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君の『好き』が重すぎる  作者: トムさん


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2/16

第2話:体力測定と、私の愛の最高速度

4月中旬。


桜の花びらが舞い散り、新緑が顔を出し始めたこの季節。


世間の高校生にとっては、憂鬱なイベントの一つかもしれない。


けれど、私、如月日和にとっては違う。



今日は年に一度の「体力測定」。


つまり、私の身体スペックが、颯太くんを守るナイトとして相応しいかどうかの「公式証明会」であり、ジャージ姿の颯太くんを合法的にガン見できる「大感謝祭」なのだ!



「はぁ……憂鬱。なんで春なのに走らなきゃいけないの……」


「日和ちゃん、着替え終わった?」



女子更衣室。


クラスメイトたちのアンニュイな溜め息が充満する中、私は一人、鼻歌交じりにジャージのファスナーを上げていた。



「うん! バッチリだよ!」



振り返った私を見て、近くにいた女子たちが一瞬、動きを止める。



「……ねえ、如月さんってさ。なんでそんなに肌白いの?」


「血管透けそうっていうか、毛穴どこ? ファンデ塗ってる?」



友人の一人が、私の腕をまじまじと見つめてくる。


ふふん、甘いね。


ファンデーション? そんな不純物は必要ない。


私のこの陶器のような白肌は、すべて「颯太くんに触れられた時に、最高の肌触りを提供するため」だけに調整された、天然由来のコーティングなのだから!



「特に何もしてないよ? 強いて言えば、毎日ハッピーに生きてるからかな!」


「出た、美少女の『何もしてない』発言……」


「人生の徳が違うわ……」



あきれ顔の友人たちと連れ立って、グラウンドへ向かう。


校舎を出て、春の風がふわりと頬を撫でた瞬間、私の高性能レーダーが反応した。



「あ」



砂煙舞うグラウンド。


男子生徒の群れ。


その中に、ジャージの袖を少し捲り上げている「彼」を見つけた。


白い手首の骨の出っ張り具合、少し眠そうな立ち姿。


間違いなく、鳴海颯太くんだ。



「……あーあ、見つけちゃった」


「如月さんの目が『乙女』通り越して『ハンター』になってる」


「はいはい、行っておいで。ヨダレ拭いてね」



友人たちは慣れたもので、生温かい視線で私の背中を押してくれる。


ありがとう友よ! 君たちの優しさは忘れない!



「颯太くぅーんっ!!(心の声)」



私はスキップに近い足取りで、颯太くんがいる男子の測定エリア近くへとポジショニングした。




「次、男子50メートル走ー」



先生の合図で、颯太くんがスタートラインに立つ。


私の心臓の回転数が跳ね上がる。



位置について、ヨーイ……パンッ!



乾いたピストル音が青空に響く。


颯太くんが走り出す。


前髪が風になびき、少し必死な表情で腕を振る。


ああ、なんてこと! その姿はまるでギリシャ神話の英雄! 周りは「あいつ意外と速いな」程度に見ているようだけど、私の目には風の精霊シルフを従えたスピードスターにしか見えない。



「7秒3!」



記録係の声。


颯太くんは「うわ、去年より落ちたわー」なんて言いながら、ゴール地点で膝に手をついている。


7秒3。


なんて素敵な数字。ラッキーセブンと、私の誕生月である3月を含んでいるわ!(こじつけ)



「次、女子ー。如月、レーン入って」



来た。


私の番だ。


スタートラインに立つ。


50メートル先、ゴール地点付近には、まだ息を整えている颯太くんがいる。



(ゴールに……颯太くんがいる)



その事実だけで、私の脳内麻薬エンドルフィンがドバドバと分泌される。


これは単なる徒競走じゃない。


彼のもとへ帰還するための『愛のダッシュ』だ。


狙うは、さっき彼が叩き出した「7秒3」。


同じタイムを出して、運命の赤い糸を証明してみせる!



「位置について――」



スゥッ、と息を吸い込む。


世界から音が消える。


見えるのは、ゴールの先にいる颯太くんだけ。



「――ドンッ!」



弾ける音と共に、私は地面を爆発させた。



ギュンッ!!



一歩目でトップスピードに乗る。


風? そんなもの、私が置き去りにしてやる。


景色が線になって後ろへ流れていく。


隣のレーンの女子たちが、スローモーションのように視界の端へ消えた。



(待ってて颯太くん! 今、同じ世界に行くからっ!!)



40メートル、30メートル……。 近づいてくる颯太くんが、驚いた顔でこちらを見ているのがわかる。


ああ、もっと速く。


でも速すぎてもダメ。


彼と同じ時間を刻むの!



「ゴールッ!」



風を巻き起こして駆け抜ける。


先生がストップウォッチを押した音が聞こえた気がした。



「……7秒3!? 女子で!?」



先生の声が裏返る。


やった! ビンゴ! 運命の一致! 歓喜に震える私。


でも――勢いがつきすぎて、止まれない! いや、止まる気がない!?



目の前には、呆然と立っている颯太くん。


ブレーキ? 残念ながら故障中です!



「颯太くんっ、受け止めてぇぇぇっ!!」



「は!? うわ、ちょ、おま……っ!!」



ドガァァァンッ!!



