3話~貴様の欲望を聞かせよ~
みんなの召喚を見ていたら、いつの間にか私達の番になっていた。
私は慌てて立ち上がり、先に行ってしまったサロメさんを追いかける。
観客席の合間を通り過ぎる時、ロイ殿下やアンネマリー様のお姿をお見かけした。
ああ…。こんな大勢が見ている中で儀式をするなんて、とっても怖いわ。1人でこっそりと出来ないものかしら?
無理よね。だって、ファミリアって暴れるかもしれないから、先生達がしっかり警戒する中で1人づつやらないといけない。過去にファミリアが暴れて、死人が出たって話も聞いたことあるし。
でもせめて、先輩達は帰って欲しいわ。
私はステージ前まで降りて、見下ろしてくるみんなを見上げてそう思っていた。さっきまで散々、みんなを見下ろしていたのは私達なのに。
「次!ビリー・オイゲン」
「はい!」
また1人、順番が進む。
ステージに上った男子生徒が神官様の前で跪くと、直ぐに大きな変化が生まれる。彼の周りを白い靄のような物が包み出して、次第にその靄が水の魔法に変わっていったのだ。そして、その水のベールが1つの塊となって、1匹の幻獣を作り出した。
上半身は馬で、お尻は魚の尻尾が生えた奇妙な生物。
「こいつはケルピーだ。水魔の一種だな」
講堂でアナウンスをしていた先生が男子生徒に近づき、そう教える。
男子生徒はそれを聞いて、跳びはねて喜んだ。そして、小躍りしながらケルピーに抱き着こうとした。
「よろしくな!けるぴ…」
「離れろ!」
男子生徒がケルピーに触れる前に、先生がその子の肩をグイッと引き倒した。
それとほぼ同時に、ケルピーが急に暴れ出した。
【ヒヒヒンッ!】
「「チェーンバインド!」」
「拘束しろ!」
猛々しく嘶いたケルピーだったが、直ぐに制圧された。周囲の先生達が魔法の鎖を作り出し、それをケルピーの首に巻き付けたのだった。それだけで、あれだけ暴れていたケルピーは嘘のようにおとなしくなった。
「怪我はないか?オイゲン君」
「は、はい。あの、ありがとう、ございます」
男子生徒がヨロヨロと立ち上がると、先生は眉間に皺を寄せて更に怖い顔になった。
「初めに忠告した筈だ。召喚獣とは距離を取る様にと。こいつらを何でも言う事を聞く奴隷やペットとでも思ったか?」
「い、いえ…」
男子生徒が震えて答えると、先生は「ふんっ」と鼻を鳴らして、私達の方を見る。
「良いか、諸君。互いの信頼関係も築けていない内から近付き過ぎると、今のように痛い目を見るぞ。特に、召喚したばかりはファミリアも興奮状態だ。十分に気を付ける様に!」
「「はいっ!」」
恐ろしい。やっぱり私は、ドラゴンとかの大型幻獣よりも、小型の幻獣か精霊系統が良いな。できたら、平民のエリカさんが召喚したみたいに、可愛いウサギ型のファミリアが欲しい。
「なんですの!?これは!」
私が妄想の幻獣を愛でていると、サロメさんの悲鳴が聞こえた。
見ると、既に彼女はステージに上がっており、召喚の儀を終えていた。
そして、彼女が召喚したのは、赤ちゃんよりも小さな小人。
「レプラコーンだな。手先が器用な妖精で、服や靴を直してくれる優秀な妖精だ」
「そんな小間使いみたいな妖精、私には不釣り合いだわ!私にはもっと、美しくゴージャスなパートナーが相応しくてよ。取り替えてくださいまし」
「んなこと出来るか。召喚ってのは魂の契約。それを引き剥がすってなったら、相当の術者じゃないと出来ない芸当だ。そんな大魔導士は、そうそうお目にかかれないんだよ」
でもそれって、大魔導士様がいたらやり直せるってことよね?
私は少しだけ、心が軽くなった気がした。
それが表情に出ていたのか、帰って来たサロメさんが私をキッと睨んだ。
「なによっ。その顔は。私が大したことない精霊と契約して、嬉しいってこと?」
「ち、違うわ。私はやり直しが…」
「ほら。貴女の番よ。早く行って、それはそれは素晴らしいファミリアを見せて下さいな」
ああ、完全に拗ねてしまっている。これは機嫌を直すのに、相当時間が掛かるわ。
先生にも呼ばれてしまったので、私はサロメさんに一礼してから神官様の元へと向かう。
「クロエ・バーガンディさんですね。私の前でお座りください」
「は、い」
緊張で喉が掠れてきた。大丈夫かな?
