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ブタ令嬢の試練~召喚魔術を失敗しただけなのに、私の学園生活が無茶苦茶ですわぁ!~  作者: イノセス


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41話〜ついてないわぁ…〜

 何故だか分からないけれど、今日は変な事ばかり起きている。

 本は倒れて来るし、水を掛けられるし、挙句の果てには階段でアクロバットを披露しちゃうし。


「本当に、今日はなんて日ですの!」


 サモン部へと急ぎながら、私は心の鬱憤を空に解き放つ。そうでもしないと、やっていられなかった。

 そんな時、私の目の前に突然ブーちゃんの腕が生えてきて、何もない空間をブンッとフルスイングした。

 えっ?なに?


 私は驚いて止まってしまったけれど、ブーちゃんの腕が通過したところには何もない。

 …もしかして、虫でも居たのかしら?それくらい、私は平気よ?ブーちゃんは過保護ね。


「いいえ。きっとブーちゃんも鬱憤が溜まっているのね?そうなんでしょ?」

【ブッハー!】


 うんうん。やっぱりそうだったのね。なら、思う存分部活で発散しましょう!

 思う存分…整地作業なんだけどね。


〈◆〉


 私の名前はマクシーネ。ブランブルク伯爵家の次女にして、この学園の2年生だ。

 自分で言うのもなんだけど、勉強も実習も優秀で、希少なファミリアも持つ優等生である。

 だから、伯爵家出身でありながらも最上級のAクラスに配属され、最高位のヴルムント寮に入る事が出来た。

 そんな私が今させられているのは…盗人紛いの下卑た行為だ。


「はぁ…なんで私がこんな事を…」

【シュルルル…】


 私の嘆きに合わせる様に、ファミリアのアイトワラスが舌をチロチロさせる。

 …別に、私を慰めている訳ではない。私達の姿を擬態させている対価を求めているだけだ。

 全く…この子ときたら…。


「オムレツは後払いよ、チョロ助。あんたがまた変なところでふざけたりしなければ、ちゃんと食べさせてあげるから」

【シュロォ〜】


 私の腕に巻き付く呑気な蛇は、赤い舌をペロペロ出して私の指先を舐める。

 この子は呑気で良いわ。私なんて、この仕事が失敗したらと思うと背筋が凍る思いよ。アンネマリー様になんて言い訳したものかと、想像するだけでも恐ろしいわ。


「っと、もう着いたわね」


 考え込んでいたら、目の前に標的のクラスが迫っていた。

 同じ学園なのに、設備に随分と差があるのね。こんな、別邸の倉庫みたいなところが教室なんて…。


 嫌な気持ちを抑えながら中に入ると、外見通りの部屋が広がる。

 こんな場所に入れられた時点で、私なら寝込んじゃうわ。そこだけは、クロエさんを褒めてあげたい。


 私は慎重に教室の中を進む。チョロ助の擬態は影を薄くするだけだから、ぶつかったらバレちゃう。無駄に多い生徒に気を付けないと。

 そうして、無事にクロエさんの机まで辿り着く。そこには、少しくたびれた教科書の山が。

 さて、これを回収して、本人の目に留まりやすい所に置いとけば良いのよね。

 

 私は教科書に手をかける。でも、私の手が触れたのは、冷たい机の感触だった。

 あれ?いつの間にか、机の上にあった筈の教科書が無いわ。ノートも、羽根ペンもない。さっきまで確かにあったのに!


 訳が分からず呆然としていると、クロエさんが教室に入ってくるのが見えた。

 うわっ、ヤバい!

 私は急いで教室から出て、誰もいない場所で一息着いた。チョロ助も疲れたのか、変身をすぐに解いた。


「全く、なんだったのよ」


 なんで机の物が全部無くなったの?私の見間違い?

 …分からない。分からないけど、作戦は失敗した。次に移らないと。


 私はクロエさんの姿が見えるギリギリの範囲で、チャンスを伺う。すると、本を高く積んだ女の子が歩いてくるのが見えた。


「良いね。ナイスタイミング」


 私はチョロ助の擬態を発動させ、彼女達の近くまで忍び寄る。そして、本を持った子がクロエさんの近くまで来た所で、引っ張りの魔法を詠唱した。

 その魔法で、女子学生の足をちょっとだけひっぱる。そうするだけで、女の子はコケて、持っていた本がクロエさんに雪崩かかる。

 

 …筈だったのに、何故か本が倒れない。何かに支えられているみたいに、絶妙なバランスで崩壊が止まっている。

 なんなの!?なんでまた失敗するの!もしかして、クロエさんが何かしているの?

 そう思って彼女を見ても、ただ驚いている様にしか見えない。何かした様には、とても見えない。

 もしかして、凄く幸運な人なの?ファミリアによっては、そう言う効力を得る人も居るって聞いたし…。


 そう考えると、ちょっとだけ弱気になる私。でも、冷たい目のアンネマリー様を思い出して、シャンとする。また、クロエさん達の後を着いていく。

 すると、女神が私に微笑んだ。

 

 クロエさん達が向かう先で水撒きをしているのは、魔法の天才ベンジャミン・グラハム。いつも気だるそうな彼だけど、今日は完全に目を閉じながら魔法で出した水球に自動水撒きをさせていた。

 よしよし。これなら、私でも彼の魔法に細工が出来る。彼の魔法は繊細だから、ちょっと多めの魔力を流してやれば暴発するわ。


 私はグラハムの後ろに回り込んで、構える。そして、クロエさん達が通りかかったと同時に水球へ魔力を送る。すると、思った通り水球が暴発した。

 あっちこっちに小さな水球を発射する自動水撒き球が…うぎゃ!私まで巻き込まれた!くっそ。服がびちょ濡れじゃない!


