44話~貴方が犯人だったのね~
暗闇から突然現れた漆黒の怪鳥。
大きなクチバシと鋭い爪には赤黒い物が付着しており、その獰猛さがより際立つ。羽はランプに照らされ光沢を返しており、ただの羽毛ではない事を主張する。
そして、そのギラつく両の眼は、私達を射抜く様に睨みつけていた。
「なんなの…?この、鳥…」
見たことも聞いたこともない夜のバケモノに、私は恐怖で言葉を漏らす。
それに、怪鳥が威嚇で答える。
【ガァアア!ガァアア!】
その大きな巨体から出る鳴き声は、耳が痛くなる程の大音量。
そして、怪鳥が動く。態勢を低くして、私達の方へと急降下してきた。
【ブフッ】
咄嗟に、ブーちゃんが私を抱えて飛び退く。怪鳥の翼がすぐ近くを通り過ぎ、鋭い風切り音が威力を物語る。
【ガァアア!】
再び空へと舞い上がった怪鳥が、こちらを睨む。攻撃が失敗したことを怒っているのかと思ったけど、よく見ると怪鳥の右足には、さっきまで木にへばりついていたグランビートルが掴まれていた。
怪鳥の狙いは私達ではなく、最初から虫の魔物だったみたい。
「貴方が犯人だったのね」
この怪鳥がみんな食べちゃったから、虫型の魔物が居ないんだわ。他の魔物の数が少ないのも、きっと食べる物が少なくて何処かに逃げちゃったんだろうし。
この怪鳥さえ倒すか追っ払えば、またここも元に戻る気がする。
「ブーちゃん!この子を…」
【ガァアアアア!!】
私が怪鳥を指さすと同時、怪鳥が再びこちらに急降下してきた。まるで、私の敵意を読み取ったかのように。
【ガァ!】
【ブフッ】
鋭い爪を突き立てて飛び掛かって来た怪鳥に、ブーちゃんが拳を振り上げて応戦する。でも、相手は空の魔物。ブーちゃんの拳が当たる直前で空へと舞い上がり、鋭い爪でブーちゃんの皮膚を引っ搔いていった。
「ブーちゃん!」
【ブフフ】
何でもないというように笑い声を上げるブーちゃんだが、そんな訳はない。私は、ブーちゃんの傷を治すために魔力を送るのと同時に、先ほど作った魔法の盾を彼に渡す。
「これで、守りながら戦うのよ」
【ブッハー!】
ブーちゃんのテンションが一気に上がる。やっぱり、盾が好きみたい。
【ブッハハー!ブハー!】
ブーちゃんは雄たけびを上げながら、盾をバンッ、バンッ!と叩く。すると、上空に留まっていた怪鳥の目が鋭くなる。挑発されていると思って、再び前傾姿勢になった。
黒い鏃が、こちらへと急降下してくる。
接触。
【ブッハー!】
一瞬の攻防。怪鳥はかぎ爪を鋭く突き立てるも、ブーちゃんがそれを左手の盾で防いで、すかさず右拳を振るった。その拳が、怪鳥の胴体部分にのめり込んだ。
【アァアアアッ!】
怪鳥の悲鳴。殴られた衝撃で、向こうの方へと吹き飛ぶ。
でも、直ぐに羽ばたいて態勢を立て直し、上空へと逃げ帰ってしまう。また高い所から私達を見下ろして、怒りに震えるクチバシをカチカチ鳴らしていた。
その様子から、怪鳥がより好戦的になっている様子を感じる。ブーちゃんの一撃を喰らったのに、全く戦意を失っていなかった。
やっぱり、あの羽はただの羽じゃないのね。だからこの怪鳥は、ただの鳥じゃなくて鳥型の魔物なんだわ。
【ガァアアア!】
怪鳥が再び襲い掛かって来る。ブーちゃんの拳を恐れてか、先ほどよりも浅くしか攻め込んでこない。その爪の攻撃も魔法の盾を軽く削る程度で、直ぐに空へと戻って行ってしまう。
それでも、私達にとって脅威なのは変わらない。繰り返し行われる急襲によって、盾はボロボロになってしまい、新しい盾を出さないといけなくなった。
それに加えて、暗闇に乗じてあっちこっちから攻めて来るから、いつ裏をかかれるかヒヤヒヤしてしまう。
私なんて、怪鳥が盾を削って初めて存在に気付くレベルだ。きっと1人で対峙していたら、一瞬でヤラレちゃっていたに違いないわ。
だから、他の冒険者達が怪鳥に気が付かなかったのも仕方ないと思う。まるで夜に溶けるように消える怪鳥は、正体不明の幽霊と何ら変わらないもの。
【ブォオオ!】
そんな神出鬼没な怪鳥だけど、ブーちゃんはしっかりと見えているみたいだった。飛び掛かられる前に盾を構えて、爪を防いだらパンチを繰り出していた。
繰り出すんだけど…そのパンチが怪鳥を捉えることはなかった。
【ブホッ…】
【アァー!アァー!】
空振りばかりするブーちゃんに、怪鳥がバカにした笑い声を上げる。俺を捉えてみろよと、煽っているように聞こえた。
【ブフ…】
それに、ブーちゃんは考え込むように顎を撫でる。私の方に首だけ振り返って、盾を指さし2本の指を立てる。
ええっと、2枚目の盾が欲しいってことね?