漫画のような効果音と共に、私は颯太くんに真正面からダイレクト・タックルを決めた。


当然、彼が耐えきれるはずもなく。


私たちはもつれ合いながら、芝生の上をコロコロと転がる。



天と地が数回入れ替わり、止まった時には、私が彼の上に馬乗りになるような形になっていた。



「いっ……てぇ……」



背中を打った颯太くんが呻く。


私は彼の胸の上で、満面の笑みを浮かべた。



「やったぁ! 聞こえた!? 7秒3だよ!? 颯太くんと全く同じタイム! これって運命だよね!?」



颯太くんは苦悶の表情を浮かべつつ、至近距離にある私の顔を見て、はあ……と深い溜め息をついた。



「……運命とかどうでもいいから、どけ。 つーか、またかよ……重いっつーの」



「んふふ♡ 颯太くんへの想いの重さだね!」



「物理だよ! あと骨が軋んだ音したぞ今!」



周囲の「あーあ、またやってるよ」という呆れた視線すら、今の私には祝福のフラワーシャワーにしか見えなかった。



***



場所を体育館に移しての、反復横跳び。


ここでも、私の「颯太くんパワー」は健在だ。



「はじめ!」



合図と同時に、私はサイドステップを踏む。


キュッ、キュッ、キュッ! 最初はリズムよく。


でも、視界の端で颯太くんがこちらを見ているのに気づいた瞬間、スイッチが入ってしまった。



(見てる! 颯太くんが見てる!)


(もっとキレのある動きを! カッコイイところを見せなきゃ!)



ダダダダダダダッ!



「……えっ?」



測定してくれている女子生徒の声が漏れる。


私の動きが、人間の反射神経の限界を超え始めた。


床を蹴る音が「キュッ」という可愛らしい音から、「ギュンッギュンッ」というタイヤが悲鳴を上げるような音に変わる。



右へ跳んだと思ったら、もう左。 中央に戻った瞬間には、もう次の動作に移っている。



「ちょ、ちょっと待って! 速すぎて数えられない!」


「1、2、3……いや、今5回くらい行ってない!?」


「待って目が回る!」



測定係の子が、カウンターを持つ手を震わせながらパニックになっている。


ごめんね、でも止まれないの!


颯太くんの視線がある限り、私のエンジンはレッドゾーンを振り切って回り続ける!



「やめーっ!!」



笛の音が鳴り響き、私はピタリと中央のラインで静止した。


髪の毛一本乱れていない。



「ふぅ……どうかな? 今のステップ、キレてた?」



「……測定不能です。とりあえず満点でいい?」



記録係の子は、白目をむきそうな顔でそう言った。


遠くで見ていた颯太くんが、口をポカンと開けているのが見えた。


よし、私の凄さ(愛)、伝わったかな!




そして、地獄の持久走。


グラウンドを何周もするこの種目は、大抵の生徒にとって処刑宣告に近い。



数周もすれば、周りはゾンビの群れと化していた。



「無理……死ぬ……」


「喉乾いた……」



あちこちで悲鳴が上がり、足取りが重くなっていく。



そんな中、私は一人、空を飛ぶような軽やかさで走っていた。


呼吸? 乱れるわけがない。


むしろ走れば走るほど、体内のエネルギーが循環して元気が湧いてくる。



前方に、少し背中の丸まった見慣れたフォームを見つけた。


颯太くんだ。


肩で息をして、辛そうに走っている。



(チャンス!)



私はペースを上げ、ススッと音もなく彼の横に並んだ。



「颯太くん、やっほー!」



「……っ!? びっくりした……お前、いつの間に……」



颯太くんが驚いて横を見る。


汗だくで、前髪が額に張り付いている。


頬が赤くなっていて、苦しそうな息遣い。



「はぁ、はぁ、はぁ……」



(……なにこれ、セクシーすぎる……!)



苦しむ彼には申し訳ないけれど、至近距離で聞く彼の荒い呼吸音は、私にとって極上のASMRだった。


私は彼の走るペースに合わせて、並走を始める。 まるでデート中の散歩のように、優雅に、涼しい顔で。



「颯太くん、頑張れー♡ あ、今の汗が落ちる角度、すごくカッコよかったよ! 喉乾いてない? 終わったらスポドリ奢ろうか? それとも膝枕?」



横からマシンガンのように話しかける私に、颯太くんは走りながら信じられないものを見る目を向けた。



「はぁ……はぁ……お前……なんなの……? 俺と同じ距離走ってるんだよな……? なんで息一つ切れてないんだよ……」



「え? 全然平気だよ?」



私は額に浮かんだ、宝石のように綺麗な汗(自称)を指先で拭って見せた。



「なんでって……そりゃあ」



普通の人間なら、ここで「元陸上部だから」とか「体力には自信があって」と言うだろう。


でも、私の原動力はもっと高次元なエネルギーだ。



私は走りながら、彼に向かってとびきりの笑顔でウインクを飛ばした。



「だてに毎日、24時間365日、颯太くんのことを考えてないからね! 恋する乙女は、いつだって無敵なんだよっ!」



「……意味わかんねえよ……はぁ……」



颯太くんは呆れたように笑い、それでも少しだけペースを上げて走り続けた。


その横顔を見つめながら、私は確信する。



ああ、やっぱり私の愛は、誰よりも速くて、誰よりも重い。


そしてこの先もずっと、彼と一緒に走り続けるんだ。



私の春は、まだまだ加速していく!

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