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ブタ令嬢の試練~召喚魔術を失敗しただけなのに、私の学園生活が無茶苦茶ですわぁ!~  作者: イノセス


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30話~瞑想をしとるんじゃないか?~

「ええっ!サモン部に入った!?」

「声が大きいですわよ、エリカさん」


 翌日。

 私は、昨日の事をエリカさん達に報告した。

 報告した途端にこれだ。エリカさんは机の前をぴょんぴょん跳んで、「凄い、凄い」とこちらに眩しい眼差しを送って来る。

 その横では、ハンナさんが心配そうにこちらを見ていた。


「ええっと…その、大丈夫なんですか?クロエ様。戦闘系の部活は怖いと言うか、気性が荒々しいって聞いた事がありますよ?」

「そうなんですの?」


 コロッセオ部とかは、そうなのかもしれない。親の爵位も大事だけれど、本人の腕力が一番に評価される場所。だから、どうしても気性が荒くなりやすくなると。


「でも、大丈夫よ。サモン部は優しい人ばかりだったから」


 少なくとも、昨日会った先輩方で危険な人は居なかった。みんな部活に専念していたし、偉そうにしている人も見かけなかった。

 なんでだろう?心優しくないと、ファミリアが答えてくれないからかな?精霊がファミリアの人とか、大変そうだったものね。


「本当に大丈夫なのか?クロエ様」


 ケント君まで心配そうに聞いてきた。

 そんなに危ない部活なの?


「いや、だって、兼部している人がいっぱい居るんだろ?その中には、コロッセオ部の奴らも結構いる筈だぞ。そいつらはきっと、実力主義だと思うぜ」


 ああ、そう言えばそうだった。

 私がハッとしていると、ケント君は人差し指をピンと立てる。


「特に注意しなくちゃいけないのが、近衛騎士団長の息子であるレックス・モントゴメリーだな」

「えっ!そうなんですの?」


 レックス様と言えば、ロイ殿下とも親しい間柄のお方で、城の警備を統括しているゲオルグ騎士団長のご令息だ。

 騎士団長は爵位で言えばそれほど高くないけれど、その役職は王国内外でも絶対の物だし、実力がないとなれない職業だ。

 その息子であるレックス様も、お父様に似て素晴らしい剣の腕だと噂されていた筈だけれど…。


「レックス様に気を付ける?そんな話、聞いたこともございませんが…?」

「そりゃ、まぁ…今はそんなでもないけどさ。でも、もうちょっとしたら…その…」


 また、ゴニョゴニョ言い始めたケント君。私達を悪役令嬢と言っていた時と同じだ。

 貴方の中の悪魔が囁いているんですの?今度、良いエクソシストを呼んであげましょうか?


「でも凄いよ、クロエ。超人気のサモン部に入部出来るなんてさ。私なんて魔力がDランクで、シロちゃんも戦闘向きじゃないから、とても入れる気がしないよ」

「ただのマネージャーよ?それなら、誰でも入れるんじゃなくて?」

「えっ?そうなの?」


 エリカさんが驚くので、私も驚いた。

 あら?違うの?

 みんなを見ると、ハンナさんが首を傾げる。


「ええっと、マネージャーも魔力とか、才能が必要だって噂されてたと思います…何せ、天下のコロッセオ部と同系列ですから」

「いや。特別な資格は要らないよ」


 ケント君が迷いなく否定する。


「資格が必要なのは部員だけだ。確か、魔力ランクがC以上か、ファミリアが上位個体であることが入部イベン…入部の条件だった筈」


 えっ?そうなの?


「詳しいのね?ケントさん」

「ケントは凄い物知りなんだよ!村の井戸の秘密とか、リーゼ婆ちゃんの弱点も知ってたし!」


 驚きながら褒めると、エリカさんが得意そうに胸を張る。ケント君も、頬を掻いて恥ずかしそうにしながらも、口元がニヤケている。そして、少し得意になって語り出した。


「ちなみに、コロッセオ部の基準はもっと厳しいんだ。魔力ランクがB以上であり、ファミリアで戦うバディーファイトの選手は、最上位クラスの幻獣か精霊を要求されるんだ」

「その基準では、上位貴族ばかりになりそうね」


 魔力ランクもファミリアの質も、身分の差が出やすい傾向にある。それは、貴族が血と家を重んじるからであり、上級貴族であればあるほど優れた血を取り込みやすい。だから、魔力ランクやファミリアで分けると、必然的に身分で分けるのに等しい結果となる。

 勿論、ファミリアにおいては例外が沢山あるけれど。


「でもクロエって、戦闘系の部活に入りたくないって言っていたよね?どうして急に?」

「それは、ブーちゃんの為ですわ」


 私は部活に入るまでの顛末を、簡単に説明した。


「そっか。ブーちゃんが強くなりたいって言ってたんだね。週末に大変な目に遭ったとは聞いてたけど、それが悔しかったんだ」

「やっぱり、クロエ様は優しいです。ブーちゃんも喜んでいるんじゃないです?」


 いつになく力強く言い放つハンナさんだけど、私はそれを直ぐに肯定出来なかった。

 すかさず、ハンナさんが心配そうに聞いて来る。


「えっと…もしかして、喜んでいない…のです?」

「いえ。そう言う訳ではないのだけれど…」


 寧ろ、サモン部での訓練だけで言えば、ブーちゃんはとても喜んでいた。整地用ローラーをゴロゴロ引っ張りまわして、みんなが帰った後も鉄の塊を上げ下げしていた。兵士の訓練については、十分に満足した様子だった。

 でも、自室に帰ってきてからの様子はいつもと違っていた。ジッと目を瞑ったまま座り込んで、かなり疲れている様子だった。

 森から帰ったばかりなのに、いきなり激しい訓練をしたのが不味かったのかな?


