。



「颯太くん、そのリュック貸して!」



「は? いや、悪いよ。日和も荷物あるのに……」



「いいからいいから! 私に任せて!」



遠慮する彼から、半ば強引にリュックを奪い取る。


ずしり、と重い。


水筒や着替えが入っているから、5キロはあるかな?


私のリュックと合わせれば10キロ近い重量だ。



普通ならよろめく重さ。


でも、私はそれを軽々と片手で持ち上げ、自分のリュックの上に重ねるようにして背負うのではなく――前に抱える「ダブル亀さんスタイル」で装備した。



「よしっ! 装備完了!」



「おいっ! お前、そんなの持って歩けねーだろ!?」



颯太くんが慌てるけれど、私はニカッと笑って、その場で軽くジャンプしてみせた。



「全然平気! だってこれ、颯太くんの荷物でしょ?」



「……は?」



「ただの荷物なら重いけど、これは『颯太くんの一部』だもん。 つまり、愛の重さと同じ! むしろ翼が生えたように軽いよっ!」



意味不明な理論を展開し、私は再びタッタッタッ! と階段を駆け上がる。



「ちょ、おま……待てって! 落ちるぞ!?」



後ろから聞こえる彼の心配する声(愛の言葉)を背に受けて、私は加速する。


重荷を背負うほど燃え上がる、それが私の恋のスタイル!




「とーちゃーくっ!!」



頂上の展望台。


視界が一気に開け、眼下には星見台市の街並みと、キラキラと光る青い海が広がっていた。


吹き抜ける風が、火照った体(颯太くんだけ)を優しく冷やしてくれる。



「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」



ベンチへ向かおうとする颯太くんの腕を、私はガシッと掴んだ。



「待って颯太くん! 記念撮影しなきゃ!」



ちょうど近くに、休憩中の優しそうな老夫婦がいた。


チャンス! 私は満面の笑みで駆け寄る。



「すみませーん! 写真撮ってもらってもいいですか?」


「おや、いいですよ。はい、並んで」



おじいさんが私のスマホを受け取ってくれる。


私は颯太くんの横に戻ると、ここぞとばかりに彼の腕に自分の腕を絡ませ、さらに頭を彼の肩に預けた。



「ちょ、日和、近いって……!」


「いいじゃん記念なんだから! ほら笑って! チーズ!」



カシャッ!



スマホを受け取り、画面を確認する。


青い海と空を背景に、少し困った顔で赤面する颯太くんと、幸せオーラ全開で彼にくっつく私。


完璧だ。


額縁に入れて飾りたいレベルの名画が誕生した。



「仲が良いねぇ。お似合いのカップルだ」


「青春だねぇ」



老夫婦の言葉に、颯太くんは「いや、その……」と口ごもりながら、耳まで真っ赤にしている。



私は涼しい顔でレジャーシートを広げ、リュックからお弁当箱を取り出した。



「お疲れ様、颯太くん! さあ、ランチタイムだよ!」



パカッ、と蓋を開ける。


彩り豊かな「萌え断」サンドイッチ。


ポテトサラダ&ハム、照り焼きチキン&レタス、そしてデザート代わりのフルーツサンド。


パンの耳はミリ単位で正確にカットし、具材の配置は黄金比で計算済みだ。



「……すげぇ。これ全部作ったのか?」



「もちろん! 颯太くんの体を作る栄養素だからね、手は抜かないよ!」



私は一番具沢山なサンドイッチを手に取り、彼の口元へ差し出した。



「はい、あーん♡」



「……自分で食えるって」



「ダメ! 私の手からエネルギーを直接注入しないと、疲労回復しないよ? ほら、あーーん!」



周囲の登山客(老夫婦や家族連れ)が微笑ましそうに見ている中、颯太くんは再び耳まで真っ赤にして、観念したように口を開けた。



「……あむ」



「おいしい?」



「……ん。美味い。マジで美味い」



「やったぁーっ!!」



モグモグと頬張る彼を見て、私は天にも昇る気持ちになる。


私が作ったものが、彼の体内に取り込まれ、彼の血となり肉となる。


なんて神聖な儀式なんだろう。



「日和は食わねーの?」



彼が不思議そうに聞いてくる。


私は自分の分には手を付けず、頬杖をついて彼を見つめていた。



「ん? 私はいいの」



「は? なんで? 腹減るだろ」



「ううん。私はね、颯太くんが美味しそうに食べてる顔を見てるだけで、胸がいっぱいでお腹もいっぱいになるの。 咀嚼回数が右側で15回、左側で12回……喉仏が動くタイミングも最高……♡」



