23話〜どんどん進むわよ!〜
「なっ!オーク、だと…!」
馬車を押す為にブーちゃんを召喚したら、ヨルダンさんは手を後ろに構え、ルチャーノさんは尻餅を着いてしまった。
あー…そうか。みんな冒険者だから、オークに対しては嫌悪感よりも先に、敵対心が出て来ちゃうんだわ。
しまったなぁと後悔しながら、私も胸元からロケットを取り出す。
「大丈夫ですわ。その子は私のファミリア。私はロゼリア学園の生徒ですの」
「あん?ロゼリアって…あの貴族学校か?確かに、奴らが召喚魔術を使っているのは見たことあったが…こいつは大丈夫なのか?」
ヨルダンさんは、腰に下げたハンドアックスの柄に触れたままブーちゃんを見上げ、馭者も青い顔でうんうん頷いている。
全く。人を見た目だけで判断しちゃって。
「ブーちゃん。馬車を助けてあげて」
【ブフ】
ブーちゃんは荷台の横に回り込んで、埋まった車輪側に手を添える。すると、あれだけ動かなかった馬車が簡単に持ち上がり、片輪が完全に顔を出した。
【ブハハ】
「良いみたいですわ、皆さん。馬車を押して下さいまし」
「ああ?ああ…じゃあ、やるぞ?」
ヨルダンさん達が後ろから押すと、馬車はすんなりぬかるみから抜け出た。
「いやぁ、助かりましたよ!」
馭者がニコニコして、私とブーちゃんの両方に頭を下げる。その後ろで、ヨルダンさん達は呆気に取られていた。
「マジでオークが言うこと聞いてるぞ」
「鞭も使わずに…すげぇ…魔法使いってすげぇ…」
私達はすぐに旅を再開する。
その後も暫く悪路が続いた為、馬車は何度も止まった。その度に、ブーちゃんとヨルダンさん達で馬車を引き上げた。
「しかし、すげぇな、お前のオーク」
悪路が途切れ、順調に馬車が走り出すと、ヨルダンさんが木の実を頬張りながら話しかけてきた。
「職業柄、オークは何匹も見てきたがよ、こんなに躾られたオークなんて初めて見たぜ」
「好き勝手に暴れているのばっかだもんなぁ」
「こうやってナッツなんて食ってたら、腕ごと食おうと突っ込んでくるのが普通のオークだぜ」
2人の会話に、馭者も加わる。
「あっしも昔、オークに馬車を引かせたことがあるんですがねぇ、いやぁ酷いのなんのって。すぐに音を上げるわ、あっちこっちで拾い食いするわ、同じ道をぐるぐる回るわで…鞭打つ手も疲れたんで、3日も経たずに売りさばいちまいましたわ。あんなの、もう二度と買うかと思ってたんですがねぇ…」
そうなんだ。じゃあ、やっぱりブーちゃんは特別なのかしら。
「それに、嬢ちゃんも見上げたもんだ」
「えっ?」
私?
「そりゃそうだろ?貴族ってのは、俺達みたいのをこき使うのが普通。何かあっても、早く対処しろって言うだけのボンボンばかりだ。なのに嬢ちゃんは、俺達と一緒に降りて、貴重な魔法を使って手伝ってくれた。そんな貴族はなかなか居ねぇよ」
「ヨルンさんの暴言に怒らない貴族も、かなり貴重だしね」
「うるせぇ」
そうなの?だって、お父様も領地の視察に行ったときは、良く領民達に声を掛けて、要望とか愚痴なんかを聞いてあげていたわ。だから、庶民が困っている時に手を差し伸べるのが貴族の役割だと思っていたけれど…他の人達は違うってこと?
どうしてかしら?
「クロエお嬢様。森が見えてきましたよ~」
馭者の陽気な掛け声で、私は顔を上げる。1週間ぶりに見るハイドの森が、目の前一杯に広がっていた。
色々と濃密な1週間だったから、もっと経っている気がするわ。
「ありがとう。定刻通りの到着ね」
荷台から降りて時間を確認すると、ちょっと過ぎているくらいだった。あれだけの悪路だったのに、後半でかなり飛ばしてくれたみたいだ。
帰りも使うんだから、ちゃんと定時に来てよね?