 そう思って、その日はマネージャー業務をお休みして、ブーちゃんもお部屋で休養を取ってもらおうとした。でも、ブーちゃんはやっぱり石のように座ったままだった。私が勉強のことで相談すると動き出したけれど、終わるとまた石に戻ってしまった。

 だからこれは、疲れているから座り込んでいるんじゃなくて、何かの訓練なんだと思った。


 

 それを次の日、みんなに聞いてみたんだけれど、誰も分からなかった。物知り博士となりつつあるケント君も、「ヨガかな?そんなトレーニング項目はなかったけど…」と、謎の言葉をつぶやいていた。

 ブーちゃんは、”よが”っていうトレーニングをしているの?

 

「そりゃ、もしかしたら、瞑想をしとるんじゃないか?」


 放課後、サモン部の部活中。

 その事をアクロイド先生に相談してみると、そんな回答が返って来た。


「めいそう…ですか?」

「そうだ。君らのような魔力量に恵まれている者は知らんかもしれんが、魔力が乏しい者は己の魔力を探す為に、そうやって気持ちを集中させる訓練を行うこともあるんだよ」


 そうなの?

 魔力って、こう、最初から傍にあるものって思っていたから、探すなんてした事がなかった。

 それじゃ、ブーちゃんは目を瞑って、自分の魔力を探していたんだ。きっと、それも強くなる為に。

 私は、召喚したばかりのブーちゃんを見上げる。

 すると、アクロイド先生も彼を見上げて、小さく首を振った。


「だが、そうだとしたら可哀そうな事だ」

「可哀そう…ですか?」


「ああ」と先生は頷いて、自身の刻印を指さす。


「ファミリアってのは元々、自分自身で魔力を作り出すことが出来ない存在だ。一説では、こいつらには魔石がないから魔力を生み出せないと言われているが、本当かどうかは定かではない。分かっているのは、こいつらの殆どは術者の魔力を供給されて具現化しているってことと、その供給が途絶えりゃ消えちまうってことだ」

【ブフォフォ…】

「うん?何か言ったか?このオーク」

「そうなんだ…って言ったんだと思いますわ」


 私がそう言うと、先生は「良く理解できるな…」と目を丸くする。

 何となくですから、外れているかもしれませんよ?


「それで、だ。魔力を作り出せないファミリアがいくら魔力を探そうとも、見つかる訳がない。だから、瞑想をお前さんがやるのは可哀そうなことだと言ったんだよ」

【ブフゥ…】


 ブーちゃんが太い腕を組んで、悩んでいる。

 やっぱり、魔力を鍛えて強くなろうとしていたみたい。でもそれがダメだと分かって、少し気落ちしているように見える。


「先生。何とかならないんですか?例えば、魔石をいっぱい食べるとか」

「ほぉ?良く知っているな。魔石を体内に取り込めば、一時的に魔力を得られると」


 先生は声を上げて感心するが、直ぐに肩を落とす。


「だが、それはあくまで一時的に過ぎん。大量の魔力を常に使いたいのなら、術者がそれだけの量をファミリアに供給する必要がある。それ故に、召喚者とファミリアのミスマッチは大きな問題となっているんだ」


 それはよく聞く話だ。魔力Dランクの子がドラゴンを召喚してしまって、召喚すると同時に魔力が切れて倒れてしまうという笑い話。

 分不相応な力は役に立たないって教訓として語られる事が多いけど、召喚者の魔力量を問う物でもあるんだ。


「ですが先生、ファミリアには魔力質があるんですよね?光属性だとか、闇属性だとか。という事は、魔力を持っていると言う事にならないのですか?」

「随分と詳しいな。やはり、サモン部に入った事は、君にいい影響を与えていると見える」


 それは…確かにそうね。魔力質は、オルレアン部長に教わったことだし。


「端的に言うと、それはファミリアが昔持っていた魔力の質だ。魔力を己で作り出していた頃の名残というべきか、魂の器のような物だ」

「魂の、器…あの、先生。そもそもファミリアってどういう存在なのでしょう?普通の魔物とは違うのですか?」


 普通の魔物も、倒すと消えてしまう。魔石がないのは大きな違いだと思うけど、魔石がないのは動物や私達も一緒。だから、余計に分からなかった。

 それは、先生も一緒みたいだった。


「ハッキリとは分かっておらん。だが一説には、ファミリアってのは一度死んだ幽霊や、この現世とは異なる世界…いわば異世界の英霊ではないかとも言われている」

「異世界の、英霊…」


 そう言われて、私はブーちゃんが召喚された時の声を思い出した。

 偉そうな声が眷属を与える…みたいなことを言っていた気がする。

 ブーちゃん。貴方はもしかして、異世界の英雄なの?


【ブフ?】


 そう思って見上げたブーちゃんは、ただ、つぶらな瞳で見つめ返してくるだけだった。

召喚獣と言うのは、謎多き生物ですね。


「生物かどうかも分からんな。異世界の英霊。まるでサーバン…」


ああ、もう、それ以上は禁止です。

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― 新着の感想 ―
なるほど、そういうパターンもあるのですか…黒戸氏は、異世界での経験からあらゆる技術を身に付けていますが…それが世界によっては通用しないこともある、と。魔力がある世界でも、異なる部分はあるのですね…しか…
筋トレしたファミリアが再構成時に鍛錬結果を反映した状態で顕現するのかという実験も面白そうではあるw 俺がダメなら君が居る!と、クロエ嬢の魔力をトレーニング(強制)して「くすぐったいですわぁ!」な展開…
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