神官様の前に立つと、幾つか注意事項を伝えてくる。
召喚したてのファミリアには気を付けてとか、途中で陣の外に出ないでという初歩的なものから、召喚中に気分が悪くなったら手を上げるようにという奇妙なものまで。
「あの、なんで手を上げるのですか?」
「強力なファミリアの場合、魔力をごっそりと持っていかれて気持ち悪くなります。そういう時は、我々も迎撃の準備をする必要があるのです」
神官様はそう言って、魔道具の指輪を見せる。
そう言う事だったのね。でも私からしたら、そっちの方が有難いかも。平民みたいに手のひらサイズの精霊や、ゴブリンみたいな下等魔獣だったら目も当てられないから。
「では、始めます」
神官様はスクロールを広げて、呪文を詠唱し始める。すると、私の周りに白い靄が生まれて、それがグルグルと渦巻いた。
【グルルルゥッ】
風が耳元を掠めて、何かの唸り声の様に聞こえた。
これは…フォレストウルフの声かな?嫌だなぁ、ウルフは。小さい頃、お父様の視察に同行した時に襲われた経験があるから。
あの時は馬車の中でやり過ごして、対処は外の衛兵達に任せていたから、ウルフの姿すら見てないけれど、遠くで聞こえる唸り声がとても怖かったのを覚えている。
もしも召喚されたのが犬型だったら、仲良くできる自信がないな。
【ほう。なかなか見どころのある者が居るではないか】
「えっ?」
今度はしっかりと、人の声が聞こえた。
私は振り返って見るけれど、白い渦が周りを遮っているのでボンヤリとしか見えない。
先生?神官様?
【我の事はどうでもよい。貴様の欲望を聞かせよ。富か?名誉か?地位か?何を望むのだ?少女よ】
「えっ?望み?」
なんか、普通に会話している気がして、私は怖くなってきた。
この声って、あんまり良くない声だよね?言い伝えとかだとこういうのって、悪魔とか悪霊とかが囁いているパターンが多い気がする。それで、望みを言ってしまうと大変なことになるんだよね。
だから私は「何も望みはありません」って言おうとしたんだけど、それよりも先にお腹が鳴ってしまった。
ああっ!また!こんな事なら、サンドイッチをもっと頂いていれば良かったわ…。
【ふっはっはっは!面白い。原初の力を欲するか、少女よ!】
謎の声にまで笑われてしまった。
声は続ける。
【良いだろう、少女よ。其方に、我が眷属を託すとしよう】
「えっ!?眷属?あの!フォレストウルフでも良いですから、私。だから、望みとかそういうのは…」
私が必死に呼びかけても、声は聞こえなくなってしまった。
代わりに、風が強くなる。白かった渦が真っ黒に染まり、周りが完全に見えなくなってしまった。
「おい!この反応はなんだ!?」
「分かりません!異常な反応としか!」
先生達の慌ただしい声が聞こえるけど、私はそのことよりも、目の前に生まれた魔力の塊に目が奪われていた。
真っ黒な球体だ。占い用の水晶くらいの大きさの球が、手の届きそうなところで浮かんでいた。
その球体は周りの霧も吸い込み、平ぺったくなって、頭が入りそうなくらいの穴になった。
そして、その穴から手が生えてきた。
凄く大きくて、脂肪がいっぱい付いた手。それが、バキバキと穴を広げている。
そうして這い出てきたのは、巨人。足は丸太のように太く短く、ブヨブヨの体は見上げるように大きかった。そして、こちらを見下ろす顔には大きなブタの鼻が付いていた。
そう、これは、
【ブフ】
1匹の、オークであった。
酷く肥え太った体を揺らし、脳みそが全く入って無さそうな頭をポリポリと掻く姿に、私は背筋が凍った。
声も、凍った。
「オーク?あれほど異常な反応を見せていたのに、出てきたのがただのオーク?」
「肩透かしでよかったですよ。召喚されたのがドラゴンとかじゃなくて、こんな低級魔獣で助かった」
先生達の会話が聞こえて、凍っていた私の内側が震えだす。
この目の前の醜い生物を召喚したのが、私だという事実を突きつけられて。
そんな、そんなのって…!
「いやぁあああああああ!!!」
私の目の前が、真っ暗に染まった。
初日でしたので、4話連続で投稿させて頂きました。
明日からは1話ずつ、基本18時に投稿いたします。
「毎日投稿か?」
えっと…出来る限り。
「励むのだぞ」
サポート頼みますよ。




