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ブタ令嬢の試練~召喚魔術を失敗しただけなのに、私の学園生活が無茶苦茶ですわぁ!~  作者: イノセス


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68話~これがありますもの!~

 ドン・ボアを倒した私達は、意気揚々と村への帰路に着く。

 と言っても、足取りが軽いのは門番さんだけ。彼はドロップしたドン・ボアの牙を両肩に担いで、小さく小躍りして先を歩いていた。

 そんな門番さんを見下ろしながら、私はブーちゃんの肩で教科書を開き、必死になって勉強していた。さっきまでボアを倒せた高揚感に浸っていたけど、テストという現実を思い出してお尻に火がついているのだった。

 ボア退治に熱中し過ぎて、まだ1教科も終わっていないわ…。


「おーい!みんなぁ!」


 順調に勉強を進めていると、急に門番さんが声を上げて走り出す。

 村に近付いたのだ。彼は牙を両手で掲げて、外壁の復旧作業中だった青年隊の皆さんに駆け寄る。

 それを見て、青年隊の皆さんは慌てて集まる。


「どうしたんだ?何があったんだ?」

「こんな早く帰ってきて…やっぱ無理だったんじゃ…」

「いや待て。おっちゃんが持ってるそれって…もしかして?」


 まだ日も高い内に帰ってきた私達を訝しんでいた青年隊の面々だったが、門番さんが牙を見せびらかせて「魔術師様が全部やってくれたんだべ!」と大袈裟な発言を聞くと、諸手を上げて飛び跳ねた。

 

「おおっ!もう終わったんだ!」

「早すぎるでしょ?森に引っ込んでいて居なかっただけじゃ…」

「馬鹿お前、この牙を見てみろ。普通のボアと比べらんねぇぞ!」

「おっちゃん、これって…まさかあのでっけぇボアか?」

「そうだぞ!こいつはネイサンをやった、あの親玉のボアだ!山のように大きかったけんども、魔術師様の魔法とオークさんの拳でいちころよ!」

「「「おぉおおおお~…」」」


 ちょっと話を盛っている部分もあるけれど、それで皆さんが安心してくれるなら良いのかも。

 私は足元で喜ぶ男性達を見てそう思い、教科書に視線を戻す。

 

 ええっと…明かりの魔術式は、こうで、そうで、そうよね。うん、大丈夫。もう見ないでも書けそう。ファイアーボールもさっきやったし、魔術式学は充分。そうしたら次は、王国歴史学に取り掛かろうかしら?

 私が教科書をチェンジしていると、再び門番さんがドン・ボアの牙を大きく掲げる。

 すると、


「「「わぁああああああ!!」」」


 大歓声が湧き起こる。

 何事かと前を向くと、多くの村人達が集まって私達を出迎えていた。


「あの数を全部1人でやっちまったんだろ?なんて凄い人なんだ!」

「俺は分かってたぞ!あんた達ならやってくれるってな!」

「ああ!その屈強な従魔を見りゃ分かるぜ!あんなボア共なんてイチコロだってな!」


 村人達は既に、ボアの討伐が終わったことを知っているみたいだった。

 よく見ると、彼らの中には青年隊の姿もある。きっと、彼らが先回りして村人達に伝え回ったのだろう。


「もう村を捨てなきゃならねぇと思ってたのに、まさか1人と1匹でやっちまうなんて…」

「今までの冒険者達より…いや、勇者様一行よりもすげぇことしたぜ!大魔道士様!」

「本当にありがとう!魔術師様!これで冬を越せるわ!」


 村人達が羨望の眼差しで私達を見詰める。来たばかりの時は遠巻きにしか見てこなかった村人の姿は、今や1人もいない。私やブーちゃんに対する警戒心が無くなっていた。


「わぁ!すごくおっきぃ!」

「勇者様おっきい!」

「ちがうよ!まどーし様だよ!」


 子供達は相変わらず、無邪気な目で私達を見上げる。ブーちゃんの周りを駆けまわって、楽し気な笑い声を上げる。

 この笑顔を取り戻せただけで、今回の依頼は十分に達成できたと言えるわね。


「魔術師クロア様」


 元気な子供達に癒されていると、群がる村人達を掻き分けて、村長が私達の前に現れた。

 私も教科書を閉じて、ブーちゃんに降ろしてもらう。ボイドから他の素材を幾つか取り出して、それを示して説明する。


「ベン村長、ただいま戻りましたわ。このように、全部で31頭のレッドボアと、恐らく群れのリーダーかと思われる大きなレッドボアを1頭駆除致しました」

「さっ、さんじゅ…!?」


 村長さんは目を大きく開くと、後ろに倒れそうになった。それを、村人の1人が支える。

 村長は「ああ…」と、弱々しく声を漏らす。


「そんな数が押し寄せていたとは…この村だけじゃなく、近隣の村や街も危なかった」

「そうですわね。領主に巡回の強化を進言するべきだと思いますわ」


 倒したのはみんな、大人のレッドボアばかりだった。何処かに巣でもあったら大変だ。大きくなる前に、全部駆逐して貰わないと。

 そう思ってアドバイスしたけど、村長さんは弱々しく首を振る。


「今年は魔物が活発みたいで、領兵も出払っているみたいです。それもあって、こんな量のボアが押し寄せたのではと…」


 そうなんだ。

 そう言えば、ヨルダンさんも言っていたわ。コリなんてこの辺じゃ珍しいから、魔物の動きが活発化しているかもって。

 物騒な事よね。

 私もしんみり考えていると、村長さんが大きく手を叩く。


「何はともあれ、魔術師クロア様のお影で危機は去りました!今宵は宴としましょう!」

「「わぁあああ!」」

「「やったぁあ!」」


 村長さんの提案に、喜ぶ村人達。でも、一部は暗い顔をする。


「でも村長。そんな余裕ないぜ」

「そんだ、そんだ。ほとんどの畑さ潰れちまったから、宴会に出せるのなんて芋と野草くらいしかねぇど?」 

「むむ…」


 村長さんの顔も暗くなる。

 そこで、私は声と共にある物を掲げる。


「大丈夫ですわ!これがありますもの!」

「おおっ!それは…ボアのお肉!」


 そう。ボアがドロップしたのは毛皮や骨ばかりじゃない。引き締まったイノシシ肉も残していた。

 私がスっとお肉を渡そうとすると、村長さんは「ええっ!?」と受け取りを拒否する。

 なんで?