 テンションだだ下がりの私。その目の前で、更に気落ちさせる光景が広がる。

 大量の水に襲われたクロエさん達だったが、全部プロテクションの魔法で防いでいたのだ。


 うっそでしょ!?あの大量の水球を…不意打ちだった筈なのに、全部防ぐなんて。

 なんて早いプロテクションの生成。それに、目にも止まらない盾捌き。1年生でこれって、相当な魔法使い手よ?もしかしてクロエさんって、かなり優秀な生徒なんじゃないの…?


 私は不安になり、1度アンネマリー様に報告と確認をしに行く。でも彼女は、そんな筈ないと言う。クロエはCクラスの落ちこぼれで、水魔法以外は殆ど使えないのだと。


「遊んでいないで、もっと確実な手段に出て下さい」


 アンネマリー様に突かれて、私は非道な手段を取らざるを得なくなった。放課後。彼女を待ち伏せして、階段から突き飛ばしたのだ。

 ちょうど近くで遊んでいた男子生徒の足元にスリップの魔法を掛けて、その子とぶつかる様にしたのだ。

 それがあまりにも上手く行き過ぎて、体の大きな男子とぶつかった華奢なクロエさんは、勢いよく階段へ吹っ飛んで行った。


 ヤッバ!これ、死んじゃう!

 慌てて浮遊の詠唱を始めた私。でも、それを放つ前にクロエさんが浮いた。クルンと一回転し、見事な着地を見せたのだった。


 うえぇっ!?飛行魔法!?そんな高度な魔法を、なんで1年生が使えるのよ!

 あまりの反則級な出来事に、私は地団駄を鳴らす。逆に、周りからは拍手喝采が沸き起こった。それが余計に、私の心を逆撫でる。

 くっそぉ。こうなったら、直接私が出向いて…コケさせてやるわ。


 私は走り去ったクロエさんの後を追う。侯爵令嬢なのに、かなり足が速い。

 なんなのよ、もう。なんでこんなにスペックが高い人が、アンネマリー様と敵対しているの?ブタ令嬢なんて噂、嘘っぱちだわ。


「なんなんですの!?」


 クロエさんを必死に追っていると、歩調を緩めた彼女が見えた。

 よし。いい子ね。このまま回り込んで、すれ違いざまにスリップを叩き込んであげるわ。

 

 私は杖を構えて、クロエさんに近付く。

 あと少し…あとちょっと…そう、ここでっ。

 そう思った瞬間、何かがお腹を強打した。

 私は吹き飛ばされ、芝生の上を何度も何度も転がる。

 空の青さと芝生の青さが互い違いで視界に写り、全身から痛みの信号が走り回る。


「なっ…ぐぅっ…」


 漸く止まったと思ったら、お腹に激痛が走る。見た感じは何ともないようだけど、きっと打ち身になっていると思う。だって、鉄球をお腹に食らったのと同じくらい痛いんだもの。ハイプロテクションを掛けていてもこれって、相当なものよ?


 私はポケットから緊急用の高級回復薬を取り出し、それを舐める。

 本当はがぶ飲みしたかったんだけど、さっきの一撃で容器が壊れちゃって、殆ど服が吸ってしまっていた。


「ぐぅ…本当に、今日はついてないわぁ…」


 まだ痛むお腹を抑えながら、私は寮への道を辿る。

 兎に角、先ずはアンネマリー様に報告だ。私ではあの人は手に負えない。クロエ・バーガンディは、私にとっての疫病神だ。


 そう、アンネマリー様に訴えた私だったが、彼女の反応は「そう」とただそれだけだった。

 いや、そんな気のない返事。こっちが困るわ。


「アンネマリー様。彼女に手を出すのはやめた方がいいです。得体が知れません。本当に、何かに呪われているのかも知れませんよ?」


 本当に死神が付いていて、彼女を守っているのかも。彼女が死ぬ時期が決まっていて、それ以外を跳ね除けているとか。

 そんなのに憑かれているなら、手を出す方が危険だ。触らぬ神に祟りなしって言うじゃん?


「それで?マクシーネ先輩。クロエさんは懲りた様子でしたか?」

「…元気そうでした」


 私が言葉を絞り出すと、アンネマリー様は残念そうに首を振る。


「罰が下ったと思わなければならないのは、あの子の方ですよ?先輩。殿下とお友達になれる等と夢を見た彼女には、しっかりと反省をしてもらわないといけません」

「反省って…もう手はないと思いますけど?」


 私が思いつく限りの悪逆非道は全部やった。それでも届かないのだ、彼女には。

 次はどうするの?と彼女を見ると、微笑みを返してきた。


「次にどのような手段を取るかは…既に考えていますの」


 ちょっと怖い笑みを浮かべるアンネマリー様。

 あれ?この人って、こんな感じだったっけ?

 私は気持ち、一歩下がった。

イノセスメモ:

アイトワラス…リトニアでヘビの精霊、神様として祀られている。隣人から物を盗み、宿主に富を与えてくれる存在。盗みの対価はオムレツだったらしい。

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― 新着の感想 ―
おぉ!アンネマリー閥総出の包囲網ミッションと思えば、熟練の嫌がらせ職人(違)の方が尽力されてたとはw 先輩として一応、目上扱いされつつも扱き使われる下請けの悲哀 >< 総大将が些事を、露見時の尻尾切…
フハハハハ!!素晴らしい!!やぁっと胸くそ悪く、暴虐なる悪の輩がおいでなすったぁ!!生ぬりぃ学業生活、友人との仲睦まじい日々…それを壊そうとする大悪!!イイ、実にイイ…彼女こそ試練。であるならば…クロ…
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