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ブタ令嬢の試練~召喚魔術を失敗しただけなのに、私の学園生活が無茶苦茶ですわぁ!~  作者: イノセス


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1話〜あっ、ごめんね〜

 激しかった馬車の揺れが次第に落ち着き、今では定期的な揺れに変わった。

 きっと、街の中心地に入ったのだろう。そこまで行けば道の石畳がしっかりしているから、馬車も殆ど揺れなくなる。

 それは有難いんだけど、でもそれは、もうすぐ学園に着いてしまうって証拠でもある。


「はぁ…」

「おや?ご気分がすぐれませんか、クロエお嬢様」


 私のため息を、執事のダンカンが耳ざとく拾う。

 それに、私は慌てて笑顔を貼り付ける。


「何を言っているの?ダンカン。高等部生徒として、またこのロゼリア学園に通えることに喜びが溢れ出てしまっただけですわ」

「それは、それは。安心致しました。バーガンディ家の方々にとって、ロゼリア学園に通う事は当然の義務でございますから」


 そんな事、貴方に言われなくても分かっているわ。何度も何度も、お母様に言われていることなんだから。

 学園に入学し、そこで優秀な成績を収め、優秀な人々との交流を深める。そして、高貴な殿方に見初められて、新たな縁を結ぶ。バーガンディ家に生まれたからには、その義務くらいは果たしなさいと、お母様に口酸っぱく言われ続けていた。

 それを思い出すだけで、お腹の辺りがキリキリ痛み始めた。


 私がこっそりお腹の辺りを摩っていると、馬車の小窓がカタカタと開いた。そこから馭者の目が覗き、ダンカンに何かを伝えていた。

 彼がこちらを向いて、嘘くさい笑みを浮かべる。


「お嬢様。もうじき学園へ到着との事です」

「そう、分かったわ」


 私は不満や不安を押し込めて、前を向く。それから直ぐに馬車の扉が開かれたので、最低限の必需品を入れた手提げカバンを片手に、外へと出る。途端に、晩夏の太陽に眩しく照らされた。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様。他のお荷物は全て、学生寮のお部屋に運び入れておきますので」

「ええ、お願いね」


 頭を深々と下げる初老の男性に、私は一言だけ掛けて前を向く。私の目の前には大きな建物が2棟立っている。その内の一つに、馬車から降りた生徒達が列になって向っている。

 これがロゼリア学園の記念講堂。創立から150年が経っているというのに、時の移ろいを感じさせないピカピカな建物だ。


 はっ!いけない。つい見とれてしまったわ。

 私は無理やり視線を引き剥がし、生徒達の波に乗る。すると、周囲の目が私へと吸い寄せられた。


「クロエ様、ご無沙汰しております」

「おはようございます!クロエ様」

「クロエ様。ごきげんよう」


 男爵や子爵家の令嬢達は近くまで来て挨拶をし、伯爵令嬢も態々立ち止まってカーテシーを行ってくれる。


「皆さん、ごきげんよう」


 私も、片手を上げてみんなに答える。でも、ちょっと心苦しく感じていた。

 確かに、親の爵位は私の方が上かもしれないけど、私自身はそんな大した人間じゃない。なのに、そんな畏まらなくてもいいのに…。

 そうは思っても、私は毅然とした態度を取り続ける。だって、他の侯爵家の人達もしていることだから。

 

 そうして、みんなに返礼しながら講堂の階段を上っていると、目の前に一段と煌びやかな集団が待ち構えているのが見えた。

 私はお腹の下に力を入れて、その集団の先頭へと歩みを進める。


「ごきげよう。アンネマリー様」


 私が声を掛けると、談笑中だった彼女がこちらを見下ろす。そして、美しい微笑を浮かべながら挨拶を返してきた。

 