「プロテクション!」
【ブフーフ!】
出した魔法の盾を、ブーちゃんは両手に構える。こちらを馬鹿にする怪鳥に、盾同士をぶつけ合わせて大きな音を立てる。
バンッ!バンッ!
【ガァアアアア!!】
笑い声から一転、怒り心頭の怪鳥が急降下してくる。ブーちゃんはそれに、左の盾だけを前に出して構え、鋭い爪の一撃を受け止めた。止めると同時、右手の盾を振りかざした。
当然、怪鳥は大きく羽ばたいて素早く体を浮かせる。でも、ブーちゃんは盾の淵を持って振り回していたから、さっきまでのよりも攻撃のリーチが伸びていた。それを見誤った怪鳥は、盾の淵で強烈な一撃を食らっていた。
【ガァア…ガァア…】
怪鳥が弱弱しい鳴き声を上げながら、私達に背を向けて逃げようとしている。ブーちゃんの一撃で片翼をやられたみたいで、飛び方が随分と怪しくなっていた。あっちにフラフラ、こっちにフラフラと、墜落しそうになりながら飛んでいた。
【ブフフ】
そんな怪鳥を見て、ブーちゃんは怪しく笑った。逃すまいとして、右手に持っていた盾を思いっきり投げ飛ばした。
その盾は高速回転して、見事怪鳥に命中…しなかった。投げて直ぐに地面へ突き刺さり、衝撃で消えてしまった。
ブーちゃんにしては珍しく、大きな失敗に終わった。
【ブゥ…】
額に手を当てて、「やっちまった…」みたいなポーズを取るブーちゃん。
でもすぐに立ち直り、私に向かってジェスチャーをする。自分の首を指して、ぐるぐる首に何かを巻く動き…ええっと。あっ、分かった!
「チェーン・バインド!」
魔法の鎖を生成し、ブーちゃんに向かって飛ばす。ブーちゃんはそれを受け取って、残ったもう1枚の盾の取っ手に結びつけた。
そして…。
【ブハハハハハッ!】
鎖をぐるぐる回して高笑いする。
それを見ていると、小さい頃に読んだ絵本のバイキングを思い出す。バイキングが持っていたのは斧や剣だけど、今ブーちゃんが頭上で振り回している鎖付き盾も、十分に脅威だ。当たったら、首が跳ね飛んじゃいそう。
【ブッハハー!】
その驚異的な武器を、ブーちゃんは投げ飛ばす。
今度は真っ直ぐに飛んでいき、フラついていた怪鳥の片翼に巻き付いた。
【ガァア!?】
【ブー、ハァアッ!】
えいやぁ!と、ブーちゃんが漁網を引っ張る様に、魔法の鎖を思いっきり引っ張る。すると、引っ張られた怪鳥は今度こそバランスを崩し、地面へと落下した。
その衝撃で死んじゃったかと思ったけど、地面に倒れて少しすると、また空へ戻ろうとジタバタし始めた。
なんて生命力。やっぱり魔物なんだわ。
【ブフー、ブッハァ!】
死に体の怪鳥に、ブーちゃんが走り寄る。直前で大きく飛び上がって、その大きな両拳を思いっきり怪鳥へと叩き下ろした。
ズンッ…。
重い地響きがここまで伝わって、ブーちゃんの足元で沢山の土埃が舞う。そして、視界がクリアになると、ブーちゃんの足元には黒い塊が横たわっていた。
勝った…のかしら?
「ブーちゃん!」
【ブハ。ブハハ】
私が駆け寄ると、ブーちゃんは黒い塊を両手で広げて、私に見せつけてくる。
それは、怪鳥の亡骸だった。骨と羽だけになり、少しだけ小さくなった怪鳥の死体。
魔物は体の一部をドロップすると聞いたけど、これは肉以外の殆どが残っているわ。という事は、魔物じゃなかったの?
あんなに強くて獰猛だったのに、まさかと思って口を開ける私。
でも、直ぐに勘違いだったと思い知る。ブーちゃんが怪鳥の体から、金色に光る魔石を取り出したからだ。
色鮮やかで高価な魔石。それが体内にあるという事は、怪鳥が魔物だった何よりの証拠。
でも…じゃあ、なんで死体がそのままドロップしたのかしら?
【ブハ!】
怪鳥の亡骸をマジマジと観察していたら、ブーちゃんが目を開いて私の後ろを指さす。
振り返ると、そこには大樹を登る3匹のグランビートルの姿があった。
「まぁ。脅威が去ったと分かって、出てきたってこと?」
なんだか、グランビートル達に上手く使われたみたいで、ちょっと腹立たしいわ。
いえ。そんな事言っている場合じゃないわね。
「さぁ、ブーちゃん。その剥製はボイドにしまって、本来のお仕事スタートよ!」
【ブッハハー!】
ドロップした死体の割合が大きいのは、この怪鳥がそれだけ捕食していたからだと推測されます(ランベルト談)