「……お前、なんか怖いこと呟いてないか?」



「気のせいだよ! さあ、次はフルーツサンドね! 口開けて!」



私の愛情カロリー注入は、彼が満腹で白旗を上げるまで続いた。


彼がモグモグする動画をこっそり1分間ほど撮影して、私のデータフォルダは着実に潤っていった。



帰る頃には、空は茜色に染まっていた。


オレンジ色の夕日が、二人の影を長く伸ばしている。


下り道とはいえ、階段の衝撃は足に来る。


颯太くんの足取りは、行きよりもさらに重くなっていた。



「……足、ガクガクする……」



「大丈夫? おんぶしようか? 今ならお姫様抱っこでも行けるよ?」



「……謹んで辞退させていただきます」



手すりに捕まりながらヨボヨボと歩く彼。


その横顔が、夕日に照らされてオレンジ色に輝いている。


疲労感と哀愁が漂っているけれど、それがまた堪らない!



私はすかさずスマホを取り出す。



「あっ、見て颯太くん! 夕焼けが綺麗!」



「……ああ、そうだな……」



彼が海の方を向いた隙に、私はレンズを彼に向ける。


夕焼けを見るフリをして、「夕焼けを見ている颯太くんの横顔」をパシャリ。



「……今、俺のこと撮っただろ」



「え? 撮ってないよ? 風景の一部だよ?」



嘘ではない。


彼こそが私にとっての最高の絶景だから!



「ねえねえ颯太くん! 明日はどこ行く? GWはあと3日もあるよ! 隣町の水族館に行こうか? それとも、海沿いをサイクリング?」



私が提案すると、颯太くんは死んだ魚のような目で私を見て、深々と頭を下げた。



「頼む……明日は、休ませてくれ……」



「えっ? もう?」



「俺のライフはもうゼロだ……。これ以上動いたら、筋肉痛で起き上がれなくなる……」



本当に限界そうな彼の顔。


そっか、残念。


私はまだ、フルマラソン一回分くらいの体力は残っているんだけどな。



(人間って、不思議だなあ)



同じ距離を歩いて、同じ空気を吸ったのに。


どうやら、彼と私とでは、搭載しているエンジンの種類が違うらしい。



私は少しだけ背伸びをして、彼の汗ばんだ髪を優しく撫でた。



「そっかそっか。ごめんね、連れ回しちゃって。 じゃあ明日は、颯太くんのお家で『おうちデート(看病)』に変更しよっか!」



「……お手柔らかに頼む……」



安堵の息を漏らす彼。


私はスマホを操作し、さっき展望台で撮ったツーショット写真を表示させる。


設定メニューを開き、『壁紙に設定』をタップ。



「よしっ! 待ち受け変更完了!」



画面を颯太くんに見せつける。


彼と私が寄り添う写真が、私のスマホの顔になった。



「うわ、マジで設定したのかよ……恥ずかしいからやめろって」



「やーだね! これで24時間、スマホを開くたびにデート気分だよ!」



「……勝手にしろよ」



ぶっきらぼうに言いながらも、彼が少し嬉しそうなのを私は見逃さない。



【重要データ】 颯太くんの回復リソースは有限。 連続稼働には十分な充電期間イチャイチャが必要。



「よし、お家まで私が荷物も颯太くんも運んであげるね!」


「だからおんぶはいいって!!」



夕焼けに響く二人の声。


私のゴールデンウィークは、まだまだ終わらない!

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