ブーちゃんを再召喚し、荷物を持ってもらう。ヨルダンさん達がそれを手伝ってくれて、馬車が発射すると大きく手を振ってくれた。
「じゃあな、嬢ちゃん!楽しかったぜ。またラッセルの街で会ったら飲もうや!」
「気を付けてな~。森の外でも、魔物は出て来るからさぁ~」
「おう、そうだぜ!特に、森の深部に入るときは気を付けろよ!強い魔物も居るからな!」
賑やかな男達を乗せて、馬車はどんどん小さくなっていく。
…さて。
「行きましょう!」
【ブッフー!】
とは言ったものの、先ずは準備だ。
私は、ブーちゃんが背負っていたカバンから必要な荷物を取り出す。大型の魔導ランプに魔物避けの香水、干し肉に低級回復薬、地図の写し。そして、
「じゃじゃーん!どうかしら?」
学校指定の防具だ。簡易ヘルメットに革製の鎧、ガントレットにブーツ。そして万能ナイフ。完全武装である。
本当は基礎戦闘学などで使う用の装備だけれど、きっと冒険にも使えるわ。
装備と一式の道具を私のカバンに入れ、残りはブーちゃんが持ってきたカバンに入れなおし、魔物避けの香水をたっぷりと掛けて茂みの中に隠しておく。
荷物がいっぱいだと、冒険の邪魔になるから。
「さぁ、今度こそ行きましょう」
【ブッフー!】
昼間でも暗いハイドの森へと、私達は分け入っていく。
先頭のブーちゃんがノッシノッシと藪を踏みつけて、私が通りやすい道を作り出してくれる。
私は魔道ランプで周囲を照らした。前回持ってきた小さな明かりとは比べ物にならないくらい、足元が明るくなる。
これなら、小さな宝石でも簡単に見つかると思う。前回は色々と、準備不足だったのね。
それから私達は、暫く周辺の探索に時間を割いた。魔物避けの香水を使っているからか、ホーンラビットやフォレストウルフなんかは見かけなかった。何故かゴブリン達には効果が薄いみたいで、前回と同じように襲ってきた。だけど、それも全部ブーちゃんが片付けてくれた。
そのお陰で、探索に集中できる。
「あっ!」
【ブフ?】
キラリと光るものがあり、私は嬉々と飛びつく。でも、それはただの銅貨だった。
「なんだぁ…」
【ブフフ~…】
残念には思うけど、これくらいじゃへこたれない。寧ろ、前回は見つからなかった物が見つかったんだ。そこは、良かったと思うことにする。
私は銅貨をカバンにしまって、再び探索に戻る。
「あっ、また」
それからかなりの時間が経ち、前回踏み入ったよりも更に奥地まで来ていた。そこで拾ったのは、これまた銅貨であった。
「またかぁ…」
【ブフーフ!】
私が疲れたため息を吐いたのに対して、ブーちゃんは少し興奮気味に鼻を鳴らした。
なになに?この錆びた銅貨がどうしたの?銅貨の…絵を見ろって?
ええっと…あっ!同じ銅貨なのに、絵柄が違う。見た事ない絵柄だから…きっと古い銅貨なんだ!
「もしかして、お宝に近付いてる?」
初代勇者が活躍していたのはかなり昔のお話だから、これが本にあった落し物の一部かもしれない。
いえ。そうに決まっている!
「やったわ!ブーちゃん。きっとこの先にお宝が眠っているんだわ。さぁ、どんどん進むわよ!」
【ブゥ!ブフーフ!】
ブーちゃんがブンブン首を振った。そして、上を指さす。木々の合間から見える空が、少しだけ赤みを帯びていた。
時間が無いってこと?でもね、ブーちゃん。
「今がチャンスなのよ!お宝が、すぐ目の前に眠っているわ!」
【ブッブー!】
ブーちゃんが両手で大きく✕を作り、私の前に立ちはだかった。
なによ!ブーちゃん。邪魔するの?もうすぐ大金が手に入るって言うのに。
…いえ。待ちなさい。無敵のブーちゃんがこれだけ言っているのよ?言うこと聞かなかったら、きっと大変な事になっちゃうんだわ。
「……分かったわ。今日は、ここまでにしましょう」
心では納得出来なかったけれど、私は無理やり体をネジって元来た道を辿る。
本当に、もうちょっとなのに。
そうして、私達は森から這い出て、前回キャンプした辺りで腰を下ろした。私は額の汗を拭って、コップに水を注いで一気に飲み干す。
危なかった。後ちょっとで、遭難する所だった。
森の外は、まだ夕日が出ているから明るいけど、森の中は真っ暗になりつつあった。もしもあの時、もっと深くまで探索していたら、最悪森の中で野宿になっていたかも。
「ありがとう、ブーちゃん。あと、ごめんなさい」
【ブフフ】
ブーちゃんは鍋をかき混ぜながら、陽気に答える。
答えながら彼が鍋の中に入れたのは、持ってきていた野菜と、途中で狩ったホーンラビット肉だ。帰りは香水の効力が切れたからか、良くウサギ達が飛び出してきた。なので、気付いたらブーちゃんの手元には大量のお肉が。
…今回もお腹がはち切れちゃうかも。
【ブフ~フ♩】
ブーちゃんが楽し気に料理をしている。彼は串焼きだけじゃなくて、他の料理も出来るみたい。手際よく野菜も肉も切り刻んで、今では指でパラパラお塩を入れている。
とても早くて凄いんだけど、板の上で食材を切るなんて誰に習ったのかしら?うちのシェフはみんな、手の上で切っていたと思うけど…。
【ブフゥ♩】
味見をして、満足そうに頷くブーちゃん。
うん。そんな細かい事はどうでも良いわ。さっきから、とても美味しそうな匂いがするもの。
早速、頂きましょう。
「女神スノーラ様。貴女の慈しみに感謝します。命を分け与えてくれたウサギと野菜達。そして、美味しく調理してくれたブーちゃんにも感謝を」
お祈りをして、早速一口。
う〜〜んっ!ああ、美味しいわぁ。本当に、なんでこんなに美味しいの?お外で食べるから?
私はあっという間に食べ尽くしてしまい。お腹いっぱいで放心状態になった。
幸せだわ。
そんな風に満喫していたところ、突然、奇妙な音が鳴り響いた。
ギャォオオ…。
「えっ!?な、なに?なんの音?」
随分と遠かったけれど…雷?それとも、森の中から?
「ブーちゃ…ん?」
慌ててブーちゃんを見ると、彼はジッと森とは反対側の方を見ていた。
私もそちらを見ると、小高い丘が見えるだけだった。
なに?何なの?ブーちゃんには、何か見えているの?
私には、何も見えなかった。




