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ブタ令嬢の試練~召喚魔術を失敗しただけなのに、私の学園生活が無茶苦茶ですわぁ!~  作者: イノセス


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61話〜…どうだろうな〜

 朝。

 久しぶりにゆっくり寝てしまった私は、慌てて飛び起きる。

 昨日は色々と考えてしまい、なかなか寝付けなかった。でも1番の原因は、今まで私を起こしていた要因が無くなったことだ。

 その要因とは、部屋に入り込む隙間風だったり、鳥達の声だったり。あるいは、ボロカーテンの隙間から差し込む木漏れ日だったり。


 それらは全部、昨日お爺さんの家具屋さんで購入した品々が解決してくれた。隙間は全部パテで埋めて、カーテンも新しい物に付け替えた。ついでに買った可愛らしい家具も、部屋の雰囲気を格段に明るくしてくれていた。

 今なら、ハンナさん達をこの部屋に招くことが出来るだろう。流石に、アンネマリー様は無理だけど。


「快適になったのは良いけれど、寝坊しないように気を付けないと」


 ブーちゃんに手伝ってもらいながら、私は考える。

 カーテンの一部を切り取る?それとも、鶏を飼うべき?いっその事、ノッカーアップ(朝に人を起こすアルバイト)を雇いたいけど…学園内じゃ厳しいわね。学友にやってもらうのも心苦しいし…。


【ブフー】

「あっと、ごめんなさい。もう行かないとね」


 ブーちゃんに促されて、私は朝食会場へと降りる。

 そこはいつも通りの戦場が繰り広げられており、私はブーちゃんに守られながら1人座るエリカさんの隣に着席した。


「おはよう!クロエ」

「おはようございます、エリカさん。ケントさんの姿が見えませんけど?」

「うん!ケントはもう登校してるよ!」


 早いわね。部活の朝練とかかしら?

 ケント君も何か部活に入ったのかしら?と考えていたら、ニコニコ顔のエリカさんが視界の端に入る。

 いつもの事だが、今日は一段と笑顔が輝いている気がする。


「何か良いことがございましたの?」

「あたし?う~ん…うん!ちょっとねぇ~」


 …何かしら?彼女が嬉しいのなら良い事の筈なんだけど、妙な胸騒ぎがするわ。



 そんな不安を覚えながらも、私達は授業に臨む。

 午前中はちょっと眠くなることもあったけど、いつも通り平和な時間が過ぎていった。

 相変わらず、私が答えるとクラス中から拍手を送られたり、「流石クロエ様」と言われてしまうのは問題だけど。

 どうにか出来ないかしら…。


 そして、午後からは選択授業となる。今日は2回目のダンス授業と言う事で、私はかなり不安を覚えながら簡易ドレスに着替える。

 ダンスホールの大扉を開くと、既に多くの生徒達が来ており、端で談笑しているか、中央のステージで練習をしていた。

 私も練習しなきゃ!って走り出しそうになったけど、直ぐにその足を止める。

 下手に目立つことをしたら、また何を言われるか分からない。ブタ令嬢が生意気にって、視線で串刺しにされるかも。ここにはABクラスの令嬢達が集まっているから、普段以上に気を付けないといけないわ。


「ごきげんよう、クロエ様」


 私が周囲に気を配っていると、令嬢の一団が近付いて来た。彼女達の胸元には、緑色のバッチが揺れている。

 Bクラス。サロメの息が掛かった人達だ。


「ご、ごきげん、よう…」


 突然の事で、私はしどろもどろになってしまった。

 何?この人達、なんで態々私なんかに話し掛けてきたの?

 警戒する私の前で、令嬢の1人が両手を握って私を見上げて来た。


「あの、クロエ様。宜しければ、今日のペアダンスで私達と組んで頂けませんか?もし、お相手が決まっていなければのお話なのですが…」


 ええっ?私とダンスを?そんな事したら、アンネマリー様に睨まれちゃうわよ?貴女達はBクラスなんだから、Cランクの私と付き合うべきではなくて?


 心配になり、私は振り返る。アンネマリー様の影を探して、周囲を見回す。

 すると、ご友人と談笑している彼女の姿を見つけた。

 以前お会いした時の様な、冷たい感じじゃない。入学してすぐの時にお会いした時の様な、穏やかな表情をされていた。

 そんな彼女が、チラリとこちらを向いた。

 私の周囲に群がる令嬢達を見て…なんのリアクションもせずに、またすぐに雑談に戻ってしまった。


 あれ?なんだか反応が薄い。殿下を相手にしていなけらば問題ないってこと?


「クロエ様?」

「あっ、えっと。じゃあ、お言葉に甘えて…」


 私の返答に喜ぶ令嬢達を見て、私は余計に頭が混乱する。

 一体、何が起きているの?



 結局、ダンスの授業は何事もなく終わった。

 Bクラスの子達は約束通りペアダンスで私と踊ったし、アンネマリー様なんて帰り際に「ごきげんよう、クロエさん」と挨拶までしてきた。

 ここ1ヶ月、私をブタ令嬢だと遠巻きにしていた彼女達に一体何が起きたのか、全く理解が追いつかなかった。

 

 でもそれも、夕食の席に戻るまでだった。


「バーガンディさん、お疲れ様!」

「お先に失礼致します、カミラ先輩」


 サモン部の活動が終わり、私は自主練で残る先輩達に挨拶をしてムーンガルド寮へと戻る。

 来月の大会に向けて、先輩達はとても燃え上がっていた。かなり遅くまで練習をする予定だから、自分達の事は気にせず帰ってとカミラ先輩は言ってくれた。

 課題もあるし、とても助かるわ。ムーンガルドは特に、帰りが遅くなると夕食が悲惨なことになるから。


 私は早足で寮へと戻り、夕食会場に赴く。すると、そこには頭を抱えるケント君の姿があった。

 今度は彼が1人だけ。随分と険しい顔だけど、エリカさんと喧嘩でもしたのかしら?