「ごきげんよう、クロエさん。その髪型は、今王都で流行っているものよね?」

「はい。夏季休暇中、父と王都視察に赴いた際に仕立てて頂きました」


 私は縦ロールした髪の束を手で触れながら、アンネマリー様に説明する。

 すると、彼女はその髪をそっと触り、ふっと息を漏らした。


「貴女のプラチナブロンドの髪に、良く似合っているわ。私の黒髪では、こうはならないでしょうから」

「えっ!い、いえ!私の髪なんて、アンネマリー様の御髪には敵いません!どれだけ伸ばしても、アンネマリー様の様に流れるような美しい髪にはなりませんから…」


 私が慌てて言うと、アンネマリー様はクスクスと笑った。


「そうね。人それぞれに良い所があるものよね。私のこの黒髪なら、クロエから貰ったこのイアリングとも相性が良いようですし」


 そう言って、アンネマリー様は髪の毛をかき上げて、片耳を見せる。そこには、私が入学祝いで頂いたペアイヤリングが輝いていた。

 私はつい、大きく頷いていた。


「はい。私なんかより、とっても良くお似合いですわ」


 アンネマリー様とお揃いなのが嬉しくて、少し大げさになってしまった。

 それに、彼女は小さく首を振って、私の耳を優しく触る。


「貴女も良く似合っているわ」

「ありがとうございます!」


 嘘でも、アンネマリー様に褒められなんて嬉しい。今日は良い日だわ。


 私が心を浮かせていると突然、背中に小さな衝撃が加わった。

私は何とか足を踏ん張り、転倒を免れる。そして後ろを振り向くと、目をまん丸にした赤毛の少女がこちらを見ていた。


「あっ、ごめんね。背中が当たっちゃった」


 少女は片手を上げて、軽く謝る。

 その品のない謝り方や色艶のない髪色から、相手が平民だと何となく分かった。

 きっと、学園の特待生制度で入ってきた子だと思う。中等部では居なかったけれど、高等部からは1クラスが埋まるくらい平民が入って来るとお姉様から聞いていた。


 そっか。平民か。なら、仕方ないわね。

 私は、ブドウ畑で働く領民達を思い浮かべて、ムカッと来た心を鎮める。そして、「気を付けなさい」と釘でも刺そうと顔を上げた。

 でも、私が何か言うより先に、アンネマリー様の後ろからキンキン声が響いた。


「まぁ!なんて非常識な方ですの!?侯爵令嬢であるクロエさんを突き飛ばしておいて、そんな態度で許されるとお思いなんて、信じられませんわ!」

 

 そう言って少女の前に出てきたのは、ライトブラウンの髪を後ろできつく結んだ少女、サロメさんだ。

 元々つり目の彼女は、更に目を細めて少女を睨み上げる。


「貴女、お名前は?」

「あたし?えっと、エリカだよ!」

「エリカ?苗字が無いって事は、まさか平民?平民風情が、貴族を突き飛ばして平気な顔をされていますの!?」


 金切声を上げるサロメさんだが、顔には黒い笑みが見え隠れしている。

 この顔は、最初から相手が平民だと分かって話しかけた顔だ。そんなに平民をいびりたいのかしら?


