7話〜なっ!何よこれぇえ!〜
ファミリアの怪我を治すのに、魔石を使う方法もあるって、中等部の授業で先生が言っていた気がする。
その方法が、魔石をファミリアに押し当てるんだったか、魔道具の様に魔石に術式を書かないといけないんだったか忘れたけれど、先ずは色々とやってみないと。
この子は私を守る為に、戦ってくれたんだから。
「あれ?やっぱり、この方法じゃダメなのかな?」
魔石をオークの手に押し付けてみたけれど、魔石に変化は無し。彼の手も治らない。
「術式かしら?でも私、治癒の術式なんて習ったことないし。他の術式もうろ覚え…」
ああ。こんな事なら、もっと中等部の勉強をしていれば良かった。こうなる事が分かっていたから、先生達は私に、あんなにも多くの課題を出したんだわ。
今更になって彼らの意図に気付いたけれど、どうしようもない。
曖昧だけれど、やれるだけの事をやってみよう。
私はリュックから削り針を取り出す。そして、それで魔石に傷を…。
【ブーブブ】
付ける前に、オークの大きな手がそれを止めた。
「ちょっと!貴方の怪我を治す為なんだから」
【ブーブ。ブーブブ】
オークは頑なに首を振り、手の甲をバンバン叩く。
痛くないって?そんな訳ないじゃない。もしかして、私がお金になるって喜んでいたから、気を使っているの?そんなの…まぁ、確かに多少のお金にはなると思う。魔道具って、物によってはかなり大量の魔石を消費するから、魔石の需要はかなり高い。特に、この魔石は炎属性みたいだから引く手数多。きっとそれなりの値段に…。
はっ!いけない。私ったら何を考えているの?私のせいで負った怪我なんだから、私がしっかりと治してあげないとダメよ。
「これ程度の魔石じゃ、金貨1枚(100万円)にもならないわよ。そんな事を気にするより、早く怪我を治して、お宝探しに復帰する事を考えてちょうだい」
【ブゥ…】
オークは渋々といった感じで手を退ける。
そして、徐に立ち上がり、地面に落ちていた薄い魔石を拾った。それを、口の中にポイポイって放り投げる。
そして咀嚼する。
カリ、コリ…ゴクンっ。
モグモグして飲み込んじゃった。
私が目を丸くしていると、オークが手の甲をこちらに見せ付ける。火ぶくれだらけだったその手は、見る見る内に治っていった。
ええっ…。そんな方法でいいの?
呆気に取られていると、オークが残りの魔石を拾って、私に手渡してくれた。
1つ、2つ、3つ…。結局オークが食べたのは、普通ゴブリンの魔石3つだけだった。
あの大怪我が、たった3つで治るものなの?召喚の魔力も殆ど要らなかったし、貴方って燃費が良すぎない?
感心しながら魔石を受け取って、それをリュックの中にしっかりと仕舞う。
また怪我したら、これで治さなきゃ。無くしちゃだめよ。
【ブフフー?】
オークが首を傾げながら、何かを摘まみ上げる。
薄緑の…えっ、なにそれ?もしかして、ゴブリンの一部?
「いっ、要らないわ」
【ブフ、ブフ】
咄嗟に否定したら、オークはうんうんと頷きながらゴブリンのパーツを取り下げて、地面に埋める。
ゴブリンのお墓を作ってあげてるの?貴方って、とっても優しい子なのね。
私はオークちゃんのお墓づくりを見守って、彼が立ち上がると森の奥を指さす。
「さっ!お宝探しを再開するわよ!ブーちゃん」
【ブフ?】
「そう、貴方の名前よ。ぶーぶー言っているからブーちゃん。ダメかしら?」
【ブッハハー!】
オークちゃん…ブーちゃんは両腕で力こぶを作って喜んでくれた。
良かった。気に入ってくれたみたいね。
「さぁ、行きましょう!ブーちゃん」
【ブッハー!】
それからも、私達は探索を続けた。
偶にゴブリンが襲撃してきたけど、数も2、3匹だし、普通のゴブリンばかりだった。だから、ブーちゃんの敵ではなかった。軽くパンチしただけで、みんな消えて魔石を落としてくれる。無残なパーツはブーちゃんがこっそりと埋葬していた。
「ゴブリンはこんなに見つかるのに、お宝は一つも見つからないわね」
【ブー】
結構深くまで森の中に入っているけれど、それらしき物は全く見つからない。もっと深層部分にあるのか、全く見当違いの所に来ちゃっているのか。
「そもそも、お宝はもう取られちゃってるって可能性もあるよね」
【ブ~ブブゥ】
ブーちゃんも弱弱しく頷く。
彼も、そんな気がしているみたい。
どうしよう。私もお腹が減ってきたし、そろそろ帰ろうかしら。別の本も探してみて、もっと場所を特定してから来た方がいい気がする。
うん。よしっ!
「帰りましょう。ブーちゃん」
【ブハッ!】
私が一声かけると、ブーちゃんは回れ右をして、元来た道を戻りだした…んだと思う。
そう言えば、道順とか全然覚えていなかったんだけど…帰れるのかしら?私達。
私は怖くなって、ブーちゃんの背中に縋り付く。
大丈夫よね?ブーちゃん。貴方は鼻も聞くから、きっと帰り着けるよね?