「こんばんは、ケントさん」

「ああ、クロエ様。…こんばんは」


 ケント君は疲れた挨拶をして、また考え込んだ。

 と思ったら、チラチラとこちらを見て、何か言いたそうに口を開く。でも、何も言わずに閉じてしまった。

 何よ?


「ケントさん。何か言いたいことがあるなら、言ってくださらない?」

「…いや、でも…」

「何か言い難いこと?エリカさんのことかしら?」

「…ええ。そうなんです」


 ケント君が重い口を開ける。


「あいつ、王子に直談判したみたいなんですよ」

「……えっ?」


 どういうこと?

 詳しく聞いてみると、こういう事らしい。

 金曜日の放課後に、エリカさんはAクラスまで出向いたそうだ。そこでロイ殿下を捕まえて「クロエが困っているから、彼女にばかり構うのはやめて、アンネマリーさんとかにも話しかけて」みたいなことを言ったらしい。


「なんでそんな無謀な…貴方が居ながら何故、彼女を止められなかったんです?」

「俺はその場に居なかったんだ。色んな人から話を聞いて、それを繋ぎ合わせてやっと分かった事なんだよ」


 ああ、だから貴方、今朝は早くから登校していたのね。


「ですが、ケントさん。今朝エリカさんにお会いしましたが、とても明るい様子でしたよ?」


 少なくとも、殿下に無礼を働いたと処罰された様には見えなかった。アンネマリー様達もご機嫌だったし、貴方の考え過ぎじゃないかしら?

 そう思って聞いたのだが、ケント君は大きく首を振った。


「公爵令嬢の機嫌が良いのは、王子が彼女に話し掛ける様になったからだ。王子はエリカに言われた事を、真面目に実行しているんだよ」

「えっ?」


 そんな。一平民のエリカさんの言葉を、殿下が鵜呑みにされたってこと?そんな事有り得るの?

 私は困惑した。

 

 これまでも、殿下に接触しようとする人は数多くいた。

 将来的に王様になるのは、お兄様のフィリップ皇太子と言われているけれど、殿下はその右腕になる可能性が高いから。もしかすると、殿下がお兄様を抜いて、王様になる可能性だってある。

 そう考えたのか、彼に言い寄って自分の有利な状況を作り出そうとする人が出てきていた。

 だから殿下は、自分に言い寄って来る人間には最大限の警戒をしているし、そういう人達の話は殆どスルーしていた。

 今までは。


「どうして殿下は、エリカさんの言葉をお受け取りになったのでしょう?」

「聞いた限りでは、エリカが王子に話しかけた時、王子は凄く興味を惹かれた様子だったらしい。エリカの訴えかけが友人の為のものだと分かり、凄く感動していたともな。側近のモントゴメリーの証言だから、かなり信憑性の高い情報だと思う」


 ああ、そう言う事か。

 私は納得する。

 エリカさんは裏表の無い子だから、純粋な心に殿下も耳を傾けてくれたんだ。殿下の周りにいらっしゃる人と違う彼女を、新鮮に思ったのかも。

 エリカさんが平民というのも、大きいのかもしれない。

 殿下はお優しいから、弱い者や苦労している人を放っておけない。平民の声だからと、お聞きになった可能性もある。


「はぁ…」


 ケント君が大きなため息を吐く。

 私はそれに、「大丈夫よ」とフォローする。


「エリカさんが殿下に話し掛けても、殿下の周りは気にした様子がなかったわ。状況が良い方向へ転がったから、エリカさんがイジメられたりはしないと思いますわ」

「…どうだろうな」


 ケント君が拳を握る。


「公爵令嬢は腹黒で、かなり嫉妬深い奴だ。自分の利益になったからって、なんのお咎め無しなんて考えられない。王子と接触したエリカを追い詰める為に、何か非道な事をするんじゃないかって、俺は思うんだよ」

「あのねぇ、ケントさん。それは考え過ぎよ」


 確かに、アンネマリー様は心配性の気がある。誰かを無視するようにと指示をする冷ややかな一面も。

 けれど、ケント君が言うほど恐ろしい人じゃない。貴族の体面を重んじているから、常識ハズレな事なんてしないし、面倒見の良い面もある。私がみんなから馬鹿にされている時も、いち早く励ましてくれたし。

 

「だから、貴方はちょっと心配し過ぎよ。エリカさんに対しても、アンネマリー様に対しても」

「…どうなんだろうな」


 ケント君は、握った拳を見つめる。


「俺の知っている公爵令嬢は恐ろしい奴だ。特に、王子ルートに入った時の奴は、魔王より厄介な相手なんだ。それこそ、裏ボスと呼ばれるレベルで…」


 ブツブツと、自分の世界に入り始めてしまったケント君。

 悪い癖が出始めたわね。

 私は、彼の視線の先に好物のソーセージを差し入れして、元気付けようとした。

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― 新着の感想 ―
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