 向き合う2人をポケ〜っと見ていたら、急にサロメさんがこちらを向いた。


「どうされます?クロエさん。この不届き者に相応の罰が必要だと私は思いますが、貴女もそう思いませんこと?」

「えっ?いやぁ、私は…」


 一瞬、そこまでしなくて良いんじゃない?と、本音が零れそうになる。

 でも、サロメさんの鋭い視線や、彼女の後ろでこちらを見下ろすアンネマリー様の目を見て、その解答は不味いと直感が働く。

 そして、重々しく頷く。


「私もそう思いますわ、サロメさん。平民とは言え、今日からは貴女も学園の生徒なのですから」

「そうですわ!この学園の生徒として、貴女の様な人は相応しくございません。今すぐに荷物を纏めて、この学園を去るのが当然ですわ!」


 サロメさんが更に前へ出て、エリカさんに詰め寄る。

 迷ったけど、私もなるべく厳しい目で彼女を睨みつける。

 そうしていると、エリカさんの後ろから誰かが走ってきて、彼女とサロメさんの間に入り込んだ。

 男子生徒だ。


「おい!止めろよお前ら!」

「誰ですの?貴方。急に割り込んできて」

「俺はケント。エリカの幼馴染で同じ平民だ。でも、試験を受かって今日からあんたらと同じ学園生徒だよ。同じ生徒なら、平等に扱うのがロゼリア学園の筈だろ?」


 両腕を広げ、背中にエリカさんを回すケント君。彼女を守りながら、私達に強い視線で訴えかけて来る。

 それを、サロメさんが鼻で笑う。


「ふんっ。いいですこと?私達と同じ学び舎で、同じ質の授業が受けられる。それがロゼリア学園が(うた)う平等よ。それがどれだけ有難い事かも分からずに、更なる権利を主張するなんて…やはり庶民は厚かましいですわね」

「なんだと!」


 ケント君が拳を握り締め、サロメさんが右手の指輪を触る。その指輪には、赤い加工魔石が埋められていた。

 あれは護身用の指輪。ただ魔力を込めるだけで、何回かファイアボールの魔法が使える魔道具だった筈。


 これは不味いわ。止めないと、入学初日から大事になってしまう。でも、どっちを止めたらいいの?

 迷う私。そこに、


「そこまでよ」


 静かな声が、その場を支配する。

 アンネマリー様だ。


「サロメさん。ここは私に免じて、(ほこ)を納めて下さらない?」

「はい。アンネマリー様」


 怒り狂っていたサロメさんは一転、ニコニコ顔で頷く。

 それを満足そうに見た後、アンネマリー様は平民達にも視線を向けた。

 

「ケントさんとエリカさんも。この場は不問としますので、どうかお引き取りを」

「…分かった。行こう、エリカ」

「う、うん」


 2人が講堂の方へと歩いていくのを見て、アンネマリー様は私達を振り返る。


「さぁ皆さん、行きましょう」

「「はいっ」」


 私達はアンネマリー様の後に続き、階段を上っていく。

 私達が講堂の入口に差し掛かると、その左側には長い行列が出来ていた。

 平民の生徒達だ。彼ら彼女らは、特権階級(わたしたち)全員が入場するまで講堂に入れないことになっている。


「ケント。もう殴りかかっちゃダメだよ」

「分かってるよ、エリカ」


 勿論、その列にはエリカさん達も並んでいた。

 彼女達を追い抜く時、ケント君の鋭い視線と共に囁き声が聞こえた。


「良いか?エリカ。アンネマリー公爵令嬢。それに、クロエ侯爵令嬢。この2人には特に注意するんだ」

「えっ?なんで?」

「なんでってそりゃ…あいつらが悪役令嬢だからだよ」


 アクヤクレイジョウ?

 彼の言っている意味が何なのか、私には分からなかった。

 でも、不思議と耳に残る言葉だった。

※カッコの使い方について。

「」…通常の会話。

『』…拡声魔道具を使うなど、媒介を通して発した言葉(生の音声ではないセリフ)

【】…魔物などが発する鳴き声。

〈〉…看板や書物に書かれた文字。←〈◆〉視点切り替えは例外。

()…私の補足など。

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― 新着の感想 ―
ケントさんが前作の後書きで上司さんがおっしゃってた方ですかね? クロエさんが悪役令嬢?似ても似つかないような気もしますが…… ただ、周りに流されるタイプのようですので、それが原因なんですかね?
転生者、ねぇ…きな臭い…エリカという方が主人公のラブコメ、もしくは、それを題材としたゲームを模倣した世界の可能性…なのに、転生したのは、その幼馴染みの方…気になりますねぇ…
アクヤクレイジョウが何なのかは知らないが、髪型をドリルにすると異世界から数奇な運命が宿ると思う!w
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