「この肉は、クロア様が勝ち得た品物です。ですから…」

「ですから、私がどのように扱ってもよろしいのでしょう?でしたら、皆さんで頂きましょう!その方が美味しく頂けますわ!」

「「「わぁあああああ!!!」」」


 今日一の歓声が上がる。

 それには村長さんも何も言えず、ただ私からお肉を受け取るのだった。

 そうそう。そうして貰わないと、私が困るのよ。ホーンラビットの肉でもお腹がはち切れそうだったのに、こんな大量のお肉なんて食べられませんわ!


 そんな思いで渡したお肉だったが、村人には大変好評だった。

 普段からお肉なんて食べられず、お祭りでしか食べた事ないと言う人ばかりだったからだ。

 加えて、ボア騒動もあったので、最近は普段よりも質素な食事で我慢していたのだとか。

 だから余計に、夜のボアパーティーは盛り上がった。


「うぉおおお!肉だ!本物の肉だ!」

「うめぇぇぇ!あめぇえ!なんて柔らかさだ!」

「肉汁だけでもうめぇぇぇ!塩が最高の塩梅だぜぇ!」

「お前、そりゃ自分の汗と涙だよ!もっと落ち着いて食べなよ!」

「うるせぇ!こんな美味いの、泣かずに食べられるかい!」


 なんと言うか、みんな凄い勢いでお肉に食らいついている。焼き上がったよと、ブーちゃんがグリルからお肉を下ろす前に、誰かの手がヒョイってブーちゃんの手からお肉を強奪していく。

 このままだと、生で食べようとする人がいるんじゃないかと私はヒヤヒヤしている。

 いいえ。ヒヤヒヤしているのはそれだけじゃない。


「ああ、こんな美味い飯が食えるのも全部、クロア様のお陰だぁ!」

「本当よ!クロア様、ありがとうございます!」

「クロア様ありがとう!アンタはこの村の救世主だ!」

「「「救世主クロア様バンザイ!」」」

「「「従者ブーチャンもバンザイ!」」」


 何故か、みんなが定期的に私を祭り上げて来るのだ。それも、息のあった掛け声と共に。

 まさか、皆さん酔っている訳じゃないよね?このお肉、そんなヤバい成分が入っていたりしないよね?


「ああ、クロア様。この度は本当にありがとうございましたぁ」


 挙句の果てに、村長さんが泣きながら地面に頭を擦り付ける。それを見た村人達もみんな、同じように私を崇拝し始めた。

 やめて!そんな事しないで!それは女神スノーラ様に捧げる行為よ!


【ブハハハ!】

「「ブタさん!ブタさん!」」


 向こうで子供達と遊ぶブーちゃんを見ながら、私は必死に村人達を立たせようと奔走(ほんそう)した。



「本当にありがとうございました、クロア様」


 次の日。

 私は村の入口で、何度目になるか分からないお礼を村長さんから頂いた。それに続いた村人達からも、数え切れないお礼と祈りを頂いちゃている。中には、貴重な食料まで渡そうとする人が居たから、それは流石に受け取りを辞退させて貰った。

 今から寒くなって来て、皆さんには滅茶苦茶にされた畑しか残されていないんだから、受け取るなんて出来ないわ。ボアの素材をいっぱい手に入れたから、それで十分よ。


「クロア様。これを」


 そして最後に、村長さんから1枚の羊皮紙と分厚い手紙を貰う。

 羊皮紙の方は、ギルドの依頼書だ。これに依頼者の完了署名が無いと、どれほど上手くこなした依頼も無効になっちゃう。だからこれは、しっかりとボイドの中にしまうのだけれども…。


「この手紙は?」

「こちらはギルドに向けた手紙です。今回の件で大変お世話になったので、そのお礼をしたためました」


 …お礼って、お金とかじゃないわよね?

 私は不安になって封筒をワサワサしてみた。けれど、中身はただ羊皮紙があるだけみたいだ。

 良かった。彼らが無理して身を切るような真似をしていなくて。


「分かりましたわ。しっかりと、ギルドに届けることをお約束しますわ」


 手紙もしっかりとボイドの中にしまい、私はみんなにお別れの挨拶をする。そして、ブーちゃんの肩に乗って教科書を開く。

 そんな私達の背中に。


「「「クロアさまぁ~!」」」

「「「ありがとう!クロアさまぁ~!」」」


 村人達はいつまでも、手を振り続けるのだった。

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― 新着の感想 ―
どっかしらの輩が、魔物の養殖でもしてるんでしょうかねぇ…魔王が復活してそうですし、魔族みてぇな奴らが暗躍してるとか…人間のふりして、傭兵団でも抱え込んだかねぇ?
本来なら順当に消化される様な討伐依頼が、冒険者の情報網によって危険で割に合わない実情に変化している 事を察知され塩漬けになった依頼も多いのかな?そこまでの状況だとそもそも領兵は勝っているのだろうか? …
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