そんな私の不安は、的中した。
いや、森を抜けるのは簡単だった。どうやったか分からないけど、ブーちゃんは迷わず最短ルートで森を抜けてくれた。
問題は、そこからだった。
「なっ!何よこれぇえ!」
馬車の乗合所。そこの看板には、こんな札が立っていた。
〈本日の便、終了〉
そんな無慈悲な赤札だけが取り残されており、周囲に人影は全くなかった。
私はリュックを開けて、中から懐中時計を取り出す。
馬車の最終便までには、まだ少し時間がある。なのに、もう終わりにするなんて早すぎる。
確かに、利用者は私くらいしかいなかったし、森では誰にも遭遇しなかった。だからって…営業時間を早めるなんてどうかしているわ!
「ブーちゃん!どうしよう!?」
堪らず、私はブーちゃんを再召喚して、愚痴をぶちまける。
ブーちゃんは札を見ても首を傾げていた。
ああ、そうよね。文字が読める筈ないものね。
ブーちゃんが魔物なのをすっかり忘れていた私は、ゆっくりと札に書かれている文字を読んであげた。すると、彼も状況が呑み込めたのか、【ブフゥ…】とため息混じりに首を振った。
そう。そうなのよブーちゃん。困った事になったわ。こんな所に宿なんてある訳ないし、街まで徒歩だとかなりかかる。今からだと、夜遅くになってしまうから、街の門が閉じている可能性も高い。
…野宿?でも、道具も無いし、ご飯だってビスケットが少ししかない。明日までそれで過ごすなんて…無理よ!お腹が減っちゃう!
どうしようって、私の頭はグルグル混乱する。ああしてれば良かったとか、馭者め許せないわ!とか、そんな事ばかりが浮かんでくる。
どうしたら良いのかって、前向きな考えが全然できない。
そんな時、
【ブー】
ブーちゃんが動き出した。
来た道を指さし、向こうに見えるハイドの森を指し示す。
ええっ?
「森で、一晩を過ごすの?」
【ブゥ〜…ブゥ…】
ブーちゃんが微妙な頷きをする。
この反応は、森の中でもしていた奴だ。当たってないけど、まぁ近いって感じかな?
兎に角、今はブーちゃんの言う通りにしてみよう。私じゃ、良い案も考えつかないし。
そうしてブーちゃんの背に付いていくと、彼は森から少し離れた所で私に「ちょっと待ってて」とでも言うようなジェスチャーをして、森の中に入っていった。
そしてすぐに、大量の枝と葉っぱを持って出てきた。
あっ、分かった!
「焚き火をするのね?」
【ブッハー!】
正解みたい。
確かに、焚き火は虫や小さな動物を寄せ付けなくするって、お父様が言われていた。暖も取れるから、便利な物だぞ~って。
ブーちゃんは着々と枝を組み始めて、その周囲に石を並べている。
お父様に見せて貰った薪の組み方と比べると、随分と大きいと言うか、なんか井戸の形に似ている。これは本当に焚き火で合っているのかしら?
【ブゥウウ!】
私が組み上がった薪を見ていると、ブーちゃんがまた何かしている。平たい薪を置いて、その上で一生懸命に枝を擦り付けている。
あっ、これ、火を付けようとしてるんだ。領民達が外でやってるのを見たことがある。
「いい物があるわよ、ブーちゃん」
【ブフ?】
私がリュックから指輪を取り出すと、ブーちゃんが不思議そうにそれを見つめる。
ふっふっふ。見てなさい。
「プチファイア!」
指輪に付いている加工魔石に魔力を流すと、そこから小さな火が吹き出す。
それを見て、ブーちゃんは【ブブゥ!】と手を叩いた。
やったかいがある良い反応ね。でもこれって、生活魔法に毛が生えた程度の物なのよ?魔道具も大銀貨3枚(30万円)程度の安物だし、貴方が殴って消したファイアーボールの方が何倍も凄い魔法なんだから。
私は魔道具の火でブーちゃんの組んだ薪に着火する。お父様が組んだ奴よりも着火し辛かったけど、着いたら一気に燃え上がった。
わぉ。なんだか火が高くて、とってもロマンチックね。
【ブゥ】
私が炎の色に見とれている横で、ブーちゃんは人間大の大きな葉を炎の熱に当てている。暫く当てると、それを地面に置き、また新しい葉を燻す。
やがて、葉っぱのクッションの様な物が出来上がり、ブーちゃんが感触を確かめている。
私も触ってみると、そこそこいい感じの柔らかさだった。
これは…。
「葉っぱのベッドね?」
【ブッハー】
正解みたい。
試しに寝転がってみると…ちょっと煙臭いけど、背中の感触は悪くないわ。
「ああ〜。疲れが一気にやってくるわ〜…」
私はベッドの上でグ〜って伸びをする。
こんなの、家でやったらメイド長に怒られてしまうわ。
野宿って、案外悪くないかも。
そんな風に、私は思い始めていた。
その時、
ガサッ。
森の方で、何かが草木を踏む音がした。
私は飛び起き、音のした方を見つめた。
そこから、何かが飛び出して来た。
それは…。
イノセスメモ:
・死体処理…怠ると、危険な魔物や伝染病を引き寄せる。埋葬するか焼却するべし。
・井桁型焚き火…薪を2本ずつ互い違いに組む方法。火は大きくしやすいが、直ぐに燃え尽きてしまう。




